第246話 いつもの日常へ戻りたい
『その言葉、聞いたことがあるかもしれない』
"魔人"という言葉について、なにか知っていることはないかと聞いてみたところ……聞いたことがあるかも、とナタリアちゃんは言った。
正直、可能性があるとしたら、ダークエルフのルリーちゃんかなと思っていたので……驚いている。
「え、え、聞いたことあるの? どこで!?」
「え、えっと……」
「エランさん!」
「あっ、ごめん」
予想もしていなかった言葉に、ついついナタリアちゃんの肩に掴みかかってしまった。ルリーちゃんにすぐ止められたけど……やってしまった。
謝ると、ナタリアちゃんは「気にしないで」と笑ってくれたけど。
それからナタリアちゃんは、顎に指を当てて考え始める。
なんだろうその仕草……かわいいのに、ナタリアちゃんがやるとかっこよくもなる!
「正直、そこまで詳しく覚えているわけじゃないんだけど……」
「なんでもいいよ! ちょっとでも情報がほしい!」
魔人がなんであるかは、レジーが話していた通りだとしても……なにか他に、知らないことがあるかもしれない。
知っていることがあるなら、なんだって話してほしい。
「この眼……"魔眼"の元の持ち主だったエルフが、確かそんなことを言っていたような……」
「エルフ……」
ナタリアちゃんは、自分の右目を上から押さえて話す。"魔眼"と呼ばれる、エルフの眼がそこにはある。
ナタリアちゃんが"魔眼"を持っている理由は聞いている。死にそうだった彼女に、あるエルフが自分の眼を移植することでその命を繋いだのだとか。
そのエルフが、口にした言葉。それが、魔人、か。
やっぱりというかなんというか、エルフがそういうこと知ってるっぽいなぁ。
「ナタリアさんを救ってくれたエルフが、ですか」
「うん。と言っても、当時の記憶はあんまりないんだ」
「無理もないよ。死の間際だったんでしょ?」
死に際に、エルフに救われた……その時の言葉の、ほんの一部だけでも覚えていたのは、すごいことだ。
ただナタリアちゃんは、覚えてない自分を不甲斐なく思ってるみたいだけど。
「その、ノマさんが魔人、っていうのは……大丈夫、なんでしょうか。あんまり、いい響きじゃないですし」
「それを調べるためにも、もうちょっと検査が必要なみたい」
一応、ノマちゃんの症状……というか現状というか、それがレジー曰く魔人という存在だ、というのも王様に伝えた。王様経由で、マーチさんにも伝わるだろう。
マーチさんは、ノマちゃんを調べてくれている。ノマちゃんいわく、あらゆる開発研究の分野ですごい人みたいだし。
私にはわからないことも、ちゃんと調べてくれるはずだ。
「そうですか……そうですよね。いろいろと、わかればいいですけど」
心配してくれるルリーちゃんは、本当に優しいなぁ。ノマちゃんとは部屋も組も違うけど、仲良くしている一人として、ルリーちゃんにとって大切な友達だ。
確かに、わからないことがわかったら一番いいけど……私としては、無事に帰ってさえきてくれれば、それでいい。
一度は、死んでしまったかもしれないと思ったんだ。だから……
「ノマくんのことは、専門の人に任せよう。ボクたちには、別に気になることもあるし」
「気になること?」
「今学園は無期限で休校になっている。でも、それも解かれるんじゃないかな。
なんせ、"魔死事件"の犯人は捕まったんだ……少なくとも、世間的にはね」
ナタリアちゃんは、ベッドに腰掛け足を組んだ状態で、話す。気になること、それは学園の今後だと。
学園は今休みになっている、その理由は学園の敷地内で事件が起こったからだ。
その事件の犯人が解明されるまで、学園には通えない……
でも、犯人は捕まったんだ。ならば、学園が休みになる理由もないだろう。
「問題は、元々この国で"魔死事件"を起こしていた犯人が、またなにかしでかさないかだけど……」
「……大丈夫だよ、きっと」
"魔死事件"の犯人、ルラン……事件が別に起こっていたことは話したけど、ルランのことは二人には話していない。
またルランが事件を起こす。その可能性だって、ゼロじゃない。……だけど。
もう、ルランはあんなことはしない。そう、思えるんだ。だからって、これまでやってきたことがなくなるわけじゃない。
いずれは、なんらかのバツがあると思う。いや、ないといけない。けど……
「? なんですか?」
「いや、なんでもないよ」
思わずルリーちゃんを見つめてしまった。変に勘繰られるわけにもいかないから、笑って誤魔化しておいたけど。
いつかは、本当のことを話さないといけない……けど。
リーサと直接会っちゃったわけだし、その日もそんなに遠くないのかもしれない。
「しかし、同じ学園に通ってて、同じ女子寮にいるのに……休校になっただけで、みんなとは案外会わないものだね」
ナタリアちゃんが言うように、休校になってから人と会うことが格段に減ったな。クレアちゃんたちとは、連絡を取ってたりはするけど。
それでも、以前に比べると会う頻度は格段に減る。
女の子同士でこれなのだ。
「男の子とはもっと会わないもんね」
結局、ダルマスとは放課後の特訓をするようにはなったけど休校になってからは、お互いノータッチだ。
わざわざ休みの間に会うってのも、人に知られたくないっていうダルマスからしたら望ましくはないだろうし。
あれから連絡も取り合ってないもんなぁ。
「おや、もしかしてエランくんは、会えなくて寂しい男子でもいるのかな?」
「そ、そうなんですかエランさん!」
……なんてこった、なんか変な誤解をされてしまった。
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