第245話 帰宅してからのこと
「うへへへへ」
「どうしたんだいエランくん、帰ってきてからずっとニヤニヤしているけど」
王城での一件が終わり、私は魔導学園女子寮の自分の部屋へと帰ってきていた。
自分の部屋、とはいっても今は、ってことだ。本来の自分の部屋は、今出入りできなくなっているからね。
なので、一時的にお邪魔させてもらっているのが、ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋だ。
さっきようやく帰ってこれたわけだけど、どうやら私はニヤニヤ笑っていたらしい。やだ、なんか恥ずかしい!
「え、えー? 別になにも、ないけどー?」
「……怪しい」
必死にごまかす私を、ナタリアちゃんは疑わし気に見つめてくる。
うぅ、視線が痛い。
私が笑顔である理由は、もちろん決まっている。王様からもらった、国宝の魔導具のことを考えてだ。
本当なら、めちゃくちゃ自慢したい。こんなすごい魔導具もらったんだよー、って、すごく自慢したい!
だけど……
『あまり、その魔導具については口外しないようにな。魔導具欲しさに、何者かが狙ってくるかもしれん』
と言われてしまったからなぁ。バレたら狙われるくらいなら、そんな危ないご褒美にしなければいいのに。
……いや、ご褒美がお金だったとしても、大金を持ってると知られたら結局は狙われてしまうかもしれない、か。むしろお金の方が狙われるかもしれない。だったら、あんまりおおっぴらに言うことは出来ないな。
それに、ゴルさんと先生も、誰彼構わず魔導具の存在を明かすのはよくないと言っていた。なぜか疲れた顔で。
「え、えへへへ……」
「いいじゃないですか、無理に聞き出さなくても。はい、どうぞ」
「あ、ありがとー」
二人になら話してもいいんじゃないか……そう思っていたところへ、コト、と机にコップが置かれる。ルリーちゃんがお茶を淹れてくれたみたいだ。
私はそれをありがたく受け取って、お茶を飲む。ごくごくっ……ぷはぁ、五臓六腑に染みわたるぅ!
「それにしても、やけに帰りが遅いとは思っていたけど……」
「まさか、魔獣が現れたなんて。大丈夫だったんですよね?」
「うん、この通りピンピンしてる」
私が王城に向かってから、帰って来るまで。おおかたなにがあったかは、二人に話している。
王様が私を呼んだ用件、魔獣が現れそれの対処をしていたこと、魔獣を操っている人間がいたこと、そいつが黒髪黒目だったこと。
……ルランの件は、やっぱり黙っている。
「というか、魔獣を倒したのはゴルさんと先生だからね。私は最初少し戦っただけだし」
「ボクは魔獣ってのは見たことはないけど、強大な存在だってのはわかるよ。それを倒したっていうんだから、やっぱりすごかったんだろうな」
「そりゃもう。国の兵士さんたちでも敵わなかった相手を、たった二人でね」
「その魔獣を操っていた人物を捕まえたエランさんも、すごいと思います!」
「あはは、ありがと」
王城へ行って、用事が済んだらすぐ帰ってくるはずが……思わぬ事態に巻き込まれ、帰宅が遅れてしまった。
魔導学園は、王城から離れているからあまり騒ぎにはならなかったようだ。ただ、あの場にはダークエルフや魔獣といった、いつもの日常にはない魔力があった。
キリアちゃんを始め、魔力の流れを敏感に感じ取れる人は、異変があったとわかったかもしれない。
「でも、よかったです。ノマさん、ご無事なんですね」
「ホント、安心したよ」
二人が笑う。そう、本題はこれだ。
そもそも私が王様に呼ばれた理由。二人も気になっていただろうことを、私はちゃんと話した。
ノマちゃんが無事生きていて、まだ検査は必要だけど、王様の計らいで私に会わせてくれたこと。
「まあ、被害に遭ったノマちゃんを最初に発見したのが私だから呼ばれた、って理由が大きいけどね」
「でも、ノマくんを襲ったのは、捕らえた人間だったんだろう? それに、それより前に学園内で起こった事件も。
エランくんの無実は証明され、もう事件が起こることはないってことだ」
「まったく、エランさんを疑うなんて万死に値します」
「あはは……」
実際に、私は疑われていた。表立ってジャスミルおじいちゃんに疑いの言葉をかけられたけど、王様も実はどう思っていたのか。
でも、レジーを捕まえて。彼女が自ら事件を起こしたと話したことで、事件を起こしたのは彼女だと伝え引き渡した。
ただ、ルランが起こしていた事件についても、まとめてレジーがやったことになっているのが、なんともなぁ……なんだけど。
ノマちゃんをあんな目に遭わせたレジーは許せないし、正直ざまあみろと思ったけど……さすがに、すっきりはしない。
「それで……"魔人"、だっけ。今のノマくんの状態は」
「……うん」
ノマちゃんの体に起こっている異変についても、二人には話した。これは別に、口止めされてないしね。
もちろん、これも誰にでも話していいとは思わないけど。
ただ、ノマちゃんを本気で心配してくれている二人には話しておくべきだと、私は判断した。
それに……
「聞いたこと、ないかな」
私以外の、意見を聞くためだ。この話を知っているのは、直接話を聞いた私とゴルさん、先生。王様におじいちゃんにマーチさん、さらに城の一部の人間だろう。
そして、ルリーちゃんとナタリアちゃん。普通に考えれば、これまで手掛かりの情報がなかったので、二人に聞いても望みが薄いように思うけど……
ルリーちゃんはダークエルフで、ナタリアちゃんはエルフの"魔眼"を持っている。他とは違った視点がある。
なので、二人はなにか、知らないか。そうちょっとした期待はあった。
「……私は聞いたことないです」
少し考える素振りを見せ、ルリーちゃんは答える。ルリーちゃんが嘘をつくはずもないし、それは本当のことなのだろう。
自分の不甲斐なさを感じてか「ごめんなさい」と謝りさえするルリーちゃん。
「いや、そんなに気にしないでってば! 言ってみればほら、ダメ元みたいなものだし! ね、ナタリアちゃん!」
「その言葉、聞いたことがあるかもしれない」
「えぇ!?」
ルリーちゃんをフォローしようとしたら、思わぬ言葉が返って来てしまった……!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます