第220話 あいつらの仲間



 ダークエルフじゃない……目の前の人物は、確かにそう言った。

 褐色の肌、銀色の髪、尖った耳……それら、特徴的な外見をしながら、自分はダークエルフじゃないと、言ったのだ。


 あなたは、ダークエルフじゃない……そう言ったのは私なんだけど、実際に認められると、ちょっと変な気持ちだ。


「なにが、目的?」


「おいおい、警戒するなよ。アタシの目的は、アンタだ。そのために、こーんなクソみたいな種族の格好までしたんだ」


「……私?」


 ダークエルフを騙る何者かに、私の警戒心は上がる。それを察して、その人物は両手を上げ、抵抗の意思はないことを示してきた。

 その体勢のまま、言う……目的は、私だと。


 どういうことだろう。なんで、ダークエルフだと偽っている人が、その理由が私にあると言うのか。

 しかも……偽っていおいて、ダークエルフのことを、悪く言うなんて。


「そう。さっきも言ったように、ダークエルフなんかと仲良くしてるもの好きがいるって聞いてな……興味が湧いた。

 だから、この格好をして町中を歩いてりゃ、会えるかと思ってたんだがな」


「はぁ……」


 私に会いたいから、ダークエルフの格好をした……つまりはこういうことか。いや、なんか考えが飛躍しすぎてない?

 それに、私とランノーンが会ったのは、ダークエルフ関係なしに偶然だし……


 というか、当たり前のように話しているけど……


「それ、魔法で姿を変えてるってことだよね」


「あぁ、まあ正確にはちょっと違う。自分でも思ったはずだ、私に対する周囲の反応の差を」


「!」


 そう、おかしいと思った。周囲の人は、ランノーンをダークエルフだと認識した。でも、今はそうではない。普通の人間みたいに、こっちを見向きもしない。

 けど、私はずっとダークエルフに見えている。少なくとも外見は。


 これって、私と周囲の人たちの間に、認識の差があるってことだよね。


「まあ、そういう魔導具がある……って言やぁ、どうやってなんて疑問は解消されるだろう?」


「……そうだね」


 ランノーン似対して、私と周囲の人たちとの間で認識の差がある……でもそれは、深く考える必要のないことだ。

 魔導具というものには、認識をずらすフードとか、魔力を吸い取る剣とか、いろんなものがある。


 人によって認識を変える、といった魔導具だって、あるのだろう。それを使えば、今みたいな状況ができあがると。


「それで、私に会いたいって……私、そんな有名人?」


 この人がダークエルフのふりをしている理由は、私に会いたかったからだという。ならば、私に会いたいその理由は、なんだ?

 私は、少し冗談交じりに、聞いてみた。


「まあ、そうだな……さっき言ったように、アンタはダークエルフと仲良くしている人間だ。

 つまり、アンタを追えば、そのダークエルフを殺せる……ってことだろ」


「……は?」


 でも返ってきたのは、予想もしていなかった言葉だった。

 私が目的じゃなく……私の近くにいる、ダークエルフが目的……


 つまり、こいつの狙いは……ルリーちゃん!?


「……おっと、すんげー鬼気。ダークエルフを殺せるって話しただけでそれとか……そのダークエルフ、よっぽど大事らしいな。

 確かルリー、だったな」


「お前……ルリーちゃんになにするつもりだ!」


 しまった……この人に、ルリーちゃんの名前を教えてしまった!

 いや、どっちみち私にダークエルフの友達がいるって情報は掴んでいたみたいだから、バレるのも時間の問題だったか……


 この人、ルリーちゃんを……ダークエルフを、探している。わざわざこんな人の多いところで、あんなたくさんの人の前でダークエルフに化けて、足まで怪我をして。

 そうまでして、どうしてダークエルフを……なんの、目的で?


「だって、許せねぇじゃん……あんときの、生き残りがいたとかさ」


「……は?」


「けどさ、嬉しくもあるんだ。生き残った奴がいたってことは、またダークエルフをヤれる楽しさを味わえるってことだろ?

 そんなの……たまんないじゃん」


 彼女が、ダークエルフを狙う理由……それを聞いて、私は意味がわからなくなった。

 生き残り……生き残りって、なんだよ。生き残りって、あれだよね……生き残った人って意味、だよね。


 ダークエルフの、生き残り……それを聞いて私は、一つ思い出したことがある。ルリーちゃんの過去……ダークエルフの森を燃やし、ダークエルフたちを殺していった人間。

 あの事件の、生き残りがルリーちゃんだ。ルランや、リーサもいるけど。


 その件だとしたら、この人が生き残りを探している……って、ことは……


「あなた、もしかしてエレガやジェラって人間の仲間!?」


 ダークエルフを、殺し……ルリーちゃんから仲間と故郷を奪った人間。二人組の男女で、エレガとジェラと呼ばれていた。

 この人も、あの件に関わっているのなら、あの二人の仲間である可能性が高い。


 そう、聞いた瞬間……ランノーンは、大きく口を開いた。


「えぇ? 何でアイツらのこと知ってんの? マジウケるんだけど。

 ……それとも、アンタ実はお仲間とか? 同族のにおいがしたし。その髪の色に瞳の色……」


「ふざけないで!」


 確定だ。ランノーンは、エレガとジェラの仲間。ルリーちゃんの話や、私の夢には出てこなかったけど、あのときあの場にいた可能性が高い。

 こいつも、ルリーちゃんたちの敵の一人……!


 それと、とても心外なことを言われた。私が、ルリーちゃんの故郷を滅ぼすような奴らの仲間だって? 冗談も休み休み言ってほしい。

 確かに、私とあいつらには似た特徴がある。この世界では珍しいとされる、黒髪黒目。


 けど、それだけの理由で、お仲間だなんてごめんだ。


「……あんたも、もしかして……」


「ふふ、そうさ……」


 笑うランノーンの、きれいな、銀色の髪……それは、色が変化していく。

 銀色から、黒色へと……

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