第213話 ダークエルフの処遇



「ダークエルフ……だと!?」


 その報せは、部屋中に響き……みんなに、驚きを与えただろう。

 私だって、驚いたうちの一人だ。もしかしたら、この中で一番私が驚いていたのかもしれない。


 この国で、ダークエルフが発見された……この兵士さんは今、こう言った。本人の表情は切羽詰まっているし、王様の前で嘘なんてつかないだろう。

 だとしたら、この報告は本当のことということだ。少なくとも、そういう報告が挙げられるなにかがあったっていうこと。


 たった今、ダークエルフが"魔死事件"の犯人だ、私が容疑者だという話をしているこのタイミングで……

 いや、問題はそこではない。


「……っ」


 驚きに漏れそうになった声を、私はなんとか押し殺した。ここで反応を見せたら、余計に疑われてしまうと感じたからだ。

 私の驚きの理由は……この国のダークエルフに、心当たりがあるからだ。


 ……まさか、ルリーちゃん……?


 そんなはずはないだろうと思う。思いたいけど……違うという確証はない。

 ルリーちゃんは、認識阻害の魔導具を身に着けている。だから、普通にしていれば正体がバレることはないけど……それも、完璧ではないだろうし。


 それとも、ルラン? いやリーサ? "魔死事件"を起こしていたルランは最近はおとなしくしていたみたいだけど、リーサとはこの間会った。ってことは、ルランもまだこの国にいるのだろうし。


「それで、発見したダークエルフというのは?」


 一瞬動揺を見せたけど、さすが王様。誰よりも早く冷静に、現状を確認している。

 それを受けて、兵士さんも王様を見つめ返す。


「現在、行方を追っています。ダークエルフを見かけたと通報があり、現場に駆けつけたところ血痕を発見。

 それを追いかけ、負傷しているダークエルフを発見。逃亡したためそれを追跡していますが、奴は足を負傷していました。捕らえるのは時間の問題かと」


「……!」


 発見したダークエルフは、負傷している……それも、逃げた先の追跡ができるほどの血痕を残しているとなると、かなり出血していると考えられる。

 ダークエルフだと見てわかったってことは、ルリーちゃんみたいに認識阻害の魔導具を使ってなかったってことか。


 それにしても、このタイミングでダークエルフ……なにが起こっているんだろう。


「もしかして、フィールドさんの言っていたダークエルフではありませんの? 犯人が現れたんですのよ!」


「その可能性は高いかもしれないな」


 謎のダークエルフの存在に、ノマちゃんと先生は、それが"魔死事件"の犯人ではないかと疑っている。

 きっと、二人とも私が犯人じゃないと思っているから……私の言葉を信じてくれているから、そんなことを。


 ただ、もしそのダークエルフが"魔死事件"の犯人なら、それはルランということになるけど……


「だが負傷しているとはいえ、魔力で一時的に痛みを感じさせなくすることはできるだろう。それに、ダークエルフといえどエルフ族は、魔力の扱いに長けていると聞く」


「はい。ですので、最新の注意を払って動いています。相手は一人、女ですが……油断はしません」


「!」


 今、女って……ダークエルフは、女だって言った! ルランじゃあない!?

 もしかして、リーサ……? それとも……まさか、ルリーちゃんじゃあ……!?


 悪い予感ばかりが、広がっていく。いやルリーちゃんは、学園の寮にいる……今日は授業がないから、ずっと寮にいる、はず。少なくとも私が部屋を出るときまでは、居たし。

 いや、休校になったからこそ、外出しちゃうんじゃないのか? そのせいで、運悪く正体がバレたりして……しかも、足を怪我したって。

 ただ転んだだけ? そんなニュアンスじゃない。じゃあ誰かに、傷つけられた? もしそんなことになっていたとしたら……


「どうされました、エラン・フィールド殿。お顔が優れぬようですが?」


「! ……別に、なんでもないよ。ちょっとトイレ我慢してるだけ」


 あのおじいちゃんめ、私の顔色までうかがっているのか……

 ダークエルフが出たことで、おじいちゃんはどう思っただろう。そのダークエルフが犯人と思っているのか、私が罪を押し付けようとしたダークエルフが実在したことに驚いているのか……


 ……私とダークエルフが、共犯の可能性を疑っているのか。


「気になっているのではないですか、ダークエルフのことが」


「……そりゃあ、気になるよ」


 ルリーちゃんだとは思いたくない。リーサだとも。だったら、いったい誰だ?

 ダークエルフはそもそも、昔人に滅ぼされたはず。ルリーちゃん視点だと、お兄ちゃんやリーサが生きていることも知らなかったから、どれだけ生き残りがいるかはわからないけど……


 生き残りがいたとして、この国に現れたのか? なんのために?

 ……この国にルランやリーサ、ダークエルフの仲間がいると知れば、来る価値はあるか。


 ダメだ、考えがまとまらない。直接会いたい、そのダークエルフに。会って、話がしたい!


「……ダークエルフを捕まえたら、どうするの」


 もしも、ダークエルフを捕まえて……この王様の前に連れてくるんなら。私も会えるチャンスはある。それなら……


「無論、ダークエルフなど処刑に決まっているでしょう。その者が、これまでの"魔死事件"に関わっていようといまいと、ね」


 ……それなら、話す機会があるかもしれないと、そう思った。ダークエルフに対する、負の感情をみんなから少しでも和らげることはできないかと。そう、思った。

 けれど……あまりにもあっさりと、ダークエルフは処刑すると、そう、告げられた。


 あまりにも、あっさりと。

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