第145話 集められたその理由は



 ゴルさんたちのお言葉に甘えて寮に帰宅した私は、ノマちゃんに詰め寄られた。とはいっても、心配してくれていたようだけど。

 そりゃ、全生徒が速やかに帰るようにって先生から指示があったのに、私はこんな時間まで帰らなかったんだもん。


 なのでノマちゃんには、生徒会の仕事で遅くなった、と言っておいた。一応嘘ではないし。

 詳細は話せないため、なにをしていたかまでは固く口を閉ざした。


 まあ、明日には先生から、なんらかの話はあるだろう。学園内での殺人……これを隠し通すわけには、いかないだろう。


「もう、心配しましたのよ」


「ご、ごめんって」


 何度も膨れるノマちゃん。それだけ、私のことを心配してくれていたのだと思えば、嬉しかった。

 その後は、食堂で食事をして……思いの外、いつも通りの時間を過ごした。学園内で事件があったと知る生徒は少ない。


 私は、お肉は食べたくなかったのでお魚にした。ちなみに、ルリーちゃんとキリアちゃんもお肉は避けたみたいだった。

 ルリーちゃんはダンジョン内で"魔死者"を目撃。キリアちゃんも、死体を見てこそいないけど変な魔力の流れに当てられて、気分を崩していたそうだ。


 二人には、本当に申し訳ないことをした。私が誘ったのが原因だもんな……今度、なにかお詫びしないといけない。

 他の生徒は、先生から寮に帰るように指示があったくらいの騒ぎではそんなに変わらない。食堂では、ワイワイとした空気が流れていた。


 ……そして、翌日。私たちはいつも通り投稿したけど、そのあと校長先生から全校生徒が集まるようにと指示があった。


昨日さくじつ、我が学園の生徒が一人、亡くなりました」


 いろいろと前置きはあったけど、要点をつまめば……昨日の、"魔死事件"のことだ。

 昨日、学園内で死体が発見されたこと。その人物は学園の生徒だったこと。世間で騒がれている"魔死事件"に関与しているであろうこと。まだ犯人は捕まっていないこと……


 当然、生徒たちは混乱していた。学園内での殺人事件、それも犯人は捕まっていないし、今世間を騒がせているものと同一犯の可能性が高いのだ。


「我々一同、深い悲しみに暮れています。

 これからは皆さん、決して一人で行動しないように。場合によっては、休校……いえ、敷地内からの退去も視野に入れています」


 それは、当然の処置とも言える……殺人犯が潜伏しているかもしれない学園に、なんの対策もなしに生徒を歩かせておくわけにはいかない。

 だが、あまりに突然のことに学園側の対応もひとまずは様子見ということになっている。一人で行動しない……これくらいしか、できることがないのだ。


 本当なら今すぐにでも、学園内から生徒を避難させたいのだろう。私にはよくわからないけど、それがすぐにできない……学園という組織は、大きいけどその分対応も複雑化しているのだ。

 人が多いと、対応も難しくなる。


「本日は午前の授業のみで終了となります。

 午後からは、憲兵の方が調査に……」


 ……犯人は、わかっている。もう学園内にはいない人物だ。

 それを話したら……だめだ、学園は安心できるかもだけど、彼の妹であるルリーちゃんにとばっちりがあるかもしれない。


 ダークエルフ……そして、殺人犯の妹だ、と。

 そんなことになったら、きっと今以上に状況は悪化する。


 校長先生の話は終わったし。ちなみに校長先生は、以前組分けのときに理事長と一緒にいた、おじいちゃんだった。理事長そういえばいないのかな。

 今日の授業は午前中までとなり、午後からは憲兵さんが学園内を調べることに。

 本当は午前から頼みたかったのだが、今憲兵さんの方も人手が足りていないらしい。それに、魔導学園を調べるとなるとそれなりの準備も必要になると。


「フィールド、理事長がお呼びだ」


「へ?」


 生徒たちは解散となり、私も教室へ戻ろうとしたところへ、先生に呼び止められた。

 なにやら、理事長が私を呼んでいるのだという。


 このタイミングでの、呼び出し……あまり良い予感はしない。

 というか、まさかルランのことがバレたわけじゃ……ないよね。


「すぐに、来い」


「あ、はい」


 ともあれ、ここで断るわけにもいかない。仕方ないので、先生に着いていくことにする。

 道中、先生からの話があった。どうやら理事長は私用で数日前から学園を留守にしていたらしいが、昨日の件を聞いて戻ってきたらしい。で、戻るや私を呼んだというわけだ。


 どうして私を呼んだのかは、本人に聞けと教えてもらえなかったけど。


「着いたぞ」


 たどり着いた、理事長室。この部屋の中に、魔導学園理事長……フラジアント・ロメルローランドがいる。

 会うのは、初めてここに呼ばれたときと今で二回目か。


 先生は扉をノックし、中から応答がある。それを受け、ゆっくりと扉を開けた。

 私も、先生に続いて部屋に足を踏み入れると……


「急にお呼び立てして申し訳ありませんね、エラン・フィールドさん」


「理事長……

 ……と……! ゴ……会長」


「……」


 正面の席に座っているのは、理事長だ。以前見た姿と変わりなく、薄い紫色の髪をオールバックにして、しわが刻まれた頬を緩ませている。

 この部屋に理事長がいるのは、当然だ。問題は、他にも人がいること。


 扉から入って見て、右側に設置してある三人は座れそうなソファー。そこに座っていたのは、生徒会長ゴルドーラ・ラニ・ベルザだ。

 ……まあ、生徒会長がいるのは、わからなくもない。生徒会長だし。本当に問題なのは……


「や、エラン」


「……」


 扉から見て左側のソファー……ゴルさんが座っているのとは対面に設置されたソファー。そこに、もう一人座っている。

 私と同じ黒髪黒目を持つ少年……ヨルが、なんでかそこにいた。馴れ馴れしく私に手を振っていた。


 あと、ヨルの隣に見知らぬ女生徒が一人座っていた。

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