第124話 フィールドさんの話ばかり
ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋。ここでなら、エルフについての話も気兼ねなくできるし、ルリーちゃん的にもリラックスできる場所だろう。
学校では常に気を張っているだろうに、部屋でまで気を張っていたら体がもたないもんね。
私としても、二人のこと……特にナタリアちゃんのことを、もっと知れてよかった。まさか、あんな重たい過去があるなんて思わなかったけど。
本人は、もうずいぶん昔のことだし、両親の顔すらあんまり覚えていないから気にしていないみたいだけど。当時のことを覚えているのは……"
ちなみに"魔眼"の発動条件だけど、それは本人の意志による。それは誰に教えられたわけでもなく、"そういうもの"だとわかっていたらしい。それは、"魔眼"を手に入れたから無意識に、そうだと伝わってきたのか。
だからナタリアちゃんは、今の両親など、人前では"魔眼"を発動させないようにするか、しても気づかれないようにしている。
エルフ族の目を持っている。ナタリアちゃんはなんとも思わなくても、それを知られたら周囲がどんな目で見てくるかわからない。
「ふはぁ〜」
「まあ、はしたないですわよ、フィールドさん」
大きなあくびをする私に、ノマちゃんが注意する。
ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋から帰ってきた私は、自室のベッドに寝転がっている。普段、私は二段ベッドの上を使わせてもらってるけど、今は下でゴロゴロしている。
同室のノマちゃんは、床に座って私のほっぺたをつついていた。
「ノマちゃんこそ、はしたないですわよ〜……むぎゅ」
「あら、ごめんなさい。でもフィールドさんのおほっぺた、ぷにぷにですもの」
おほほほ、と笑いながらノマちゃんは、言ったとおりに私のほっぺたをぷにぷにしている。
いやまあ、別にいいんだけどさ……
そんなノマちゃんだけど……言葉と行動とは裏腹に、なーんか妙な視線を感じるんだよなぁ。
私ノマちゃんになにかしたっけかな。
「……そういえば、コーロランって今どんな感じ?」
とりあえずなにか共通の話題はないかと、私はとある人物の名前を出した。
コーロラン・ラニ・ベルザ。ベルザ王国の第一王子で、私のクラスと彼のクラスとでは決闘を行った中だ。その彼のことをノマちゃんに聞く理由はというと、ノマちゃんが彼のクラスに所属しているからだ。
それに、ノマちゃんはコーロランに片思いしている。まさかの王族への恋心だ。相手は婚約者もいる……仲は良くないらしいけど、ノマちゃんには黙っておこう……というのに。
まあ、誰かを好きになるのなんて人それぞれだから、一線を越えなきゃ誰を好きになってもいいとは思うけどさ。
そのコーロランだけど、兄ゴルドーラとの間でいろいろあるみたい。それがきっかけで、私はゴルさんに決闘を挑んだわけだし。
以来、彼とは……代表者会議では会うけど、それ以外では会わない。会った時は、普通に見えたけど。
ただ、普段はどうしているのかわからない。
果たして、彼は今クラスでどんな様子で……
「っていひゃいいひゃいいひゃい!」
コーロランのことを考えていたところに、ほっぺたに痛みが走る。それは、ノマちゃんがつついていたほうのほっぺた。
見れば、ノマちゃんがほっぺたを摘んでいるではないか。おかげで痛い……ほどでもないけど、とにかく変な感じだ、
当のノマちゃんは、「む〜」といった表情を浮かべている。なんで!?
「フィールドさぁん」
「ふぁ、ふぁい、ふぁは」
なんだろう、ノマちゃんからの圧が強くなったような気がする。
それから、ノマちゃんはジトッ、と私を見つめて……
「コーロラン様ったら……あの試合の日……いえ、正確にはゴルドーラ様との決闘の日からですわね。
その日以来、フィールドさん、あなたの話ばかりするんですの!」
「……へぇ?」
……今、ノマちゃんはなんと言ったのだろう。コーロランが? 私のことばかり? 話す?
えっと、それは……どういうことだろう。
「オアひゃ……」
「そりゃあ、フィールドさんはすごいですし、あのゴルドーラ様とあそこまでの激戦を繰り広げて、すごいですし!
でも、でもぉ!」
「ふぁふぁいふぉふふほっ!」
ノマちゃんが悔しがっているのはわかるけど、とりあえずほっぺたを離してほしいな!
「なにを言っているんですの!? ふざけないで聞いてください!」
だから離せって言ってるんだよ!
……その後、なんとかほっぺたを離してもらった。
少しほっぺたがひりひりするよ。
「も、申し訳ありません。やりすぎましたわ」
「いや、別にいいよ……
それより、コーロランが私の話ばっかしてるって?」
気を取り直して、私はさっきまでの話に戻る。
クラスで、どうやらコーロランが私の話ばかりしているらしい、ということだけど?
「その、ですね。わたくし、勇気を出してコーロラン様に話しかけるように、日々頑張ってますの」
「ほぅ」
正座をしつつ、もじもじしている姿は実にかわいらしい。しかも、話している内容も実にかわいらしい。
想いを寄せる相手に、なんとか話しかけようと日々頑張っているというのだ。なんと微笑ましいのだろう。
これが、相手に婚約者がいなければね。
「最近は、話しかけるのもそれなりに自然にできるようになってきたんですのよ?
けれど……その度、いつの間にか話の内容が、フィールドさんのものになっていますの!」
「な、なぜぇ」
だんだん感情的になっていくノマちゃん。まあ、想いを寄せている相手が、自分とは違う子の話をしていたら、いい気分ではないだろうな。
ただ、そこがわからない。なんで、ノマちゃんと話をしていて、私の話になるんだ?
ノマちゃんから私のことを振っている……というわけでも、なさそうだし。
「ほら、フィールドさんとわたくしは、同室でしょう?」
「あぁ」
ノマちゃんの答えにより、あっという間に疑問は解決する。
なるほど、コーロランが私の話をするのは、私と同室のノマちゃんと話をしているから、か。
女子寮とはいえ、別に部屋割りくらいは男子にだって知る方法はある。だから、私とノマちゃんが同室だと知っているコーロランは、私の話になっちゃうと。
……なぜぇ?
「エランさんはどういう人なのかとか、エランさんの好きなものはなんなのかとか……
なんなんですの!?」
「いや、私に言われてもな」
それほどまでに、私の話をしているのか……なぜぇ?
ただまあ、思い当たる理由があるとすれば、あれだ。ゴルに決闘を挑んだ、あのとき。
弟コーロランにキツい言葉をかけるゴルさん相手に、私はコーロランを庇う形で、決闘を挑んだ。
だからその、あれだよ……そのときの、恩義的なあれで、お礼とかしたい的な意味で私のことが気になってるんだよ。きっとそれだけだよ。
別にお礼はいらないけども。
とはいえ、それが理由としても、まさかその理由をノマちゃんに話すわけにもいかない。話せば、ゴルさんとコーロランの関係性に触れることになる。
あんなの、人に聞かせたい話でもないだろうし。私だって、他人のプライベートをペラペラと話すつもりもない。
「せっかく、憧れのコーロラン様と話せているのに、話題の中心にいるのはいつもフィールドさん……
この気持ちがわかりますか!?」
「あはは、なんかごめん……」
なので……私は、理由を話すわけにもいかず、ノマちゃんの愚痴を、ただただ聞くだけになっていた。
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