第118話 生徒会への勧誘(決定事項)



「生徒会ぃ?」


 私のことをじっと見つめるゴルさんは、私の予想しなかった言葉を投げかけてきた。

 決闘の賭け……勝者であるゴルさんには、その要求を通す権利がある。私にとっては義務と言ってもいいかもしれない。



『俺が望むのは……貴様を、我が手中に収めること。

 エラン・フィールド。貴様が賭けるのは、貴様自身だ』



 これが、ゴルさんの要求。それに負けた私は、これに従わないといけない。それが決闘のルール。

 だからてっきり、もっと物騒な感じで、身柄を押さえられるのかと思っていたけど……


 生徒会、とは、予想していなかったな。


「あぁ」


「えっと……ゴルさんは、生徒会長さん、でしたよね。

 だからまあ、その言葉自体は理解できるんですけど……」


 生徒会長であるゴルさんが、私を生徒会に誘う。そのやり取りだけなら、別に不思議なことはない。

 問題は、決闘の賭けが云々の話をしているというのに、そんな話の流れになったことだ。


 私の困惑を見て取ったのか、ゴルさんは言葉を続ける。


「決闘の賭け……それは、勝敗が決した以上反故にするわけにはいかん。俺は、キミに勝ったとは思っていない……

 が、結果として俺が勝ち、キミは負けた。ゆえに、賭けも俺の要求が通っていなければ、決闘を行った者として示しがつかん」


「なるほど……それで?」


 決闘の示し……というなら、まあそれはそうだ。私はよく知らないけど、決闘ってのは伝統あるものらしいし。

 それをないがしろにはできないだろう。


「本来ならば、もっと強引な手段で、キミをものにするつもりだった」


「ははは、強引な手段って……気になるけど、聞かないでおきますね」


「だが、キミの戦いぶりを見て気持ちが変わった。キミには強引にではなく、合意の上で要求を受け入れてほしい。

 その上で、周囲にもわかりやすい形となると……」


「それが、生徒会」


 ほほぉ……周囲に認知させる手っ取り早い方法として、私を生徒会に誘ったと。生徒会長のゴルさんが私を生徒会に入れたとなれば、それは決闘の賭けを満たしたことにもなる。

 強引な手段とやらを取らないのは、私のことを認めてくれた……ってことでいいんだろうか。


 まあ、私としても、ゴルさんの取り巻きの一人にされるとか、部屋に監禁されるとか、実験解剖されるとか、そういうことに比べたら、生徒会というのは好待遇だ。本来、決闘で負けた私はなにも言えないのだから。

 ……ただ。


「でも、いいんですか? 私みたいな新入生が、生徒会なんて」


 生徒会ってのがどんなのか、実はよくわかってない。けどまあ……多分、ゴルさんみたいな三年生とか、二年生の生徒が集まって、なんかしてるんだろう。

 私みたいな新入生は、いないんじゃないかと思う。それどころか、他の人から変な風に見られないだろうか。


 私の疑問に、ゴルさんは小さくうなずく。


「確かに、新入生が生徒会に……というのは、あまりない。が、ないというわけではない」


「前例がある、と」


「あぁ。キミの師、グレイシア・フィールドも、一年生のうちから生徒会に所属していたと聞く」


「! 師匠が!?」


 思わぬ名前が出てきて、私は前のめりになる。驚いた様子のゴルさんは「あ、あぁ」と若干引き気味だが、そんなのどうだっていい。

 そっかぁ、師匠が……! 師匠は、魔導学園を首席で卒業した、って話を聞いてはいたけど。


 なんだか、ちょっと師匠に近づけた感じがするかも……!


「もっとも、キミのように入学ひと月もせずに……というのは、前例はないがな」


「え、そうなの?」


 そこに、また新しい追加情報。そっかぁ、私みたいな早い段階での生徒会所属はないかぁ……

 それってつまり、師匠でもなし得なかった……ってことだよね!


「で、どうする。まあ、キミに決定権はないがな」


 私に最終確認を行ってくるゴルさんは、うっすらと笑っている。そう、これは賭けの要求……拒否権はないのだ。

 それでも、ゴルさんが最大限譲歩してくれたであろう生徒会への勧誘。その気持ちは嬉しいし、なにより師匠も所属していたという。


 それを聞いて、どうして拒否することができようか!


「わかりました、私、生徒会に入ります!」


「うむ、よろしい」


 こうして私は、生徒会に入ることに。

 詳しい話は、また後日、ということだ。


「今はゆっくり体を休めるといい」


「それあなたが言います?」


「……やりすぎたとは、思っているが」


 決闘中は夢中だったけど、後になって思い返したら……ってやつだろうか。結界の中だし、思い切りやったってのはあるだろうけど。

 ま、結局決闘後にまでそこまでダメージを引いているわけじゃないし、私は気にしないさ。


 誘われた生徒会というのには、生徒会長以外にもそれぞれ役職があるらしい。けど……

 私はあんまりこだわらないさ。そんな立場でもないしね。


「そういえば、聞きたいんですけど」


「どうした」


「生徒会って、強い人います?」


 これは、大事なことだ。これから入る、生徒会。そのメンバーは、三年生と二年生ばかり。

 ならば、ゴルさん並みとまではいかないけど、それなりに強い人はいないのだろうか。いや、いてほしい。


 なんか、生徒会って強そうな響きだし。


「キミは……本当に、不思議だな」


 あれ、今笑う要素あった?

 というか、なーんか変な違和感をさっきから感じるんだよねぇ……ゴルさんの、喋り方が。


 キミ、なんて言うキャラだっけ。決闘中、貴様貴様ばっか言ってた気がするんだけど。

 ……いや、思い返せば、初めて会ったときもキミって呼ばれた気がする。その後私が決闘を挑んで、貴様呼びになって……今また、キミ呼びになっている。


 つまり、そういうことか。決闘……敵対する形になったからには、キミなんて言えないと。


「強い人、か。

 ……いるぞ。むしろ、全員がそうだと思ってくれていい」


「おぉ!」


 強い人は、いる!

 その答えに、私のテンションは上がった。


「生徒会は、それぞれ役職にあった人材を選出しているが……選出の理由には、魔導士としての力量も含まれている」


 魔導士としての力量も、生徒会に所属するための必要なこと。ゴルさんがそう言うなら、期待しても良さそう!

 あ、でも今回みたいに、むやみと決闘を挑むのはやめたほうがいいよねぇ。


 ……にしても、こうして話していると、普通の人だな。とても、弟にあんなことを言っていた人と同一人物とは思えない。


「む、どうした?」


「いや……なんか、初めて会ったときと印象変わったなって」


 ここで誤魔化しても仕方ないので、私は素直に疑問をぶつけてみる。

 なんか、この雰囲気で出会っていたら、また違った印象を抱いていただろうなって思う。


 私の言葉に、ゴルさんはきょとんとした様子で……


「あぁ……あのときの、いやこれまでの俺は、王族としての重責に、どこか潰されそうになっていた。余裕がなかったのか。

 だが、キミとの決闘で……その気持ちが、晴れたような気がした。あいつにも、多少言い過ぎたかもな」


 王族としての重責か……それは、私には一生わからない類いのものなんだろう。

 私のおかげ、ってのはちょっとくすぐったいけど、ちょっとでも楽になってくれたなら良かったな、って思う。


 あいつ、とは弟コーロランのことだろう。

 決闘で、私が要求したものは、彼への謝罪だったけど……なんか、そんな無理やりじゃなくて、この分だといい雰囲気になりそうじゃない?


 といっても、これ以上私が口を挟むのも野暮だろう。

 あとは、二人の問題だから。

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