第98話 決闘には全力で当たるべし



 出てきたゴーレムは、五体。大きさとしては、平均的な人の姿をしている、って感じだ。

 王子様のような巨大なゴーレムは作れないと言うが……小さくても、複数生み出すというのもまた、並の魔術じゃあない。


 ……あれ?


「魔術だけど、詠唱してないよね……」


 魔術は、基本的には詠唱が必要となる。それが、規模が大きかろうが小さかろうが、関係ない。それが、精霊の力を借りる必要最低限のマナー。

 ……基本的には。


 精霊との相性が極めて良い……もしくは、精霊にすごく好かれている。こうした性質の持ち主は、魔術を無詠唱で放つことが可能だ。

 私だって、精霊さんと仲良しだという自覚はあるけど、無詠唱なんてできないのに……


「すごいんだね、コロニアちゃん」


「んん? えへへー、褒められたぁ」


 本人はきっと、これがどれだけすごいことなのかわかっていないんだろう。

 というか、王子様はなんで自分が自信ありげなんだ。僕の妹すごいだろ、みたいな?


 ……ともあれ、だ。せっかくの訓練、存分に胸を借りるとしよう!


「さあ、来い!」


 私の意気込みと同時に、五体のゴーレムが迫りくる。

 その動きは、普通の人間変わらない。王子様の巨大ゴーレムよりサイズ感は落ちるけど、代わりにスピードがある。


 迫るゴーレムに杖を向け、狙いを定める。


「私たちは、土属性の魔術を得意としているの。

 だから、多分ゴル兄様も、同じような戦法で来るはず」


「なるほど!」


 ゴーレムを魔法で捌きながら、私はコロニアちゃんの言葉に耳を傾ける。

 王子様もコロニアちゃんも、ゴーレムを生み出す魔術を得意としている。それは、兄であるゴルドーラも同様らしい。


 ならば、ゴルドーラもゴーレムを使った戦法で来る可能性は高い。こうしてゴーレムを相手にするだけでも、いい訓練になる。

 魔術には魔術で対抗するのが一番だ。だから私は、王子様のゴーレムに火属性の魔術で対応した。


 けれど、あのとき魔術を撃てたのは、浮遊魔法との合わせ技で相手の虚をつけたからだ。あのとき会場で試合を見ていたゴルドーラに同じ真似をしても、対処されるだけ。

 それに、こうして複数のゴーレムに囲まれる事態に陥っても、魔術詠唱の隙を見つけにくい。


「だからこうして……!」


 ゴーレムを倒す手早く確実な手段。ゴーレムの核を叩く。ゴーレムの核を見つけることこそが、ゴーレムを倒せる鍵となる。

 ゴーレムの体は土か石……それくらいなら魔法でも破壊できるし、核にも同じように対処すればいい。それも、魔術で核ごと体を吹き飛ばせれば問題はないけど。


 魔術頼りにならず、魔法でゴーレムに対処する。それは、決して多くはないだろうゴーレム使いとの訓練で、学んでいく。


「せいや!」


 魔導でゴーレムの表面をぶっ飛ばし、核を確認。再生される前にすかさず核を撃つ。この流れで、ゴーレムを倒すことができる。

 だけど、一体を倒してもすぐに、次の一体が生み出される。上限はどうやら五体だけど、数が減ることがない。


 複数のゴーレムを、無詠唱で生み出し……しかも、それを次々と絶え間なく生み出し続けられるなんて。


「すごいやコロニアちゃん!」


「えへへー、どうも」


 魔法でゴーレムを倒していく。言ってしまえばそれだけの作業だけど、確かに意味はある。

 別に示し合わせたわけではないけど、私は魔術を使わない……と、なんとなく二人の中で決まっていた。


 魔術は言わば切り札だ。いくら自分の魔力を使わないとはいえ、精神力は大きく疲弊する。そう何回も使えるものじゃない。

 だから、できる限り魔法で対処する。


「ありがとうコロニアちゃん、いい訓練になるよ!」


「えへへ。まあゴル兄様は凄腕の魔導士だからねー、私のゴーレムじゃ比較にならないだろうけど……」


「そんなことないよ」


 ただでさえ、私の訓練に付き合ってくれる人はいなかったんだ。だから、コロニアちゃんから申し出てくれたときは嬉しかった。

 しかも、こうして複数のゴーレムを生み出せるなんて。願ったりだ。


「でも、いいのかな。こんないろいろ、教えてもらっちゃ……って!」


「まあ、どうせ調べればわかることですからね」


 迫るゴーレムを倒しつつ、王子様の言葉に耳を傾ける。

 考えてみれば、ゴルドーラは三年生で、かなりの有名人。どんな魔導を使うのか、調べればすぐにわかりそうだ。


 それに……向こうだって、私のことを調べるだろう。戦いの前には相手のことを知るのが基本だ。

 もっとも、私は入学してから日が浅い。わかることといえば、せいぜい最低ニ種類の魔術を使える、魔力の使い方がうまい、美少女、くらいのものだろう。


 そういった情報戦でも、大きなアドバンテージがあるか。

 明日からは、ゴルドーラのことも調べてみないとね。


「決闘は、両者ともに全力で挑むもの。

 となれば、兄は使い魔も使ってくるでしょうね」


「使い……わっと!」


 なんか気になる単語が聞こえたけど、迫るゴーレムを捌くのに必死で考える暇もないよ。もしくは、戦いながら考えることで時間短縮ってことかもしれないけど。

 使い魔かぁ……師匠は、たくさんの使い魔を使役していたな。


 使い魔ってのは、その名の通り自分が使役する主従関係の成立したモンスターのことだ。使い魔を使役することで、魔導士としての可能性は大きく広がる。

 また、魔導士としての実力により、使役できるモンスターの幅も大きく変化する。


 召喚できるモンスターは、基本的に一人一体……だけど、モンスターの種類によっては複数使役することができたり、魔導士のレベルが高ければ別個のモンスターを使い魔として召喚することも可能だ。

 師匠は、鳥を主な使い魔としていた。使い魔が肩に乗ったり師匠に懐いている姿を見て、私も使い魔ほしいと思ったものだ。


 だけど、師匠に聞いても、その時が来たら覚えることになる、と意味深なことを言って、教えてくれなかった。

 そして、この魔導学園では使い魔召喚の授業が、あるらしい。師匠が言っていた。


 ……もしかして師匠は、私が思うよりずっと前から、魔導学園に入学させようと考えていたのかもしれない。そこで、きちんと使い魔諸々の授業を習って……


「わっ、とと……」


「考え事? よゆーだねー」


 やっぱり、考え事しながら戦いも同時並行ってのは、さすがに難しいか!

 まあ、使い魔については追々考えるとして! まずは、こっちに集中だ。


 それから私たちは、時間の許す限りまで、訓練に明け暮れた。

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