第94話 王女様とのお茶会



「まあ、ご覧になって。あそこにいらっしゃるのは、コロニア様だわ」


「対面に座ってらっしゃるのは……まあ、エラン様ではないですの」


「今注目のお二人が、席を共にしてお茶をお飲みになっておられるなんて」


「感無量ですわー」


「尊いですわー」


「あのブロンドと黒の髪が、見事に映えますわ。まさに芸術品ですわ」


「眼福ですわー」


「目の保養ですわー」


「ほら、ご覧になって。見ているだけでこっちが溶けてしまいそうな笑顔ですわ」


「誰か、話しかけに行かれてみては?」


「まさか。あの二人の間に割って入ることなど、とてもとても」


「ごちそうさまですわー」



「……」


 なんだろう、めっちゃ視線を感じる……

 ここは食堂、放課後である今生徒たちはそれぞれの時間を過ごしている。お茶会に誘われた私も、こうして優雅な時間を過ごして……


 ……過ごせるか! 王族と二人きりだよ、気まずいなんてもんじゃない! おまけに今日初めて会ったような子だ!

 そりゃ、幾分話しかけやすい……ってのはあるけど。さっきから、お茶を飲んでは「んはぁ〜」とのんきな表情をさらすばかり。


 それに、傍らのお菓子もちょいちょい摘まんでいる。


「……パクリ」


 コロニアちゃんにお茶会に誘われた後、私はクレアちゃんと一緒に教室に戻った。

 その結果……予想はしていたけど、クラスメイトに囲まれた。ゴーレムを倒した魔術を、浮遊魔法使いながら撃ったってことで、そりゃもう質問攻めだ。


 それに関しては、「みんなも訓練すれば、あれくらいできるようになるサ☆」と爽やかな笑顔で対応しておいた。

 なんかみんな苦笑いを浮かべていたような気がするけど、気のせいだ。


 それから、試合が終わってその場にいなかったことを聞かれたので、なんか流れで第一王子と決闘することを伝えた。

 みんな驚いていた。


「エフィーちゃん、聞いてるー?」


「え? あ、はい。そりゃもう」


 のんびりとした様子のコロニアちゃん……なんだか、一緒にいると、不思議とこっちまでのんびりとしてしまうな。

 コロニアちゃんは、話を続ける。


「こうしてゆっくり、一度話してみたかったんだよー。

 すごい魔力の持ち主だってのは聞いてたけど、まさかあのゴーレムを一撃でねぇー」


「そんな、すごいだなんて」


「いや、すごいよー。ゴーレムには核があるから、基本的にその核を探して壊すのが基本なのに……

 まさか、ゴーレムの全身いっぺんに破壊しちゃうなんてねー」


 さっきから、試合での私の魔術をめっちゃ褒めてくれている。

 うーん、やっぱり照れるぅ。えへへ。


 そうなんだよな、ゴーレムを倒すのは核となっている場所を叩くのが定石だ。魔術により作り上げられた土人形は、体のどこかしらに核がある。

 核を壊さないと、ゴーレムの体は再生してしまうのだ。


 私は、まあ核ごと体をぶっ壊したわけだ。


「その……コロニアちゃんは、コーロランくん……お兄さんのこと、どう思ってる?」


「好きだよー? 尊敬してる」


「……そっか」


 話していてそんな気はしていたけど、コロニアちゃんはお兄さんのことが大好きなんだな。

 ちなみに、コロニアちゃんとコーロランくんは双子だ。同じ学年だから、そうだろうなとは思っていたけど。


 それにしても……


「コロニアちゃんは、いいの? お兄さんじゃなく、私の所にいて」


「んー?」


 そんなにお兄さん想いの子なら、こういうときこそお兄さんの側に寄り添いそうなものだけど……

 あ、それとも……


「それとも、お兄さんは婚約者さんがお相手してるとか?」


 ふと、思い出すのは婚約者の存在。王族という立場だからか、婚約者がいるらしいのだ。

 ノマちゃんが、婚約者のいる王子様に片想いしちゃって、どうすりゃいいんだって考えてたもんなー。


 もしかして、コロニアちゃんは婚約者に遠慮しているのかもしれない。愛し合う二人の邪魔は出来ないって。

 でも、コロニアちゃんは首を振る。


「あの人は……そんなことは、しないよ」


「え?」


 それは、どこか寂し気な……いや、違う。

 もっとこう、複雑な感情が入り乱れている……?


「それって……」


「……ここだけのお話なんだけどね。コーロお兄様と婚約者の人、仲が良くないの」


 飲んでいたお茶の入ったコップを置き、コロニアちゃんはさっきのほわほわした雰囲気とはまるで違う雰囲気へと変わる。

 その言葉の意味は、どういうことだろう。


「婚約者って言っても、まあ政略結婚だからね」


 続いた言葉の内容で、なんとなく意味を察せた。


「それって……好き同士じゃないけど、結婚する相手として決められた同士ってことだよね?」


「貴族には、珍しい話じゃないよ。

 王族なら、なおさらねー」


 結婚……どころか、男女のお付き合いってのがどういうものか私には分からないけど。でも、お父さんとお母さんになることだってのはわかる。

 つまりは、一生一緒にいるのだ。


 なのに……好きでもない相手と、結婚だなんて……


「あ……もしかして、コロニアちゃんも?」


 今の話を聞くと、王族であるコロニアちゃんも、例外ではない。それに、中身はともかくこんなにかわいいのだ。

 同い年の王子様にすでに婚約者がいるのなら、コロニアちゃんにいてもおかしくはない。


「ううん、私はまだなんだ」


「あ、そうなんだ?」


「うん。まあ、ちょいちょいとお父様からせっつかれるんだけど……

 一応、王位を継ぐ人……お兄様たちね。には、婚約者がいるから」


 本人も、あんまりいい気はしていないのだろう。

 私には、よくわからないけど……つまり、王位を継ぐ男の二人には婚約者……結婚相手がいて、跡継ぎの心配がないから、兄たちほどひっ迫はしていない……ってことかな。


 それでも、王族である以上……それも、第一王女である以上、避けては通れない道。


「ちょっとお話がそれたね。

 婚約者の話は置いておいて……コーロ兄様は強いから、私が慰めなくてもゴーレムを倒されたショックなんかすぐ立ち直るよー」


 ケラケラと笑って、暗くなりかけた空気を引き戻すコロニアちゃん。

 どうやら、王子様がゴーレムを倒されたショックで落ち込み、それを慰めるかどうか、と勘違いしているようだけど……

 私が言いたいのは、そっちじゃない。


 ……もしかしてコロニアちゃんは、知らないのか?



『ぼ……私は、その、私の価値を、示そうと、思って……』



『我が弟に、敗者などいない……いや、敗者であるはずがない。貴様は、誰だ』



 二人の兄の、あのやり取り……いや、関係を。

 もし知ってたら、なんらか寄り添いに行くのでは……と思っていたんだけど。コロニアちゃんが知らないなら、仲の良くない婚約者も知るよしもない。


 ……妹を心配させないように、抱え込んでいるってことか。

 たった、一人で。

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