第84話 起動せし巨人



 試合は、どんどん激しくなっていく。

 周囲を見渡してみると、その様子は様々だった。


 王子様の策略によってバラバラにされた私たち。そこを、「デーモ」クラスの生徒は複数人で囲んで叩いてくる。

 数の差で負ける者、逆に数の差を力の差で返り討ちにしている者もいる。


 それでも、人数的にはこっちが不利かな……


「ほら、よそ見をしている暇はありませんわよ!」


「!」


 私を休ませないと追撃を続けるのはノマちゃん。杖を振るい、放たれる魔導は正確に私を狙ってくる。

 それだけじゃない。常に、私と一定の距離を保ちながら三人の男子生徒が、私を囲っている。


 さっきのように反撃されないためか、近すぎず離れすぎずって感じだ。


「うーん、参った……」


 向こうの攻撃を捌くことは造作もない事だけど……逆に、こっちの攻撃も当たらない。

 私がなんか放っても、避けられるかそれぞれ違う角度から攻撃を撃ち込まれ、相殺される。


 それに、囲まれているから助けも期待できないし……


「力勝負では勝てません、ですから……

 搦め手で!」


「わっ?」


 迫りくる魔導にばかりに集中していたせいか、足首になにかが巻き付いたのに気づくのが、一歩遅れた。

 しかも、両足だ。


 なにが起こったのかと下を見れば、地面から伸びた……蔦のようなものが、私の足首を拘束している。

 これで、私の動きを封じたってことか。


 直後、まるで示し合わせたように、囲っていた三人の男子生徒からそれぞれ、魔導が放たれる。

 どれも強力なエネルギー波だ。もろに当たったらどうなっちゃうだろう。


「決まりですわ!」


「ちっちっち。甘いよノマちゃん。

 魔導士相手に、動きを封じるなんて意味のないことだよ」


 不思議そうな表情を浮かべるノマちゃん。その顔が、見えなくなる。

 いや、私に三種の魔導がぶつかって……その衝突の爆炎で、見えなくなっただけだ。


 もしも、もろにあれを受けていたら、結構なダメージを受けていただろう。結界の中だからある程度以上は無効化されるけど。


「なっ……」


「おい、どうなってんだ。無傷だと!」


「どころか、服にも傷がねぇ!」


 爆炎が晴れ、私の姿を確認した三人が驚きを見せる。

 無傷? そりゃそうでしょうよ。三種の魔導がぶつかる直前、私は自分の周りに魔力防壁を張ったのだから。


 言葉通り、それは魔力による防壁だ。魔力量によるけど、私の魔力防壁なら大抵の攻撃を打ち消せる。


「動けなくても、攻撃を防ぐ手段はいくらでもあるよん」


「し、かし……あの三種の攻撃を、難なく防ぐなど……」


 ノマちゃんや男子生徒的には、私じゃあの攻撃は防げない、と判断したらしい。

 でも、そう思っていたなら甘々だよ!


「ちっ、【成績上位者】ってのもいい加減なもんってわけじゃないようぶべら!?」


「トーロイ!」


 ありゃ、なんかしゃべってる途中に殴っちゃった……失敗失敗。

 まあ殴ったって言っても、拳でじゃなく魔力を使って、操った大気でちょっとやっただけだ。


 トーロイと呼ばれた彼は、突然殴られたことに受け身を取ることもできずふっ飛ばされ、結界の外に弾き出されてしまう。

 どーよ、これが【成績上位者】の力……そうか、「デーモ」クラスにだけは、【成績上位者】いないんだっけ。だから、どれくらいの力があるのか判断できなかったと。


「なっ……今ので……!?」


 まさか一撃貰っただけで結界の外に弾き出される……つまり戦闘不能にされてしまうとは思っていなかったのか、ノマちゃん含め三人は目をパチパチさせている。

 まるで、信じられないものを見るように。


 へへん、どうだい。動けなくったって、相手を戦闘不能にする方法はあるんだよ。


「そー……」


「うわぁああ!」


「なんだありゃ!」


「っれ……って、なに?」


 さっきと同じく、そして今度は殴打の連打を浴びせようと杖を構え……ていたところに、突然の悲鳴。

 同時に、ズシン……と、大きな地鳴りがあった。複数の悲鳴と巨大な地鳴り、ただ事ではないのはすぐにわかった。


 それに……気のせいだろうか、視界が暗くなったような……


「おぉ……」


「あれが……」


 男子生徒たちは、私……の、後ろに目を向けている。その視線は、上空だ。

 私も釣られるように、振り返るとそこには……


 ……巨人が、いた。


「でかいぞ! どっから現れやがった!」


「魔物か!?」


「まさか、そんなはずない!」


 ギャーギャーと周囲は騒ぎに包まれる……きっと、あれを初めて見る人ばかりなのだろう。魔物と勘違いしてしまうのも仕方ない。

 だけど、あれは、魔物じゃあない。


 あれは……


「ゴーレム……」


 あれはただの巨人じゃない。土でできた巨人だ。泥人形って表現もあるけど……

 どっちにしろ、あれが魔物でないことは確かだ。魔法ではなくあれは魔術……土属性の精霊の加護により、出現したものだ。


 あんなゴーレムを作り出せるなんて、相当の魔導士だ。ぱっと思い浮かぶのが、ナタリアちゃんか、ヨルだ。

 けど、その二人はこの舞台にはいない。当然私でもないし……私のクラスの誰か、でもない。

 だって、さっきから騒いでる声、私のクラスメイトばっかだし。


 となると、残るは「デーモ」クラス。

 その上、これだけの魔術を使える人物となると……


「王子様か……!」


 思い浮かぶのは一人。【成績上位者】でこそなかったけど、クラスの代表に選ばれ、この試合の発端となった男。

 王子様ことコーロラン・ラニ・ベルザ!


「キャー! コーロラン様ー!」


 なんか、ノマちゃんのテンションが異様に高いし……

 うん、間違いないな!


 会場も、ざわめいている。

 そりゃそうだろうな……ゴーレムってやつは、もちろん魔術って時点ですごいんだけど、それだけじゃない。


「行け……!」


 どこからともなく、声が聞こえた。その直後……ゴーレムが、動き出す。狙いを、私たちに定めたようだ。

 やっぱり、王子様の声に反応して、動いている。土属性の魔術は、他三種類と少し勝手が違う。


 土属性は、なにかを創造……生み出すことが多い。生み出し、そしてその先……生み出したものが動き、まるで意思を持っているかのように行動する。

 そこまでできて、初めて土属性の魔術は完成する。火、水、風よりも複雑ではあるが、だから極めれば強力な魔術だ。


 ただぶっ放すだけじゃなく。生み出し操る……たとえ精霊さんと契約しても、実行するにはより本人の技量が試される。

 それを、王子様……コーロラン・ラニ・ベルザは、ものにしている。


「……いいね」


 最初は、なし崩し的に持ち込まれた形になった試合だったけど……

 これは、面白いよ!

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