第80話 そして試合当日へ
久しぶりの、タリアさんのところでの食事。懐かしい顔に懐かしい味、それらを堪能した私たちは、食事の後もしばらく話をしてから、宿屋を出た。
話とはいっても、店内が賑わっていたからタリアさんとはあんまり話せなかったんだけどね。
で、今は王都巡り。
ノマちゃんが先導して、服とか小物とか見に行った。
「よく知ってるわねぇ」
「ふふん、乙女としての嗜みですわ!」
感心するクレアちゃんに、ノマちゃんは誇らしげだ。
以前、クレアちゃんと王都巡りしたけど、そこでは行ったことのない店も案内してくれている。
ノマちゃんが言うには、小さい頃からエーテン家は国中のいろんな人たちと交流があって、その影響であちこちに詳しいらしい。
「さて、いろいろ買いましたわね」
楽しい時間はあっという間だ。気になったものは買ったり、単に見て楽しんだり……なんとも、有意義な時間を過ごしたものだ。
帰り道、みんな笑顔だった。
休日ということで英気も養ったし、みんなとの仲も深まったし。
休日明けのクラス対抗の試合にも、気合い充分ってもんだよ!
お買い物を満喫した私たちは、学園へと戻る。それから、それぞれの部屋へ。
はぁー、楽しかったなぁ。
「ねーねー、試合が終わったらまた、みんなでどっか行こうよ」
「えぇ、いいですわね。
でしたら、負けた方は勝った方の望みをなにか一つ、叶えるというのはどうでしょう」
「いいね、面白そう!」
負けた方は、勝った方の言うことを一つ聞く……それは、なんとも面白いな。
試合はクラス対抗だから、もちろん最終的にどっちのクラスが勝ったか、ということだ。
ただ試合をするよりも、こうした取り決めがあったほうが、俄然やる気が出る!
「おそらくわたくしだけでは、フィールドさんには勝てないでしょうけど……
クラス対抗なら、結果はわかりませんわよ!」
「そんな褒められても~」
ふふん、と自信満々なノマちゃん。これは、試合当日が楽しみだ。
その日は、お互いに試合への意気込みを話したりしながら、時間は過ぎていって……
休日が開けてからは、クラスでは試合に向け、魔導の実技訓練が取り入れられた。
とはいっても、たった数日で魔導の腕が、急上昇するはずもない……訓練するのは、魔力の使い方だ。私とダルマ男との決闘で見せた、あれを手本に。
男子はダルマ男、女子は私が、それぞれ教えることに。
そんな日々を送り……あっという間に、クラス対抗の試合の日はやってきた。
「はぁあ、緊張するわ」
「くぅう、ワクワクするね!」
場所はグラウンドにある試合会場。大きな屋根なしの建物で、観客席まである。その中で、二クラスが試合を行う。
そして、ここにいるのは「ドラゴ」クラスと「デーモ」クラスだけではなくて……他にも、別のクラスが。別の学年がいる。
どこから話が広まったのか……は、考えるだけ無駄だろう。なんせ、入学したての新入生が、クラス対抗の試合をしようというのだ。
後から聞いた話だけど、入学から間もなくの試合は学園で初めてらしい。
だから、物珍しさでいろんな人たちが見に来ているわけだ。
「人多いねぇ」
「な、なんでエランちゃんはそんな、平然としてるのよぉ」
クレアちゃんが緊張しているのは、初めての試合であること以上にたくさんの人の目があるから、というのもあるんだろう。
特に、学年が上の人たちが、いっぱいいるわけだし。
決闘の時も見られながら戦ったけど、クラスメイトの前だけだったし……それと比べると、全然迫力が違う。
さすがに、全校生徒全員が集まっているわけでは、ないだろうけど。
「でもさ、確かに珍しいことなんだろうけど……
こんなに、注目を浴びることかな」
「うぅん」
新入生クラス同士の試合が、珍しいのはわかる。
だからって、同じ学年だけでなく二年生や三年生まで見に来るものだろうか。
うーんと頭を捻っていると、どこからともなく「はっ」とバカにしたような声が聞こえる。
「相変わらず無知だな、エラン・フィールド」
「む、ダルマ男」
呼んでもいないのに現れたのは、偉そうに腕を組んだダルマ男。
こいつまた私をバカにしやがったな? 田舎者とは言ってないけど。
そして隣では、クレアちゃんがなぜか頬に手を当て「きゃっ」と声を漏らしている。
「無知って、あんたはこの現状わかるわけ」
「むしろ、わざわざ考えるまでもないだろう。
この試合、あのコーロラン・ラニ・ベルザ様が所属しているクラスが参加しているのだからな」
それは当たり前のこと、と言うように、ダルマ男は言う。むぅ、嫌な言い方。
だけど、おかげで現状の理由がわかったのも事実だ。
私たちと試合をする「デーモ」クラスには、このベルザ王国の第二王子であるコーロラン・ラニ・ベルザが所属している。王子様だ。
その影響力はどんなもんかは知らないけど……王子様のクラスが試合するってなったら、みんな気になるもんだ。
……と、納得しかけたところで……
「あとは、お前だエラン・フィールド」
「……はぇ?」
唐突に、自分の名前を言われた。
「とぼけているのか、自覚がないのか知らんが……お前は、お前自身が思っている以上に、有名人だ」
「私がぁ?」
自分で自分を指さして、首を傾げてみる。
私、有名人なんだ?
ダルマ男は、わかりやすくため息を漏らす。
あ、今私にあきれやがったなこんにゃろ。
「入学試験では【成績上位者】として名を連ね、入学時には魔力測定の魔導具を破壊。入学早々に決闘騒ぎや、魔獣を仕留めるなんて芸当までやってのけた」
「決闘はお前だけどね」
「…………なにより、あのグレイシア・フィールドの弟子だ。
注目するなというほうが無理だ」
決闘の件はあからさまにスルーし、私が注目される項目を挙げてきた。
うーむ、やっぱこれだけやってると注目集めちゃうのかぁ。
参ったなぁ、私有名人かぁ。
そんな私と、この国の第二王子弟子……それぞれが所属するクラスか。
なるほど、注目を浴びるのもわかる気がする。
「……理解したようだな。
ただ、そのニマニマした顔はやめろ」
「へ?」
私、そんな変な顔してるかなぁ?
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