第73話 楽しい買い物の約束
「ふわぁー」
「おはようございますわ、フィールドさん」
「おふぁよぉ」
いつものように、朝起きると……すでに、ノマちゃんが起きているのを、確認する。
この魔導学園に入学してから、数日が経った。
これまでは、身の回りの準備は世話係のカゲくんに頼んでいたというノマちゃんだけど、この数日で自分でできるようにもなっている。
私も、可能な限りで手伝っている。
例えば……
「顔洗ってくるねー。
その後髪やるから」
「お願いいたしますわ」
ノマちゃんの髪をドリル……縦ロールにするのに、私も手伝っている。
はじめのうちは苦労したけど、カゲくんに教わったりして、今ではそれなりにできるようにはなった。
『エラン様は、筋がいいですね』
髪をやるのに筋もなにもあるのかと思ったけど、カゲくんに褒められたのが印象的だ。
けれど、さすがにカゲくんみたいに五分で、とはいかないけど。
ただ、これで早起きの習慣が身についたのは、いいことだと思う。
元々、師匠のところで暮らしていたころも、早起きはしていたから……実はそれほど、苦ではなかったりする。
こうして、友達の髪をいじるのも、なんだか……友達って感じが、するし!
「そういえば、フィールドさんは、髪型は変えませんの?」
「私ぃ?」
言われて、私は自分の髪の毛を触る。
自分で言うのもなんだけど、サラサラして手触りは最高だ。
「うーん、でも髪型変えられるほど、髪長くないしなぁ」
「では、いっそのこと伸ばしてみるというのは?
今のままでも魅力的な黒髪ですが、長いものも見てみたいですわ」
「うーん……」
髪を長くする……か。
今まで考えたことがなかったわけではない。けど、長いと動くのに、邪魔じゃないかって気がする。
ただ、クレアちゃんは肩まで伸ばしてるし、ルリーちゃんは腰辺りまで伸ばしてるよなぁ。
銀髪であることだけでダークエルフとバレるなら、髪切っちゃう方がいいんだろうけど……そうじゃないから、伸ばしてるんだろう。
髪伸ばしてると女の子っぽいもんなぁ。
……後ろでまとめて縛るとかすれば、多少は動きやすくなるのかなぁ?
「まあ、こだわりがあるのならば無理にとは言いませんわ。
それに、髪が短くてもおしゃれは、できますし」
「そう?」
「そうですわ!
例えばほら、こうして……カチューシャを付けるだけでも、印象は変わりますわよ」
ノマちゃんは、私の頭になにやらハメて……上機嫌に、ニコニコしている。
どうやら、カチューシャというものを頭に付けたらしい。
鏡で自分の姿を見ると……
「おぉ……」
「ね、変わりますでしょ?」
「う、うん」
ほほぉ……髪型を変えるのではなくて、なにかアイテムを身につけることで、おしゃれができる。
ただワンアイテム身につけただけで、印象がガラッと変わる。
「あらまぁ! かわいらしいですわ!」
「そ、そうかなー?」
やだなぁ、ただでさえ美少女の私が、さらにかわいくなっちゃうなぁ。
参ったなぁ。
照れる私をよそに、ノマちゃんはなにやら手を叩く。
「そうですわ!
今度の休日、お買い物に行きませんこと?」
「お買い物?」
やぶからぼうに、ノマちゃんは言う。
お買い物……なにか、欲しいものでもあるんだろうか。
別に、それに付き合うくらいなら構わないけど。
「うん、いいよー。なに買うの?」
「買うのはフィールドさんのものですわ!」
「……私?」
ビシッ、と拳を私に突き出し、ノマちゃんは言う。
指をさすのは行儀が悪いからやらないみたいだけど、拳を突き出すのも行儀がいいとは言えないんじゃないだろうか。
いや、それよりも……
「私の、買い物?」
「そうですわ!
聞くところによると、フィールドさんは服などお師匠様が買ったものを着用していたとのこと……
しかし! 年頃の乙女であれば、自分で選んだ、かわいいものを着なくては!」
「そういうもん?」
「そういうもんですわ」
熱弁するノマちゃんの気迫に、押されてしまう。
べ、別にそこまで気にしなくても、いいと思うんだしな……
それに、学園では制服だし、私服っていってもそこまでこだわらなくても……
ただ、おしゃれはレディの嗜みだとかかわいい子はかわいい服を着るべきだとか、ノマちゃんの熱弁が留まるところを知らない。
なんのスイッチが入ったんだこれは。
ただ……私の買い物という点を除けば、休日にお友達と買い物なんて……
すごく、いい!
「行こう、買い物!」
「! その気になってくれましたか!」
休日にお友達と、お、か、い、も、の……!
あぁ、なんて素敵な響きなんだろう!
早速、今度の休日に出掛けることを約束する。
いやぁ、楽しみだなぁ。
「あ、おはようルリーちゃん、ナタリアちゃん」
「! エランさん……!」
「や、エランくん。
お、かわいいカチューシャだね」
「えへへー」
準備を終えた私たちは、食堂へ。
そこで、食事をしていたルリーちゃん、ナタリアちゃんに出会う。
すでに食事をしていたルリーちゃんは、隣に座れ、と言わんばかりに、めっちゃアピールしてくる。
さすがに、無視するわけにもいかない。
「じゃあ、座らせてもらうね」
「はい!」
……魔獣騒ぎ以降、ルリーちゃんの私に対する距離が、一段と近くなった。
それは、まあ嬉しくないこともないんだけど……ちょっと怖いくらいにくっついてくることもある。
ちなみに、ルリーちゃんには、私がエルフについて調べたことを、話した。
ルリーちゃんとしては、エルフが過去にしてきたことを私が知れば、私が離れてしまうのではないかと心配したようだけど……
そんな心配は、全然必要ない。
「そうですわ、皆さんもどうです!?」
「ん、なにが?」
食事中、ノマちゃんがルリーちゃんとナタリアちゃんにも、休日お出掛けの話を持ち出していた。
二人も乗り気で、これは大人数での楽しいお出掛けになりそうな予感だ。
あとで、クレアちゃんも誘ってみよう。
「……ん?」
ふと、食事の手が止まる。
気のせいかな……なーんか、視線を感じるような?
キョロキョロと首を回してみるけど、別に変な動きをしている人はいない。強いて言うなら私だ。
これまでにも、私を見つめる視線はあったけど……それらは、物珍しさとかの感じだった。それとは、意味合いが違うような?
なんか、全身舐め回されるような……変な、気持ち悪い感じ。
ヨルかとも思ったけど、それともなんか違うしなぁ……なんだこれ。
「……ぱくり」
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