第66話 戦いの後



「はむっ……んっ、がふんぐ……はふはふっ……んんぐ!」


「……よく食べるわねぇ」


「んんっ……んごこっ、んぼめぇべ……!」


「きたない! 食べるか喋べるかどっちかにしなさい!」


「んぐごっ……ごくん!

 はむばむぁ……!」


「食べ続けるのね」


 現在、ここは食堂。

 その一角にて、私たちは昼食の時間を満喫していた。


 そこで私は、目の前の料理を一心不乱にお腹の中にかき込む。

 ここのご飯も、なかなかに美味しい!


 その様子を、正面に座るクレアちゃんはなぜか呆れた様子で見ていて。


「それにしても、授業中に魔獣ねぇ……

 それと出くわしたなんて、災難だったわね」


「んぼほっご……」


「だから食べてからにしなさい!」


 ……魔獣を倒したあのあと。

 先生たちは、授業終了の合図を鳴らして、生徒たちを集めさせた。

 そこで、授業中止の理由を説明したわけだが。


 魔獣の出現。その話に、みんな当然驚いてはいたが……氷像となった魔獣を見たら、みんな納得するしかなかったようだ。

 魔獣は倒したが、危険が残っているかもしれないこの森で授業は続けられない。だから中止だ……と。


 ……その場に居合わせたルリーちゃんとそのチームメンバー。私。サテラン先生。ただし、ルリーちゃんのチームメンバーは気絶していて、サテラン先生は途中参戦。

 なので、私とルリーちゃんが深く事情を聞かれたわけだが。



『当然魔獣が現れて……だから、私もなにがなんだか』



 私も先生が到着する少し前に着いただけだから、その場で一番事情を知っているのはルリーちゃん。

 だけど、当のルリーちゃんもなにが起こったのか、よくはわかってないらしい。


 一応、私も魔獣が喋った、ということは話したが……『エルフ』と口にしたことは、話していない。

 魔獣の言葉に意味なんてないから、先生たちも内容までは聞いてこなかったけど。


 結局、調査は先生たちに任せて解散となり……その後は自習。お昼休憩の時間になり、今に至る。

 ちなみに、魔獣を倒したのは先生ってことにしてくれないかと提案したが、却下された。あの状況じゃ、先生が倒したって方が説得力があるとは思ったんだけど……


 サテラン先生は、生徒の功績を奪うようなことはしない、か。

 ただ、おかげであのあとみんなから質問攻めにあってしまったわけだけど。

 一応、先生がほとんどダメージ与えてくれてたからだよ、と言って切り抜けられたけど。


「はむっ!

 あむぐふぬっ……んばくばく……!」


「……やっぱりよく食べるわ。まあ、魔獣を倒した功労者だし、よっぽど疲れてたんでしょうけど」


 んんっ、空きっ腹に食べ物が染み渡る!

 消費した魔力、食べそこねた朝食分、それらを補給しないといけないからね。


 それにしても、周囲から視線を感じる。

 それは、私の食べ方が豪快すぎるのが原因か。それとも魔獣を倒したことが広まってしまったのか。


「まあ、なんて品がない食べ方……どこの平民かしら」


「いや、聞いた話だと今年の入学生で、【成績上位者】の貴族らしいぞ」


「それに、とんでもない化け物なんだとか」


「なんだそりゃ」


「なんでも、盗賊十人に囲まれて素手で返り討ち。学園の決闘では名のある貴族を男として後悔するくらいボコボコに。魔獣の四肢をもいで笑いながら食らい尽くしたとか」


「なにそれこわぁい」


 なんだそりゃ、私もこわぁい。


 聞こえてるんだよなぁ。しかもどれもなんかすっごい尾ひれがついてる。

 どこの野蛮人だ私は。


 まっ、周りがどう思おうと関係ないけどね!

 それよりも今は、飯だ飯!


「がつはむがつはむ……!」


「……ところでさ、ずっと気になってたんだけど……

 それ、どうしたの?」


「……♪」


「……ごくん。

 わかんない」


 クレアちゃんは、触れていいのか迷った様子で……私の隣を、指さした。

 そこにいるのは、一人の女の子。


 今、私の隣にはルリーちゃんが座っているのだが……

 なぜだか彼女は、私の腕にぴったりとくっついていて、離れないのだ。

 おかげで少し食べにくい。


「あのー、ルリーちゃん?」


「はい、なんでしょう?」


「……なんでもないです」


 なぜだ、なぜルリーちゃんは、こんなにもうっとりした様子で私にくっついているんだ!?

 食べにくいから、少し離れてほしいんだけど……



『エランざぁああああああん!!

 びぇえええええええ!!!』



 魔獣に襲われていた中、駆けつけた私に安心したのだろうあんなに大泣きしていたルリーちゃん。ようやく落ち着いたこの子を、引きはがすっていうのも気が引けるしなぁ。

 助けてクレアちゃん!


 しかしクレアちゃんは、首を振るのみ。どうしたらいいかわからないのだ、と。

 私だってわからないよぉ!


 思い当たることが……ないことも、ないんだけど……

 うーん……


 ……あっ、まさか……!


『私が漏らしたことを話したら、どうなるかわかってますよねあぁん!?』


 監視……か!?

 あのときルリーちゃんは、恐怖からだろう失禁してしまっていた。

 魔獣がとてつもなく怖かったのだ。気持ちはわかる。


 幸いにもチームメンバーは全員気絶、先生もルリーちゃんの様子を気遣う前に魔獣にやられてしまったから……

 真実を知るのは、私だけだ。


 そっか……そうだよな。そりゃ、不安だよな。

 でも、私はルリーちゃんが悲しがることは、絶対にしない!

 ここは、あのことは絶対に話さないと、安心させなければ。


「だ、大丈夫だよルリーちゃん! 絶対に話さないから!」


「……っ! はい、私も離しません!」



 ぎゅうぅっ



 なんで!? いっそうくっついてきたよ!?

 ていうかもう、腕にくっつくんじゃなくて抱きしめてるんだけど!


 よほど魔獣が怖かったんだろうか。

 まあ、本人が気の済むまで、こうしておいてあげたいけど……


 やっぱり、食べにくいよ。


「えへへ、エランさぁん♪」


 その後、昼食が終わり、休憩の時間が終わっても離れようとしないルリーちゃんを、なんとか説得し、各々のクラスに戻っていった。

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