第51話 魔導士の階級



 いったい、私はいつから精霊と仲良しだったんだろう。

 うーん……思い出せないや。

 師匠と出会う前だったとしたら……それ以前の記憶は、ないわけだし。


「まあ、みなまだ魔術は使えないみたいだが、これからだ」


「あれ?」


 うーむ、と自分のことについて考え込んでいた間に、話は進んでいたらしい。

 どうやら、魔術を使える者はこの中にいるか……といった質問。

 それに、誰も手を上げなかった。


 精霊と対話できるか、魔術を使えるか……

 このクラスには、それに至っている人は、まだいないらしい。


 あちゃあ、まずったなぁ。私は魔術使えるのに、話を聞きそびれたせいで手を上げそこねてしまった。

 ……まあ、いっか。


「さて。魔法魔術を極めることで、一流の魔導士となることができるが。

 魔導士にも、階級というものがある。

 魔導を扱える者を幅広く魔導士とは言うが、キミらは今のところは魔導士見習いだ。少なくともこの学園ではな。

 魔導学園を卒業することで、一般の魔導士と呼ばれる。もちろん例外もあるがな」


 魔法だけでなく魔術も極めてこそ、一流の魔導士になれる。うん、その通りだね。

 というか、私たちまだ見習いだったのか。


 まあ、一般の人から見れば、魔導士も見習いもたいした違いはないんだろうけど。


「魔導士見習いを卒業し、魔導士へ。

 魔導士の階級はそれぞれ、上級魔導士、中級魔導士、下級魔導士の三段階に分かれる」


 指を三本立てて、先生は説明する。

 上級、中級、下級か……貴族の区分とおんなじ感じか。


「どれも魔導士であることに変わりはないが、階級によりその待遇も大きく異なる。

 例えば王国に仕える魔導騎士になった場合、上級と下級とでは給料や配属される役職に差がある。上級であれば騎士団の団長、下級であれば一騎士……というようにな」


 ふむふむ、なるほど。

 階級がどうとか小難しいことを言ってるけど、要は階級が高ければお給料がガッポガッポだということだ。


 だったら、そういう意味でも上を目指さないとだよね。


「階級を上げるには主に、功績を立てることに加え、人柄も影響する。

 いくら確かな腕を持っていても、人柄が悪ければ階級は上がらないからな」


 と言って、先生はちらほらと目を向けている。

 心当たりのある生徒がいるってことだよな……私もいる。


「そして、上級魔導士の中で選りすぐりの七名が"七帝しちてい魔導士"。

 さらにそれよりも上の階級が、この世に四名しかたあない"四柱しちゅう魔導士"」


 七に、四……か。七はともかく、やっぱり四って数字に縁があるんだな。

 多分、この世界に君臨していた始まりの四種族ってやつを、なぞっているのだろう。


「最後に、全ての魔導士の頂点に立つただ一人の存在……それが"魔導賢者"。

 みなもよく知っている、エルフ族のグレイシア・フィールド。彼こそ、史上最強の魔導士、魔導賢者だ」


「!」


 知っている……どころではない、名前。

 それが口にされた瞬間、私の意識は先生へと向く。


 すごい魔導士だってのは、クレアちゃんから聞いていたけど……

 まさか、魔導士の頂点に立つ存在だったとは。

 最強、じゃん。


 師匠すげー、と胸の中が熱くなっていくのを感じていると……他にも、感じるものがあった。

 なんか、クラスメイトからの視線を、たくさん感じるんだけど。


 それをわかってか、先生はくくく、と喉を鳴らして笑った。


「史上最強の魔導士……グレイシア・フィールド。

 その弟子ってのは、プレッシャーもすごいだろう。エラン・フィールド?」


 ……そうか、みんな、私が師匠の弟子だからこうして見てくるわけだ。

 元々、【成績上位者】や魔導具破壊、そしてダルマ男との決闘勝利と、注目を集める要素はあったけど。


 それが、グレイシア・フィールドの弟子ってことで、『無名の謎の貴族』から『説得力のある魔導美少女』という認識になったわけだ。


「あはは、なんか照れますねぇ」


「……褒めてない……わけでもないが、意味わかって言ってるのか?」


 まあ、これで私としても、もう引けないよね。

 師匠の弟子として、師匠の名に恥じない行動を心がけないと!


 ……それにしても、師匠はエルフ族だってのはやっぱり周知なんだ。

 こんなにもみんなに尊敬されている。

 だというのに、エルフ族自体はむしろ嫌悪されている。


 どうしてだろう?


「魔導を扱える者としては、魔導賢者はすべての者の憧れと言ってもいい。

 だからといって、フィールドに過剰にすり寄らないように」


 私を焚き付けたかと思ったら、今度は私をフォローするような言葉をくれる。

 師匠の弟子だって大っぴらにしたままだと、またさっきみたいなことになりかねないし……


 先生グッジョブ!


 しっかし、私は魔導を極めるためにここに来た。そして、いずれは師匠も超えるつもりではいた。

 けれど、超える壁と思っていた師匠は、全世界の魔導士が憧れる存在……

 史上最強の魔導士、だった。


 この事実に……普通なら、震え上がるのかも、しれないけど……

 私の胸の内は、かつてないほどのワクワク感に、満たされていた。


「精霊と魔導士については、まずはこれだけ覚えておけばいい。

 グレイシア・フィールドの弟子であるエラン・フィールドでも、魔術は使えないんだ。それだけ、精霊との対話は難しい。

 が、諦めなければ必ず、精霊と心を通わせることができる」


 先生がいいことを言っている中、私の胸は今度は罪悪感でいっぱいだった。


 その点については本当にごめんなさい。

 違うんです、ただ話聞いてなくて、手を上げるの忘れてただけなんです。

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