第46話 決闘の決着



 迫りくる炎の波……これはもう、斬撃というレベルじゃあないな。

 それに、これじゃあ弾くこともできない。


 身体強化で、全身を鎧で包んでいる以上、結界は関係なしにあれに呑み込まれても一定以上のダメージは受けないけど……

 炎のダメージは受けなくても、熱は防ぐことはできない。


 さっき火の斬撃を避けてて気づいたけど、どうやら熱さでのダメージは防げても、熱までは防げないらしい。

 結界内では、ある程度以上のダメージは無効化される……けど、疲労は別だ。

 疲労が溜まれば動けなくなり、動けなくなれば負け認定される。


 火の場合は、熱さイコールダメージ、熱イコール疲労、ということだ。

 ややこしいけど、まあ……

 要は、あれに呑み込まれたら熱でやられて、ダウンしちゃう可能性が高いってこと。


 外からの衝撃には強くても、熱とか例えば毒とか、空気感染的なものには弱いみたいだな、身体強化。


「だったら……」


 波を避けるのも、やはり難しい。

 ならば取る手は、一つだ。


 私は、魔導の杖を構える。

 向ける先は、もちろん炎の波。


 魔力を、杖の先端に集中。

 あの炎の波を、止めるために、イメージするのは……


「……凍れ」


 私の言葉を合図に、杖の先端が光り……

 そこから、炎の波へ向けて、淡い光が放たれる。

 その光が、炎の波に触れた瞬間……



 パキィイイイン……



 耳に届く、瞬間的に激しい音……そして、周囲に漂う冷気。

 それもそのはず。


 激しい熱気を発していた炎の波は、その全てが、見事に凍っていたのだから。


「……な……」


 それを見たダルマ男は、驚愕に声を漏らした。

 自分の攻撃が凍らされた、あの激しい炎が見事に凍った、それほどの魔力の差……様々な、感情が渦巻いていることだろう。


 氷に包まれた、炎だった波……

 それは、まるで芸術品のよう。


 だけど、それに見惚れている暇などあるはずもなく。


「隙あり、だよ!」


「ぁ……!」


 私は、足への強化魔力をして、波を越えてダルマ男の眼前へ接近する。

 確かに、あの炎を止められたことに驚いてるんだろうけど……戦いの最中、隙を見せちゃいけない。

 加えて、凍った波が壁になって、私の動きを隠してくれていた。


 けれど、それじゃあまだ決闘の決着はついていない。

 勝敗をつけるには、相手に敗けを認めさせるか、戦闘不能にするか。


 ダルマ男の性格なら、降参するのは期待できない。

 なら、ちょっと気絶でもしてもらおう。

 大丈夫、結界内なら、たいしたダメージにはならないし。


 私は、全身に回していた魔力を、右拳へと一点集中させる。

 さすがに防御体勢を取ろうとするダルマ男だが、気づいた時点で遅い。


「たぁあああ!」


「そこまで!」


 振りかぶった右拳が、ダルマ男への顔面へと繰り出される……その瞬間、場内に響き渡る声。

 決闘の勝敗結果となるもう一つ、それは先生が止めた場合だ。


 つまり、この時点で決着がついた……と判断されたってことだ。

 ちょっと不服だけど、仕方ない。

 あとは、攻撃の手を止めるだけ。


 先生の合図により、私の右拳はダルマ男の眼前で、ピタッと止まる……

 ……なんて、都合のいい止め方ができるはずもなく。


「ぁ」


「ぶふぉおおおおお!!」


 止めようとした。止めようと努力をした私の右拳は、しかし止まることなく、そのまま振り抜いてしまう。

 結果として、決闘の勝敗がついたにも関わらず、ダルマ男の顔をぶっ飛ばしてしまうことになった。


 まるでボロクズのように、ダルマ男は吹っ飛んでいく。

 ビターンバチーンドゴーン……床に壁に、衝突する。

 すんごい音したなぁ。


 うわ。痛そう。


「あー……ごめんね」


「な、なにしとるんじゃー!」


 さすがに悪いと思った私は、謝る。けど、多分届いてないだろう。

 その場に、先生の怒号が響いた。


 結局、決闘の勝敗は私にはなったけど、先生から注意を受けた。


「私の合図があったのに、なぜダルマスを殴った?」


「いやぁ、あんなぎりぎりで言われても、反応出来ないって言うか……」


「だとしても、あんな全力で殴ることはないだろう」


「ダルマス様ー!」


 完全に伸びているダルマ男は、取り巻きたちに介抱されている。

 すごいや、あんな殴ったのに、ほとんど顔の形は変形していない。


 もしも、結界の効果が反映されてなかったと思うと、ゾッとするけど。


「まったく……

 この後教室に戻るつもりだったが、とりあえず誰かダルマスを保健室に連れて行ってやれ」


「あ、それなら私が……」


 さすがに、私に責任がないとも言えないので、そっと手を上げる。


「任せられるか! どうせ見てないところでまたぶん殴るつもりだろ!」


「もうしないよ!」


「……ダメージこそ抑えられているが、結界内で気絶するまで持っていくとは。

 それも、強化していたとはいえ素手で」


 私だって、節度はわきまえている。

 ダルマ男は気に入らないやつだけど、さすがに気絶している相手を、どうこうしようとは思わない。

 原因は、まあ私にもあるわけだし。


「なら、フィールド、責任もって運んでやれ」


「でも先生、エランちゃんは女の子……」


「たった今、その女の子が同い年の男を気絶するまでぶっ飛ばしたんだ。

 運ぶくらいたいしたことじゃないだろう」


 ……なんだろう、クラスメイトだけじゃなく、先生からも怪力女扱いされている気がする。

 いや、仕方ない部分はあるんだけどさ。


 ま、喧嘩両成敗ってわけじゃないけど……気絶させちゃった責任は、取らないとな。


「よっと。

 じゃ、いってきまーす」


「……あぁ」


 私は、ダルマ男を持ち上げ、肩に担ぐ形で歩き出す。

 はぁ、ちょっとした決闘が、なんでこんなことに。


 なんだか背中に、みんなの視線を感じる。

 そりゃ、あんなぶっ飛ばしちゃったからなぁ。


「男の子一人、軽々持ち上げてる……」


「あれ、身体強化使ってるのか?」


「いや、多分素だ」


 クラスメートたちの声が聞こえなくなるくらいまで離れた所で……私は気づいた。

 保健室って、どこだろう。


 その後、目的の保健室に行こうと、あっちこっち行っている間に、ダルマ男は目を覚ました。


「! てめ、なにして……離せ!」


「あ、ちょ、そんな暴れたら……」


「いてぇ!」


 私の上で暴れるダルマ男は、案の定落ちて地面に激突した。頭から。

 痛そう。


 保健室に行こうと勧めるも、本人は断固拒否し、教室へと戻っていく。

 仕方ないので、私も戻ることにした。

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