第36話 魔眼の持ち主



「ま、がん……?」


 私の隣に座り、私の顔を覗き込むように……いや、自分の顔を覗き込ませるように、ナタリア・カルメンタールちゃんは私に自分の目を指さして見せた。

 その目は、きれいな深い青色だったのだが……


 彼女が自分で指さした、右目は……気のせい、ではない……徐々に、緑色に変色していく。

 数秒とせず、彼女の目は青色と緑色の、それぞれ違う色になった。


「ね、わかる?

 これが"魔眼"」


 距離が近いから、他の人には見えていないはずだ……彼女の瞳の色が、変色したのは。

 同じ席に座っているルリーちゃんとノマちゃんも、お互いに話をしているから気づいてない。


 瞳の色が変わる、なんて、なんて幻想的な……


「えっと……まがん、って?

 それに、ルリーちゃんの件は……」


 目の前の光景に圧倒されつつ、私は先ほどの質問を再度口にする。

 そもそも、ルリーちゃんをエルフだと知っていた理由を、聞いたはずだ。

 それが、どうして魔眼がって話になるのか。


 ナタリア・カルメンタールちゃんは、一瞬きょとんとした顔になったあと、すぐに笑みを浮かべる。


「あぁ、そうだったね。

 この"魔眼"ってのは、いろんなものを見ることができるんだよ。例えば、その人に流れる魔力の気配とか」


「魔力の気配」


「そう。まあ、言うなれば人なら人、モンスターならモンスター、亜人なら亜人、エルフならエルフ……

 種族ごとに、体内に流れている魔力は異なっているんだ」


 いきなりまがんについての説明を始められたけど……

 種族ごとに魔力が違う……ここまで聞いて、ようやく彼女がなにを言いたいのかわかった。


「つまり……ルリーちゃんには、エルフの魔力が流れてる……?」


「そういうこと。

 認識をずらす魔導具でも、体内の魔力まではごまかせないから」


 なるほど……ルリーちゃんが自分から話したわけじゃなく、事前にナタリア・カルメンタールちゃんは知っていたんだ。

 って、ことは……



『そんなに、心配しなくて大丈夫だよ』



 あのとき……部屋割りが決まって、ルリーちゃんの心配をしていた私に向けての、この子のセリフ。

 心配しないでも大丈夫って言葉の意味が、わかってくる。


「ルリーちゃんがエルフだって言いふらすつもりは、ないってこと?」


「もちろんだよ。

 エルフ……それもダークエルフの彼女には、興味があるからね。わざわざ正体を明かして、ここから追いやるようなことはしない」


 気づけば、彼女の瞳の色は元に戻っていた。

 なんか、胡散臭いセリフだけど……嘘は、感じられない。


 実際、ルリーちゃんが仲良さげにしていたし……

 悪い人では、ないらしい。


「なら、一応信じる、ってことにする」


「あはは、ありがと」


「……その、目って……」


「お二人とも、ずいぶんと話し込んでいますわね」


 彼女の目、まがんとやらのことを聞こうとしたけど……そこに割り込むように、ノマちゃんの声。

 見れば、不思議そうな顔でこっちを見ている。

 隣のルリーちゃんも同様に。


「いや、まあ……」


「結構話が弾んじゃってね。ボクたち相性いいみたい」


「む、さては【成績上位者】ゆえのお話ですわね。

 羨ましいですわ」


「あははは。

 けど、それを言うならノマちゃんだってルリーちゃんと」


「わたくし、誰とでも仲良くなれる、がモットーですのよ」


 ふふん、と大きな胸を張るノマちゃん。

 まあ確かに、消極的なところのあるルリーちゃんと話を弾ませるとは。言うだけのことはある。


 ルリーちゃんがエルフだってことも、バレてないみたいだし。

 ……それを見破った、ナタリア・カルメンタールちゃんのまがんってやつは、みんなには秘密にしているものなのだろうか。


「だったら、ボクとも仲良くしてほしいな」


「もちろんですわ!

 お友達がまた増えましたわ!」


「お、お友達……」


 それぞれ、会話が盛り上がっている。

 うんうん、いいねぇこういうの。女の子同士で微笑ましいの。


 こんな楽しい時間を過ごしていると、このあとあることを忘れたくなる。


「ねぇ……みんな、同じ組になれるかなぁ」


「ど、どうしましたの突然」


「うぅん、どうだろうねぇ。

 そうなれたら、嬉しいけど……って、その顔は逆に、同じ組になりたくない人がいるって顔だね?」


「え、そうなんですか?」


 むむ、ナタリア・カルメンタールちゃんは目ざといな。

 その通りなので、私はうなずく。

 できれば、みんなと仲良くしたいと思っている。


 ……でも、誰にでも苦手なものはあるわけで。


「けれど、それをわたくしたちが考えたところで、どうしようもありませんわ」


「だよねぇ」


 無慈悲だけど、真理。その言葉に、なにも言い返せない。

 せめてあいつと一緒にならないように、と祈るばかりだ。


 私たちは朝食を食べ終え、弾んでいた話を切り上げると、集合時間前に集合場所へと向かう。

 確か、中庭に組分けの結果が、貼り出されていると言っていた。


 今から、緊張している……


「あれですわね」


「結構人がいるねぇ」


 その場所には、すでに多くの人たちがいた。

 後ろからでも、見えるくらいに大きく貼り出されているから、見えない心配はなさそうだ。


 組は、どうやら四クラスに分かれている。本当にこの学園四が好きだな。

 各クラス、誰が配置されているのか、見てみないとわからない。


 さて、私はどのクラスになっているのか……?

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