第22話 合否発表



 ルリーちゃんは、私の部屋の隣を借りた。

 部屋は当然個室であるため、ある程度リラックスできるらしい。フードを脱ぐのは、一人のときか正体を知ってる私とだけいるときか。


 部屋ではリラックスできるとは言うけれど、たまにノックなしでクレアちゃんが入ってくることがあるらしい。

 エルフ族は聴覚が優れている……耳長だからかはわからないが……ので、最近ではクレアちゃんの足音を聞き分けるようにしたらしい。あとクレアちゃんの魔力も覚えたとか。


 それからの日々は、ルリーちゃんを加えての王都探索が主だった。

 特に、ルリーちゃんはこういう場所に来るのは初めてなので、終始目を輝かせていたりもした。


 たまに、ルリーちゃんとお互いに魔法の見せあいっこしたりもして……

 魔導学園入学試験日から、数日が経った。


「よっし、行こうか!」


 今日は、入学試験の合否発表の日だ。

 なんか、あっという間だった気がするな。


 合否を確認するには、再び学園に行き、そこに名前が貼り出されているらしい。

 こういうところ原始的なんだな。


 なので、基本的に入学希望者は合否発表の日まで、この国に留まる。

 結果、宿屋を提供している人たちなんかは大儲けチャンスの日でもある。


 ……ただ、合否発表が終わったあとはそりゃ悲惨だ。

 不合格だった人たちは帰るし、合格でも学園の寮に泊まることになるからだ。


「き、緊張します……」


「緊張してもしなくても、結果は変わらないわよ」


 さて、私はクレアちゃんとルリーちゃんと、足を進めている。

 向かう先はもちろん、魔導学園。


 この三人で、全員合格できていればいいんだけど……

 実技に関しては、私もルリーちゃんも問題はなかったと思う。

 ただ、別チームだったクレアちゃんについては、見ていないからわからない。


 もちろん、大丈夫だとは思う。

 事前に魔導の特訓をしたとき、クレアちゃんの実力も見せてもらったけど、充分合格の圏内にいるはずだ。


 筆記については……多分、二人より私のほうが危ないかもしれない。

 とはいえ、実技と筆記総合しての評価だから……大丈夫の、はずだけど。


「でもやっぱり、緊張する……」


「エランちゃんは大丈夫でしょ」


「エランさんは大丈夫ですよ」


 二人から、揃って大丈夫だと言われた。

 そうやって太鼓判を押されると、嬉しいけども。


 そうやって歩いているうちに、見えてきた。魔導学園。

 それに伴い、同じ年くらいの子たちが、増えてきた。

 みんな、入学希望者……合否発表を、見に来たのだろう。


 例年、入学希望者の半数以上は落ちると言われている、入学試験。

 ただ、それは例年の話……今年どうなるかは、わからない。


「二人だって。

 三人とも絶対、大丈夫だよ!」


「そうね」


 お互いの無事を信じ合い、ついに魔導学園へ。

 合格者の名前を貼り出した紙は、敷地内にあるらしい。


 はやる気持ちを抑えつつ、敷地内へと足を踏み入れる。

 この間は迷子になっちゃったけど、今度はしっかり、はぐれないようにしないとね。


 少し歩くと……おぉ、あった。

 中庭に、大きく貼り出された紙。

 そこに、名前が書かれている、一人ずつ。


「見つけるの大変だな……」


 この中から、自分の名前を見つけるのか……結構大変だな。

 そう思ったけど、どうやら名前はあいうえお順に並んでいるようだ。


 となると……エランのエ……エ……


「あ、あった!」


 自分の名前を探していると、隣にいたクレアちゃんが叫ぶ。

 彼女が指さす先には、クレア・アティーアの名前があった。


「わ、私も!」


 続いて、声を上げるのはルリーちゃん。

 彼女の名前も、ちゃんとルリー、として名前が、書かれてあった。


 さすがだよ、二人とも。

 あとは、私の名前を見つけるだけだ。なぁに、エなら最初から見ていったほうが早い。



 アメリア・ドートド

 イクレ・カーマン

 イザリ・ダルマス

 エザ

 エロメル・サーテン

 オリメラル……



 ……あれ?



 アメリア・ドートド

 イクレ・カーマン

 イザリ・ダルマス

 エザ

 エロメル・サーテン

 オリメラル



 ……な、い……だと?


 エラン、エラン、エラン……あいうえお順なら、エザとエロメルの間に、あるはずだ。私の名前が。

 あるはずなのに……ない……?


「……」


「……」


 どうしよう、ショックでなにを言っていいのかわからない。

 というか、クレアちゃんもルリーちゃんも、呆然としてしまっている。

 二人に、気を遣わせてしまっている……!?


 い、いけない私……しっかりしろエラン・フィールド。

 よ、予想できたことじゃないか……三人全員合格できたら嬉しいことだけど、落ちる可能性だってあるってことは。

 それが、私だったというだけの話。


 あ、でも、どうしよう……わりと、ショックだこれ。

 私は師匠を超える魔導師になるのに、こんな、体たらくじゃ……


「エランちゃん……」


「エランさん……」


 二人が、私を慰めようとしてくれている。

 なんて、いい子たちだろう……でも、私は……


「ねぇ、あそこの【成績上位者】に載ってる三人、すごくない?」


「実技試験、筆記試験共に成績が良かった人なんですって」


「名前は……エラン、ナタリア、ヨル……聞かない名前だな」


「……ぁえ?」


 もはや、なにも耳に入らない……そんな状態だった私だけど、ふと自分の名前が呼ばれたような気がして、首を動かす。

 向こうで、入学希望者たちが騒いでいる。

 その先に、書かれているのは……


「成績……」


「上位……」


「者?」


 合格者一覧の横に……【成績上位者】と書かれた枠に、三つの名前があったのだ。

 そこにある名前を見て……私は、目を見開いた。



 【成績上位者】

 エラン・フィールド

 ナタリア・カルメンタール

 ヨル



「わ、私の……」


「エランちゃん!」


「エランさん!」


 直後、二人が抱きついてくる。

 そこに、私の名前が載っている、ということは……


 私も、合格したんだ……! やった……!

 これで、私も、二人と一緒に……魔導学園に、通えるんだ!


 私たちは、その場で人目も憚らず、大はしゃぎした。

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