第19話 ルリーちゃんの実力



 実技試験を終え、『合格』を言い渡された私は、元いた場所に戻った。


「いやぁー、なんとかやり遂げられたみたい」


「え、エランさんっ、す、すごいですっ」


 すると、待ってくれていたルリーちゃんが、やや興奮した様子で駆け寄ってきた。

 どうしたんだろう、私の合格をそんなに喜んでくれるなんて。嬉しいけど。


「いやぁ、てっきり、おっきな魔法でちっさい的全部壊したから、怒られるのかと思ったけど」


「え、なに言ってるんです」


 私の言葉に、ルリーちゃんはきょとん、とした様子だ。

 え、なに。私なんか変なこと言った?


「いいですか、大きな魔力というのはまず、制御が難しいんです」


「制御が?」


「はい。

 魔力のコントロールを補助するのが、この魔導の杖です。けれど、あくまで補助……完璧にコントロールするには、本人の技量が不可欠です」


「う、うん」


「大きな魔力は、それだけ制御が難しくなって……一見、大きな魔法なら小さな的にでも簡単に当たりそうですが、実はそうではないんです。

 制御を誤れば、見当違いの方向へと飛んでいきます」


「なんと」


 ルリーちゃん曰く、大きければ大きいほど魔力の制御は難しくなる……それこそ、魔導の杖があっても。

 制御が難しければ、それは狙ったのとは違った方向に飛んでいく。


 なるほど。だから誰も、一定の魔力以上のものは出さなかったのか。自分が制御できる、限界の大きさ。

 それを判別し、魔法として昇華する。


「でもあれくらい普通じゃない?」


「あんな大きな魔力で、それも勢いを殺さずに、的を破壊するなんて……普通じゃないです」


「あー、あれもか」


 魔力の大きさだけでなく、これまで的を破壊した者もいなかった。

 ここからあの的の距離の中で、魔力が消耗してしまうからだ。


 つまりは、私は今回の試験で、魔力の大きさと制御を、みんなに見せつけることができたわけか。


「エランさん、本当にこの国の出身じゃないんですか? どこで魔導を習って?

 とんでもないですよ」


「えへへぇ、まあねー。

 これも、師匠の教えの賜物かなぁ」


「その、師匠って……?」


「次、ルリー!」


「あ、私です」


 こうして話している間も、他の入学希望者は試験を続けていて……ついに、ルリーちゃんの番となる。

 自分の名前を呼ばれて、ルリーちゃんは、肩を震わせた。


 私は、彼女の肩をたたいた。


「ま、肩の力抜いていきなよ」


「は、はい」


 ガチガチだ……大丈夫かな。

 右手と右足が一緒に出ている。


 なんとなく……まあ師匠の影響だけど……エルフっていうのは、魔力の扱いに慣れているイメージがある。

 師匠曰く、エルフ族は森に住んでて精霊と心を通じ合わせているから、大気に溢れる魔力とも干渉しやすいのだとか。

 よくわかんないけど。


 ただ、ルリーちゃんはダークエルフ……本人が言うには、邪精霊ってやつと云々カンヌン。

 普通のエルフとは、また少し違うんだろうけど……


「でも、わざわざ魔導学園に入学するために来たわけだし……」


 よほど自信がある……んだとは、思う。

 ここは、ルリーちゃんの実力を見ることとしますか。


 スタートの合図を受け、ルリーちゃんは左手に持った杖を的に向けて、構える。

 その構えには、寸分の隙もない……きれいな、構えだ。


 その杖の先端には、魔力が集まり……まるで水のように、揺らめいている。

 一呼吸置いたあと……


「ふっ!」


 杖の先端から、水の弾丸が放たれる。それも単射ではない、連射だ。

 ダダダダダッ……と、ルリーちゃんが腕を横に、的に向けて水平に移動するように、動かしていく。


 放たれた水の玉は、いや弾は、寸分狂うことなく……的へと直撃した。


「おぉ」


 思わず、声が漏れた。

 いや、それは私だけではない。みんな、多少なりざわめいている。


 放たれた水の弾は五つ……それがすべて、的に命中した。

 的を破壊するまでにはいかなかったが、無駄なく放たれた魔法は、狙いこぼしがなかったということだ。


 数撃ちゃ当たる……というわけではない。連射し、一つ一つを正確に、当てたのだ。


「すごいよルリーちゃん!」


「わっ」


 戻ってきたルリーちゃんに駆け寄り、その身体を抱きしめる。

 うわぁ、なんかいいにおいする……


 こんなにすごい魔導士だったなんて。

 これなら、実はエルフでしたってバラしても、問題ないんじゃない?

 尊敬されるよ!


「そ、そんなこと、ないですよ。

 それに、エランさんのほうがよっぽど……」


「いやー、あんな早業の芸当、私にもできないよー」


 ルリーちゃんは私をすごいと言ってくれるけど、私こそルリーちゃんをすごいと評したい。

 一つ一つ正確な的撃ち、簡単に真似できるものじゃない。

 さすが、あんな怖い思いをしてまで魔導学園に来ただけのことはある。


 ……そういえば、ルリ―ちゃんをいじめていたあいつらはいないな。いたらちょっかいかけてくると思うから、別のグループに分かれているのだろう。


「きっと、ルリーちゃんも間違い無しの合格だね!」


「どうでしょう、エランさんみたいに合格って言われたわけじゃないですし……」


「大丈夫だってー!」


 その後も、試験は続き……みんな様々な結果を残して、実技試験は終了した。

 これだけか、と拍子抜けしないこともないが……試験内容があんまり多くても、面倒だしね。


 結局、直接合格と言われたのは私だけだった。

 これはもう、成績トップで入学できちゃうのでは? ぐへへ。


「次は、筆記試験かぁ……

 大丈夫でしょうか」


「魔導に関する知識を試す試験でしょ?

 なら絶対大丈夫だって!」


 魔導学園の筆記試験だ、魔導の知識についての試験に決まっている。

 そして魔導についての知識ならば、師匠のところにいる間に嫌というほど学んだ。


 くくくっ、これはもう楽勝でしょう。


「よっし、引き続いて頑張ろうねルリーちゃん!」


「そこ、静かに!」


 怒られてしまった。

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