第18話 挑め、実技試験!



「よし、次!」


 遠くの的を、魔導を使って撃ち抜く……

 それが、魔導学園入学試験の、この実技試験の内容だ。


 的の数は五つ、均等な距離を保って横並びになっている。

 時間制限内に、いくつの的を撃ち抜けるかが、採点の基準だ……多分。

 多分というのは、「時間内に的を撃ち抜け」としか言われていないからだ。


「皆さん、苦労してますね……」


「みたいだね」


 魔導を的にぶつける……それだけの行為だ。距離があるとはいえ、そう難しいものじゃない……

 そう、思っていたんだけど。


 これまで二十人とちょっとが試験に挑んだけど、実際に的に魔導を当てられたのは半分程度。

 撃ち抜くどころか、当てるのでそれだけだ。

 その上、複数の的に当てられる者はさらに限られ、五つ全部なんてまだ誰も居ない。


「あれ、そんなに難しいの?」


「試験内容自体は、シンプルです……

 シンプルゆえに、魔法の力を測りやすいんです」


「と、いうと?」


「まず、魔法を撃つ際に重要なのは距離です。

 自身の魔力量によりますが、撃った魔法はある程度の距離を走った後には魔力切れで消滅してしまいます。

 エランさんも見ていたでしょう? 的に当たるより先に魔法が消えていくのを」


「あー……」


 なるほど、距離の問題か。

 確かにルリ―ちゃんの言う通り、撃った魔法は的に当たるより先に、消滅するものが多かった。


 つまり、このやり取りだけで『これだけの距離を持続させられない魔力量』……ということが、わかるわけか。


「みんな、なんで途中で魔力切らしちゃうんだろうって思ってたけど……

 そもそも、魔力が足りてないのか」


「……?

 次に、問題は的の小ささです」


「え、あれ小さいの?」


「え、はい」


 次に問題とするのは、的の小ささ……らしいんだけど。

 あれ、小さいのか……


 私は、師匠との特訓で、もっと小さな……手のひらくらいの的に当てたりしてたけどなぁ。

 それに比べれば、一回りも二回りも大きいと思うんだけど。


「魔導には精密なコントロールが必要になります。

 そして、魔力をより正確にコントロールするために必要なのが、この魔導の杖」


「あ、それ聞いたよ師匠から。

 見て見て、この杖、師匠から貰ったんだー。えへへ」


「は、はぁ……

 こほん。

 とにかく、魔力のコントロールをしっかりと定めないと、あの小さな的には当てられません」


 ルリ―ちゃんの説明はわかりやすいなぁ。

 そういえば、さっきから撃っている魔法は、ふらふらしているものがほとんどだ。


 ここまでで、本人の魔力量、魔力のコントロールの正確さが、わかるわけか。


「なるほど、そこまで奥が深いものだったとは……」


 もしかして、私が考えているより、よっぽど考えられた試験なのかもしれない。

 そりゃそうだよね、天下の魔導学園だもん。


 天下もなにも、なーんにも知らないけど。


「それに、これは試験の合否に関係あるのかわかりませんが……」


「言ってみたまえ、ルリ―くん」


「…………あの的、結構固いですね」


 なぜだか、ルリ―ちゃんはすっぱいものを食べたかのような、きゅっとした表情になり……なりながらも、説明を続ける。

 的が、固いと。


 ふむ……さっきから、魔導が的に当たっても、それを壊すに至っていない。

 さっきのルリ―ちゃんの説明を踏まえると、魔力は距離によって消費されるから……的に当たっても、それまでの距離で消費された魔力では的を壊すには至らない、と。


 ……いや、そもそもあの的は、壊れるようなものなのか?

 魔導じゃ壊れないように、なんかこう、細工してあるんじゃないだろうか。


 あり得るな。


「まあでも、先生はあの的を狙え、と言っていたので、壊す必要はないと……」


「次、エラン・フィールド!」


「あ、私だ」


 うーん、未だに、エラン・フィールドって呼ばれるのは慣れないなぁ。

 なーんか、くすぐったいっていうかー、こう、あれだよあれ。

 えへへへへ。


「あの、エランさん、すごい顔してますよ」


「おっといけない……じゅるり。

 ま、行ってくるよ」


「が、頑張ってください!」


 軽く手を上げて、呼ばれた私は駆け走る。

 さっきまで、別の人が立っていた場所……ここから、あの的を狙うのか。


「エラン・フィールド……誰だ?」


「さあ、知らね。

 家名があるってことは貴族なんだろうけど」


「どっかの下級貴族なんだろ」


「えぇ、でもあの家名……」


「あの子人間じゃないの、ないない」


 なんかいろいろ聞こえるけど、無視無視。


 うーむ、ここに立つと……思ったより距離があるってわかるな。

 実際に立つかどうかで、変わるもんだなぁ。


「制限時間内に、あの的に当ててみろ。

 では、スタートだ!」


 よしよし……っと。

 私の目的は、魔導学園で魔導を学ぶこと。

 だから、入学試験なんかで、躓いているわけにはいかない。

 ここは、さくっとクリアして……


 ……そうだ!


「……ふぅ」


 いいことを考えた。

 私は、自分の中の魔力に集中する。

 魔導。そのうち魔法と魔術、どっちを使っていいとも使っちゃダメとも言われなかったけど……みんな魔法使ってたし、私もそうしよう。


 魔法に必要なのは、イメージだ。イメージの具現化……それにより、魔力は様々な形に変わる。

 たとえば玉、たとえば剣、たとえば槍……


 今回は、シンプルに玉にしよう。


「え、エランさん……?」


 ふと、不安げなルリ―ちゃんの声が聞こえる。

 まあ、気持ちはわかる……これまでの人は、スタートと同時に魔法をぶっ放していた。

 時間制限がある以上、先手必勝だからだろう。


 だけど、私は……


「おいおい、もしかして緊張でかたま……って……」


「う、うそだろ……?」


 考え付いた、いいこと。それは……

 どうせなら、誰もやっていないことを、やろう!


「どんどん、魔力が大きく……」


「あの子、バカなの!?」


 イメージするのは、大きな火の玉。

 一つずつ、的を狙うなんてちゃっちぃことはしない……


 どうせなら、全部まとめて、焼き尽くしてやる!


「そー、れ!」


 その場で振りかぶり……杖の先にある魔法を、放つ。手の中の玉を投げるかのように、手を振るったのだ。

 その動きに呼応するように、火の玉も動き……

 的へと、放たれる。


 それは、一直線に……狙い通り、的へと向かっていき……



 バゴォッ……



 激しい音を立てて、的に衝突した。

 立ち上る爆炎、その先に……五つすべての的が、焼け焦げ壊れている姿があった。


 ぃよし!

 時間制限内だし、全部壊してやった! これは合格間違いないでしょう。


「……ん?」


 なんだろう、周囲が異様に静かだな。

 これまでは、結果はどうあれ試験を終えた人には、なにかしらの反応があったのに。


 も、もしかして……なにか、ミスったのか?

 あんな大きな魔法使っちゃ、まずかったか?


 そうかそうだよな……いくら小さい的だからって、あんな大きいものぶっ放せば、当たるよな。コントロールが大事だって、ルリ―ちゃんに言われてたのに、コントロール関係ないんだもん。

 かくなるうえは、もう一度……


「うむ……よし、合格だ」


「ほぇ」


 モノ申す……としていたところで、先生が、口を開く。

 とても落ち着いた様子で……しかも、今まで誰にも『合格』なんて言わなかったのに。


「どうかしたか?」


「え、あ、いや……

 あ、ありがとうございます!」


 なんだか、よくわからないけど……合格、らしい。

 や、やったぁ?

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