第2話 魔法と魔術



 この世界には、魔力というものがあふれている。

 それを一般的には魔導という力に変換する。自分の力として扱う者を、魔導士と呼ぶ。


 さらに、魔力を使うものには魔術と魔法、二つの種類がある。


「では、復習だ。

 エラン、魔法と魔術の違いは?」


「はい!

 魔法とは、自分の中に流れる魔力を使う術のこと。

 魔術とは、大気中に流れる魔力を使う術のことです」


 この世界にあふれている魔力という力……しかし、それは人間の中にも流れている。

 すべての人間の中に、少なからず魔力は存在するのだ。


 もっとも、すべての人間が自分の中に流れる魔力を感じ取れるかは、また別の話だけど。

 中には、魔力を扱えず一生を終える人間も少なくないと聞く。


「そうだ。

 では、魔法と魔術、それぞれの利点と欠点を述べよ」


「はい!

 魔法の利点は自分の身の丈にあった力を使えること、欠点は自分の魔力が少なくなると不調をきたすこと。

 魔術の利点は自分の魔力以上の力を使えること、欠点は……ええと……」


 自信満々に答えるが、魔術の欠点を考えたところで言葉に詰まってしまう。

 自分の魔力しか使えない魔法より、魔術の方が利点が大きい。


 その、欠点か……

 自分の魔力を使えば、当然体力も減る。魔力を使い続ければ、体調を崩してしまう。それに比べて、大気中の魔力を使う魔術で不調をきたすことはない。

 集中力はめっちゃ使うけどね。


 ううんと考える私に、師匠は薄く笑う。


「時間切れだ」


「そんなぁ、聞いてないです!」


「言ってないからな」


 師匠は、意地悪に笑う。

 師匠め。たまにこうして、私で遊んでくるのだ。


「魔術の欠点、それは精霊の機嫌に左右されるってところだ」


「あぁ!」


 言われて、はっと気づく。そうだ、精霊さんだ!

 こんな大切なことを、忘れていたなんて! 当たり前すぎて逆に出てこなかったよ。


 そんな私の姿を見つめながら、師匠は続ける。


「魔術とは大気中の魔力を使うが、厳密には少し違う。

 精霊の力を借りて、魔力を使わせてもらうんだ」


 そう、この世界には目に見えない、"精霊"という存在がいる。目に見えないのだから、どんな姿をしているのかもわからない。

 精霊を通じて、大気中の魔力を使わせて"もらう"のだ。


 だから、そもそも精霊と心を通わせなければ、魔術は使えない。

 魔法より利点は多いが、魔法以上に扱うのが難しいとされている。


「ご機嫌取り、という言い方はよくないが。

 魔術は精霊頼りになるため、精霊の機嫌を損なうと使えない」


「機嫌、ですか」


「あぁ。そうだな……

 たとえば、エランが仲良くしている子が、実はものすごい悪いことをしていたら、どう思う?」


「それは……嫌ですね」


「そういうことだ」


 精霊は目に見えない……だから近くにいるのか、いないのかもわからない。

 でも、きっと精霊は、私たちを見ている。どこからでも、いつも見ている。そう、心構えるようにしている。

 実際、存在は感じられる。


 心を通わせた相手が、悪いことをしていたら、精霊だって嫌な気持ちになるだろう。

 そんな相手に、力を貸そうとは思わない。


 だから、精霊と心を通わせた者は……精霊に見限られない、自分に恥じない生き方を心がけるようになる。


「他にも、精霊の力が弱まる場所では、魔力を借りられない場合もある」


「そんな場所が、あるんですか?」


「あぁ。たとえば……毒のある空間、とかな。

 精霊が嫌う場所だ」


 精霊とは偉大なる存在だ。とはいえ、苦手なものがないわけはない。

 苦手な場所では、力は発揮できないということだ。


 例として、聖なる存在である精霊は、邪である毒を嫌う性質がある、と言われている。


「そういう場所では、逆に自分の魔力頼みになる、と」


「そう。己の魔力は、体調で変動しても場所には作用されないからな。

 だから、魔法や魔術、片方より両方を極めるのが、理想的だ。

 ちなみに、人や地域によっては魔術を精霊術とも呼ぶようだ」


「精霊術……」


 魔法も魔術も極める。簡単に言うけれど、それはとても難しい。


 私が師匠から、魔力について教わり始めたのは、果たしていつだったか。

 私から頼んだのか、師匠から言い出したのか。

 多分、私がねだったんだろうな。


「師匠は、魔術も魔法も使えるんですもんね」


「まあな。一応、それなりの術師のつもりだ」


「なら、精霊と仲良くなるコツとか教えてくださいよ!」


「自分で考えないと、それは意味ないことだから」


「ぶー」


 こう言って、師匠は肝心なことは教えてくれない。

 たまに、本当に精霊は存在するのか、と疑いたくなるほどだ。


 でも、それを意地悪とは思っても、だから嫌いになることはない。


「というか、エラン……キミは、すでに精霊と仲良しだろう。

 正直、時々エランが羨ましくなるくらいだ」


「えへっ」


「…………さて、魔法と魔術について、理解したか?」


「はい、師匠!」


 彼が、私の師匠だから。

 私の尊敬する、私の師匠だからだ。


 その後も、魔道士に必要なものなど、これまで習ってきたことを復習する。

 それにしても、今日はやけに、復習の多い日だな、と思った。師匠のやることだから、受け入れているけど。


 復習の多い理由……それは、その日の晩、明らかになった。

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