史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

第一章 魔導学園入学編

第1話 師匠と弟子



「おはようございます! 師匠!」


「……相変わらず朝から元気だな」


 窓の外から、ちゅんちゅんと小鳥のさえずる声が聞こえる。

 気持ちのいい朝だ。


 カーテンの隙間から差し込む朝日に目を覚ました私は、軽く顔を洗って、その足で広間に。

 椅子に座っている、男の人の背中……その背中に向かって、私は元気よく声をかけたのだ。


「エラン、いつも言っているだろう。

 私は朝が弱いから、声は抑えてくれと」


「はい、すみません!」


「……」


 男の人……私が師匠と呼ぶその人は、私の返事を受けてかなぜだかがっくりと肩を落とした。

 私、なにかやっちゃっただろうか?


 さて、起きた私がやることは、たくさんある。

 まずは朝ご飯の準備、それに洗濯、お掃除。

 てきぱきと、動かないと!


「エラン、家のことをやってくれるのはありがたいのだが……そう、張り切らないでもいいのだぞ?」


「いえ、師匠は私の恩人ですから!

 返せることなら私、なんでもします!」


「いや、しかしだな……」


「それに師匠、放っておいたらすぐにお部屋汚しちゃいますから!」


「……」


 あれ、また師匠が表情を暗くしている。

 いやだなぁ、朝からそんな暗くっちゃ。


「ふんふんふふーん♪」


 ここは、師匠……グレイシア・フィールドの家だ。

 私はここに、居候をさせてもらっている身。

 彼は私の師匠であると同時に、私の恩人でもある。


 私の『エラン』という名前は、師匠が付けてくれたものだ。

 というのも、私には記憶がない。自分の名前も、家族も、なにもわからないのだ。


 師匠の話では、ある雨の日、道端に倒れていた私を保護してくれたのだという。

 目覚めた私は、しかしそれ以前の記憶を失っていた。


 当時、師匠はあらゆる手段を使って、私の家族を捜そうとしてくれたみたいだけど……手掛かりは、なし。

 一時的な保護は、いつの間にかどんどん一時的ではなくなっていった。


 私が拾われたのは、もう、十年も前の話だ。


「はい、できましたよ師匠!」


「ありがとうエラン。

 …………これは?」


「昨日採れた、モンスターのお肉です! 

 ステーキ風にしてみました!」


「……朝から?」


「元気が出るでしょう!?」


 ふんす、と私は、あまり大きくない胸を張る。

 うぅ、これからだもんね……


 私、料理には自信がある。

 というか、師匠の家でお手伝いしているうちに、家事全般が得意になった。


 逆に師匠は、家事は壊滅的だ。

 なので、私がお世話しないといけないのだ。


「……エラン、作ってもらっておいてこう言うのは気が引けるのだが、朝からこれは重くないだろうか」


「大丈夫、私も同じ品ですから!」


「……なにが大丈夫なのかまったくわからない」


 頭を抱える師匠、その正面に座る。

 こうして向かい合って食事するのも、すっかり日常だ。


 手を合わせ、食事を始める。うん、美味しい。


 ふと、正面の師匠の顔が目に入る。

 綺麗な顔してるよね……肌は白いし、サラサラの金髪。目は輝く緑色。師匠以外のエルフ族に会ったことはないけど、みんな耳尖ってるのかな。


「……どうした」


「いやぁ、師匠の髪綺麗な金髪だなーって」


「それを言うなら、エランの黒髪こそ珍しい」


「そうなんですか」


 と、師匠が指摘した私の髪の色は、黒だ。

 最近伸ばし始めたそれは、肩くらいの長さ。


 曰く、エルフ族として長く生きてはいるが、私のような髪の色をした人間は見たことがないらしい。

 師匠が私を拾ってくれたのも、もしかしたらそういった物珍しさがあったのかも……


「さて。

 食事が済んだら、腹ごなしも兼ねて魔導の訓練といこう」


「ホントですか!? やったー!」


 食事の準備の最中に、軽く洗濯や掃除はやっちゃったし。

 魔導の訓練ともなれば、急がないわけにはいかない!


「はむっ!」


「おいおい、そんなに急いだら喉に……」


「んぐ! んっ……」


「……言わんこっちゃない」


 食べ物を喉に詰まらせ私は胸を叩く。

 や、やってしまった……!


 ほら、と手渡された水を受け取り、それを勢いよく飲み干していく。


「んぐ、んぐ……ぷはぁ!

 あ、ありがとうございます」


「別に訓練は逃げない。

 落ち着いて食べなさい」


「う、はい」


 師匠に、恥ずかしいところを見せてしまった。不覚だよ……


 その後、言われた通りに落ち着いて、食事を再開する。

 自分で作っておいてなんだけど、かなりの出来だと思う。


 食事の間の会話は、だいたい私から話しかけ、師匠がそれに答えるというもの。

 師匠は基本無口……というわけでもないのだけれど。

 以前その件について聞いたら、私が騒がしいから自分から喋らなくて楽、とのことらしい。


「ふぅ、ごちそうさま!」


「ごちそうさま。美味しかったよ、エラン」


「えへへー」


 無表情で黙々と食べていたが、見事に完食。わかりにくいその表情も、見慣れてしまえば逆に愛嬌があるというものだ。


 自分でも美味しいが、やっぱり人に美味しいと言ってもらえると数段嬉しい。

 もう、師匠の胃袋は掴んだも同然だね!


 その後食器を片づけて……

 いよいよ、魔導訓練へと移る。


「杖は持ったか、エラン」


「はい!」


 外に出て、私は一見木の枝にしか見えないそれを見せつける。

 しかし、木の枝とは似ても似つかないものだ。


 これは魔導の杖……魔導を使うために、必要なものだ。


 それを見て、師匠は満足げにうなずく。

 私が、師匠を恩人ではなく師匠と呼ぶ理由……それは、私にとって魔導の師匠だからだ。

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