第10話 貴方という存在

隠さないです。この気持ちは。

そう言ってから鈴香は俺自身に告白してそのままキスをした。

俺はそんなに意識もそして.....鈴香の事を何とも思ってなかったが。

異世界にすっ飛ばされた気分だった。

勇者が道具無しに。


「美味しいですか?先輩」


「.....へ?.....あ、ああ」


「もー。お兄。その反応は如何なものかなって思う」


「.....あ、ああ.....すまん」


良いんだよ、と言いながら環にウインクする鈴香。

俺はその可愛らしい姿にまた赤面した。

コイツ平然としているが.....やった事の重大さに気付いているのだろうか。

思いながら俺は味噌汁を見る。


今日の朝の献立。

きんぴらごぼう、漬物、卵焼き、鮭。

そしてご飯。


恐ろしいのはこれ全部を作ったらしい。

コンビニ飯一切無し。

漬物もちゃんと漬けたらしい。


「.....漬物が美味いってお前凄い根性だよ」


「.....?.....そうですか?だってまあ.....先輩の為ですし。全然キツく無いです」


「.....そうか」


「先輩。労ってくれて有難う御座います」


「.....いやまあ.....っていうかこんな無理はしなくて良いぞお前。.....鈴香。全部作るの大変だろ」


「大丈夫です。先輩と一緒に暮らす日が来る時に備えて」


お、おま.....。

俺は赤くなりながら黄色い悲鳴を上げる環を見る。

コイツもう平然と隠さなくなったな!

頬.....熱を感じる。

こんなにアタックする様な奴じゃなかったぞ昔は。


「先輩。私はあの日。先輩に救われてから先輩が宇宙一格好良いです。だから好きです」


「もう良いから!それ以上言うな!?」


「.....はい。じゃあやめておきます」


「.....ったくお前は.....」


すると環が、もしかして告白したんですか?、と鈴香に聞く。

鈴香は頷きながら、うん、と明かした。

俺はその様子を見ながら恥ずかしくなり一生懸命に骨を取る。

鮭の骨を.....。


「お兄」


「.....何だ」


「.....お兄は嫌かもしれないけど.....周りも見てあげてね」


「.....そうだな。まあ.....それなりには」


「うん。鈴香さんがせっかく声を挙げたんだから。告白したし」


「.....」


俺は春香に浮気された。

そして絶望して打ちのめされて今に至る。

そしたら後輩に告白された。

不思議なもんだな人生ってのは。

考えながら俺は赤くなる。


「春香先輩に負けないって決めたの」


「.....そうなんですね」


「.....でも告白のお返事は今は要らないって言った。だって今は.....そんな気分じゃ無いだろうしね」


「相変わらずですね。.....鈴香さんも」


「私はいつも通りだよ。.....愛したいものは愛したいから」


「お前ら。飯食うぞ。早くしないと遅刻だ」


「そう言って逃げないの。お兄」


逃げてないって。

でも恥ずかしいからもう話すな頼むから。

俺は考えながら2人を見る。

2人はニコニコしながら。

そして見合いながら笑みを浮かべていた。


「でも時間が無いのは事実だね」


「そうだ。だから早くしないと」


「.....そうですね」


そして俺達はかき込む様に飯を食ってから。

そのまま玄関を開けてから表に出る。

それから学校に登校すると。

下駄箱に鈴が居た。

部活動で先に行った鈴がジト目で見ている。


「.....な、何だ」


「.....ちょっと良い?」


「.....な!?何処に行くんだ.....お前!学校!もう時間無いんだぞ!」


時間が無いっての!

だがそれでも話を聞かない感じで校門から逆の方向に向かう鈴。

そして体育館裏に来た。

何.....な、何だ?

すると前を見たままの鈴が語る。


「.....あの。鈴さん?何をしているのですか」


「ねえ。.....もしかして鈴香に告白された?」


「.....は!?何でそれを知っている!?」


「す、鈴香が先に行ったしね。貴方の家に。.....そして何だか浮かれていたし。昨日から」


「.....落ち着かない様子だったとか?」


「そう」


そして俺の方を向いてくる鈴。

ホームルームのチャイムが鳴る音がした。

あー、と思いながら俺は額に手を添えてみる。

マジにどうする気だよ、と思っていると。

鈴はモジモジしていた。


「.....ねえ」


「.....何だよ。早くしないと.....」


「目を瞑って」


「.....?.....何で?何をする?」


「今日は歯を磨いたから良いよね.....」


「.....歯?いや。それが.....」


するといきなり鈴が背伸びをしてきた。

風が吹く。

そして至近距離に鈴の顔が迫った時。

俺は鈴とキスをしてい.....はぁ!!!!?

真っ赤になる俺。


「なぁ!?お前何.....!?」


「鈴香が言ったなら私も言う。.....私は一人の男性として貴方が好き」


「.....はぁ!!!!?」


そして俺に縋る様に寄って来る鈴。

それから俺を見上げてくる。

何.....そんな.....ば、馬鹿な!?

俺はまた真っ赤になる。


「.....お、おま.....」


「私は.....貴方が好き。.....大好き。.....今すぐにこれの返事とかは要らない。.....だけど貴方を一人の男の子として好きだっていう女の子がこの場所に居る事を.....知ってほしい」


「.....」


何も言えなくなる。

それは鈴香からも聞いた。

俺は眉を顰める。

鈴は、鈴香からも聞いたんでしょ?.....これ、と言ってくる。


「.....そうだが.....」


「じゃあ私も同じ。返事は今は要らない。.....いつか君が返事をしたいって思った時。返事を下さい」


「.....」


俺は。

鈴と鈴香に対して俺は何も返事は出来ないだろう。

ショックがデカすぎるから。

だけど.....何で自暴自棄になっている俺をこんなに愛してくれるのだろうか。


俺は.....考えながら寄り添ったままの鈴を見た。

木の葉が舞う中。

ずっと。

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