卒業式『別れの挨拶』『bot』『自主企画』
一際強い風が吹き、私の髪を揺らす。
一瞬目を閉じなびいた髪を抑え、空を見あげる。
「今日もいい天気、ね」
私は、職場に行く途中とある学校を目にした。
桜が咲き始めるがまだやや寒いこの季節の風物詩、卒業式だ。
「懐かしいなぁ」
私が卒業式を経験したのはもう5年以上前、高校を卒業した時だ。
「みんな元気にしてるかな~」
足を止めて、私は学校の様子を少し離れた位置から眺めていた。
『舞ちゃん元気でね。お別れは寂しいけど、それぞれの夢のためだもんね、バイバイ!』
高校時代の一番の親友とはそう言って別れた。
他の友達や知り合い、先生ともそう言って別れた。
悲しくはない、田舎の高校に通っていた自分にとって、この別れは分かっていたことであり、当然経験する出来事であった。
しかし、私が気になったのはそこではない、皆がまるでbotのようにひたすら「さようなら」を連呼する姿に、疑問と変な違和感を覚えた。
「別に死ぬわけでもないのに、そんなに泣いて別れる必要なんてないのにね」
私が田舎を出て、夢を叶えるために今いるシェアハウスに住むことになったけど、その考えは結局変わらず今にまで来ている。
「ま、だからこんな企画を立ち上げたりするんだけどね」
私は、抱えた資料を誇らしく思いながら掲げる。
「題して、『またね計画』!」
内容自体は簡単だ、卒業式等で言う言葉を「さようなら」から「またね」に変える、ただそれだけの小さな改革だ。
今日の仕事はそれをプレゼンするために、私の職場である市役所に向かっているのだ。
「私の夢、いや野望はこの国に名を残すこと、それの第一歩とするのよ!」
どうやら私は、皆に大人しめの控えめな子だと思われているようだが、実際はそんなこともない。
胸の内に野望を秘めた、とんだ野心家なのだ。
「さてさて、来年の卒業式が楽しみね」
私は学校を眺めるのを止め、再び市役所目指して歩き出した。
私の野望の第一歩を踏み出したのだった、春の訪れを感じる風を背にして。
「へっくしゅん!」
春はあんまり好きじゃないけどね。
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