より先なるものから

プロローグ


 つんざくようなその声に、たまらなく、手で押さえるように両耳を塞いだ。

 それが無駄な行いだということは、分かっていた。

 そうしたところで、遠くなるのは野外の激しい雨音と雷音のみ。

 聴覚を閉ざしたとしても、その声は変わらず聞こえてくる。

 こちらが閉めても、あちらが閉めない限り、それは直接、届いてしまう。

 今までは、それが安心に繋がっていた。

 姿が見えなくても、存在を感じることができた。

 どんなに離れていても、いつも一緒だと思えた。

 その澄んだ声を聞くだけで心は満たされ。

 その優しい声を聞けるだけで、幸せだった。

 でも、今は違う。

 今は怖い。

 怖くてたまらない。

 あれだけ大好きだった彼女の声が、今は聞きたくない。

 聞き慣れた声の、聞き慣れない声が。

 喘ぎ苦しむ声が怖ろしくて、体の震えが止まらない。

 ……それなのに。

 恐怖に支配された体の奥底にどうしてか。

 強い、感情の高ぶりを、感じていた――……。


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