第3話:弾と共に飛んでいく金貨と満腹感

 血みどろの戦いが続いている東部戦線はどこまでも荒野。

 鈍色の曇天。

 風が運んでくる血と鉄の匂い。


 もう慣れたけど、人間の居場所ではないね。

 そんなとこにも貧民は生活をしているんだ。


 その上空、高度二○○で東方の王国軍方面司令部へ向かって、俺達七七任務部隊、竜騎兵一三騎が飛行している。


「ラーク13。先行して高度三○○にて本隊前方五〇〇〇を早期警戒任務につけ」


 早速、死地ですか。

 竜騎兵を倒せるのは竜騎兵のみ。

 対空火器は役に立たない。

 まずは当たらないし、当たってもドラゴンの鱗はすべてをはじく。


 問題は騎乗する俺たちの命です。

 一般的な飛行服を着ています。装甲をつけた甲冑を着たいところだけど、重くてドラゴンの機動に耐えられない。

 鞍に体を括り付けると、今度は戦闘できなくなる。

 ということで騎手を落とすしかないのです。



 下では重装歩兵を前面に押し立てて、前進する帝国軍。

 後方に少数の魔道砲兵が続く。


 この魔導砲兵の多重術式による重量砲撃によって、大抵戦局が左右する。

 よって両者これを真っ先に潰すことに専念する。


 どうやら隊長が敵の反撃が全くない事を報告したため、全軍が前進し始めたらしい。


(マックス様。帝国軍は敵の三倍です。何もしなくても勝っちゃいますですね)


 戦場に似つかわしくない、ぽわぽわしたフィーアの思念波が伝わってくる。


「そうだな~。何もしなくて大金を手に入れられると。クセになるぼろ儲け」


 いつもこういう仕事ください。

 これから毎日、ドラゴンの里、ワルプルギス山の方角を遥拝して願をかけるぞ!


(マックス様。敵の別動隊発見。北を迂回して側撃を狙っていますです。あ、その進路に戦場荒らしを狙っている村人がいるです!)


 戦いが終わった戦場を、甲冑などの金品になりそうなものを漁る貧民たちだ。


 早すぎでしょ?

 ハイリスクハイリターンな副業だ。


 フィーアに愛想尽かされたら、俺もあれやるかな。

 ……いや、一年と生きていられないだろうなぁ。


(王国軍が襲い掛かるです。みんな逃げていますです。ひゃあ! 子供が四人。遅れているです。すぐ追いつかれてバッサリです)


 これはやられるな。


 だが助けても何の役にも立たないだろうな~。

 軍命令以外での戦功なんか報奨金は出なさそうだし。


 ここは見て見ぬふりを……


(マックス様なら、スチャっと間に入り、ズバッと敵を切り刻んで、パッとかっこよく子供を助けるです! きっとそうです!)


 フィーア。

 こういうの放っておけない子なんだよな。平和主義のドラゴンでも珍しいくらい。

 そんなフィーアと送る生活は結構俺にとって心地いい。


「だが、これを助けるのは任務放棄に……」


(ジーーーッ)


 フィーアちゃんの絶対信頼の眼、いただきました~

 ここで拒否ったら、俺が愛想をつかされてしまいます。


「も、もちろん救出する! かわいい子供は帝国の宝だ! 帝国軍にこの俺がいる限り、王国兵に一人も殺させたりはしない!」


(素敵です、それでこそフィーアのマックス様ですです!)


 タダ働きは嫌だけどしかたない。

 ちゃっちゃっと敵兵を射爆撃して始末しよう。


 俺は円筒状の弾薬合から、円盤状のS定食を取り出す。

 あの軽食の豪華版だ。


 そして上空に放り投げる。

 フィーアがその軽食を器用に口でキャッチ。


 ごくん。


 う、うまそうだな。

 早く敵をやっつけておうちに帰りたい。


 見る見るうちにフィーアの身体がまばゆい光に包まれる。

 魔力が俺に流れ込み俺の身体は白銀に光りはじめた。

 ああ。フィーアの満腹感が俺の身体に染みわたる。


 俺は鞍に付けていた騎兵カービン銃に爆裂術式の刻み込まれている弾倉を装着。魔力を流し込みブーストをかける。


 銃口を敵兵の中央に向け、狙いをつけるとサイトの周りに望遠魔方陣が展開し、敵をロックオン。


「我、失われし始源の力をここに開放する。敵にワルプルギスの裁きを!」


 古代から伝承されている恥ずかしい呪文を大声で唱え発射。

 9ミリ弾は魔力によって加速され、俺のへそくりと満腹感を奪いとり飛び出していく。


 ううっ。

 無駄金貨を撃ってしまった(涙目


 弾丸は白銀の光跡を残して、敵部隊の中央に見事着弾。


 どっか~~~ん!!


 敵部隊三○○ほどが壊乱し、敗走した。


 しかし半数の部隊は前進をやめない。そしてその行く手には、取り残された子供が数人。


 このままだとやられる。

 助けないといけない?

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