8-1.遭遇
ニコロ・ガルアノスは今日も書類仕事をこなしていた。今まで進めていた勇者召喚計画は軍によって妨害された。それにより元老院での立場も低くなり、挙げ句の果てには軍による北部進軍計画の議決が事実上決定していた。
一人のカリスマを召喚することによる費用対効果の高い中央集権体制の維持が白紙になった以上、軍の提案が通ってしまうのは必然であった。
だが、帝国の財政は南部と西部からの過剰な収奪によってかろうじて延命しているに過ぎない状況である。現在、6年前の北部侵攻と南部で発生した旱魃による飢饉での負債を帝国は抱えたままであり、これ以上収奪が続けば、いくら力で押さえつけたとしても西部と南部の離反は決定的となる。
特に南部が離反した場合、農業生産性の低い一介の都市国家が王都として無駄に増やし続けた60万人近い人口を維持することとが不可能になる。
そうなれば帝国による大陸の支配は不可能となり東部のように大陸全体が群雄割拠となり戦火に包まれることになる。北部を切り捨ててでも帝国の延命を図るべき。というのが彼の出した答えであった。
あとはそれが承認を得られるかどうかが問題だ。元老院はすでに北部侵攻を事実上決定している。
今更私が騒いだところで結果が覆る可能性は低いだろう。
だが、なんとしても北部侵攻計画を止める必要がある。召喚された勇者が偉大な人物で私に賛同してくれたのであれば、財務省として彼をバックアップして国内の諸問題の解決に動くつもりだった。
しかし、当てが外れてしまった今新たな手立てを探すしか方法はない。
頭を抱えていると、ある一つの報告書が目に止まる。一見それは何の変哲もない穀物や嗜好品、酒などの輸出記録だ。しかし、昔現場で働いたことのあるガルアノスにはそれの意味が分かっていた。
この国では、極端に高級なものや内密に運ぶ必要のあるものなどを運ぶと、検問所や運搬係、役人などが盗賊を雇って荷を襲わせ利益を山分けするということが横行した。
それを防ぐため、一見何の変哲もない襲う価値のないものに見せかけて荷物を運ぶということが行われている。
また、通運省にはただの報告書に見せて内容物や密命を伝える暗号が存在しており、信用出来る者の間で共有されていた。しばらく通運省で現場仕事をしていた彼にはその意味がわかった。
「二人は生きている。」
か。ガルアノスは呟く。差出人は北西の駅を管轄する通運省の下級貴族の女だった。
すでにペトロバツが先手を打っている可能性は否めないが、やるだけやってみよう。
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