きっと私を好きになる
田無 竜
chapter1「きっと私を好きになる」 その1
参った。
非常に参った。
どうしたものかな、この返信。
『入学おめでとう。友達できた?』
母さん、入学早々友達なんてできるわけがないだろう? それともアレか? 普通の奴は大学入学翌日の講義説明会時点で、友達を作っているものなのか?
周りを見渡してみよう。
……本当だ、みんな誰かと一緒だ。
いや、いや、一人の奴もいるだろう。俺はあちら側だ。母さん、何年俺を見てきたんだよ、わかるだろう? まさか発破をかけようとしているのか? 無駄なことだ、俺を誰だと思っている?
しかし、母さんを心配させるのも面倒だ、何とか当たり障りない返信をしておきたいところだが……。
ふと、真横を振り向く。
机に突っ伏して寝ている女子がいる……いや、男か? わからん。つーか最初の講義説明会に爆睡って、どういう神経してんだ? 今後の授業大丈夫なのか? まあ、どうでもいいか。
俺は彼(?)の近くで、コンコンと指を机にたたいて音を鳴らした。すると、とんでもない勢いで彼(?)は目を覚ました
「それではより良いキャンパスライフをお送りください」
同時に講義説明会は終わりを告げた。
途端に慌ただしく立ち去っていく他の学生を尻目に、俺は彼(?)に声を掛けた。
「おはよう、話はちゃんと聞けてた? いつから寝ていたのかは知らないけど」
「え……あ、あぁ、う、うん。全然……。え、えぇと……」
寝起き故か、どうも歯切れが悪い。
「初めまして、起こした代わりと言っては何なんだけど、一つ頼まれてくれないかな?」
「え? な、なに」
「たいしたことじゃないんだ。後ろ姿を撮るだけなんだけど」
「え、う、後ろ? とる?」
何やらわけがわからないといった表情をしている。無視して話を進めるのが最適だな。
「いい? 駄目? 駄目ならいいんだけど」
「あ、いや……い、いいけど」
「ありがとう! 助かるよ!」
パシャッ
これでよし。チャチャッと返信するか。
俺は母さんにメッセージを返した。内容はシンプル。
『今はこの人といる』
もちろん、たった今撮った写真付きだ。
これで母さんもこの人が友達だと思い込むだろう。完璧な対処だ。
「あ、あのぅ……」
「ん? 何?」
「いや、その、あはは……はは」
苦笑いしている。ばつが悪いといったところだろう。まあ、俺が悪いか。
「ごめんごめん。母親に『友達紹介しろ』って言われてさ、ササッと送らなきゃあ面倒なもんで、ちょっと協力してもらっちゃった。ほら、こんな感じ」
「そ、そっか……。……え? と、友達?」
「あ、そうだ。折角だし、お昼ご飯食べに行かない? 食堂とかさ」
「あ…………う、うん!」
流石にこのまま帰すと変な奴だと思われて妙な噂を立てられる可能性もあるからな。こういう、俺と同じで、どちらかというと気が弱そうなタイプの人は、まくしたてるように話せば何とかなるだろう。
俺も根暗な人間だけど、人を見る目はそれなりにあると自負している。寝ている姿を見ただけで、俺でも強気に出られるタイプの人間だってことくらいはわかる……多分。
取り敢えず名前を聞くか。声まで高いんじゃ、マジで性別が判断できない。いるんだな、こんな人。世界って広い。
「
「あ……に、
くそ! 結局どっちかわかんねぇ!
そうして俺たちは、講義室から雪崩のように出ていく学生たちの中に混ざって、食堂へと向かった。
外はまだ寒い。
春は、まだ来ないのか。
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