第30話 秋の庭散策とコイズ王子 1
……なんだか不思議な気分。
毛皮のコートなど、前世でも着たことはないが。
お姫様に転生したら、少し肌寒い季節になったというだけで、毛皮をまとうことができるらしい。
……いや、コートじゃないけどね。
毛皮は毛皮でも、私が羽織っているのは縫製された『コート』ではない。
なめし作業等の工程はすべて終わっているが、ほぼ獣そのものの毛皮だ。
先に毛皮を贈ってくれたのは、イスラだった。
冬に備えた狩りの獲物に、珍しい毛色の狼がいたから、と白銀の毛皮を贈ってくれたのだ。
ただ、その場面をタイミング悪く父に見られた。
カーネリアへの贈り物、ということで普段とは違い、イスラが昼間に奥宮を訪ねてきたからだ。
……まあ、妹たちも暖かく過ごせそうだし、結果オーライ?
私に毛皮を贈るイスラを見た父は、なぜかイスラに張り合った。
イスラの持って来た毛皮より、大きな毛皮を、と。
イスラが一枚しか持ってこなかったので、より多くの毛皮を、と。
イスラが毛皮をくれた日の夜には、私の元へと父から大きな毛皮が十枚も届けられた。
普通に考えて、十枚も毛皮は要らない。
これで防寒着でも仕立てろ、というわけでもないだろう。
あまり切ったり、縫ったりとはしないようなので、たぶん、きっと。
そんな理由で、私が羽織る用と敷物用に二枚を残し、あとは乳母と侍女に一枚ずつ、一枚は妹たちの大部屋の敷物にして、最後は切ってジェリーと妹たちの防寒着にした。
十二人の妹全員分には毛皮が足りなかったので、妹たちは共用である。
また妬きそうなので、父には内緒だが。
イスラがくれた白銀の毛皮は、ベッドの掛け布として使っている。
手ざわりがいいので、撫でているうちにウトウトと眠りに落ちるところが最高だ。
毛皮のおかげで少しだけ気温の低くなった秋も、ぬくぬくと過ごせている。
今日は妹たちを半分連れて、秋の庭を散策中だ。
庭といっても、奥宮の庭はかなり広い。
整えられているので雑木林という印象はないが、季節を彩る花や木が随所に植えられていた。
……元が日本のゲームだからか、同じ名前のものが多くて助かる。
本当に前世にあったものと同じものかは、前世のソレを知らないから、判断が付かないが。
知識としては、前世にもあったと知っている。
……たしか、マルメロ。
黄色い洋梨のような形をした果実は、前世では『マルメロ』という名前だった。
そして、この世界でもやはり『マルメロ』だ。
たまに違う名前のものがあったりもするが、確率的には前世と同じ名前のものが多い。
というか、ゲーム内で名前の出てきたものは異世界らしく違う名前をしているが、それ以外はほぼ前世と同じ名前だ。
こんなところにも登場
……そして、和梨や栗があるのは……これも日本のゲームだからかな。
植物の分布的にありえるのだろうか? とは少し思うが、思うだけだ。
前世の植物学者に言わせたらありえない組み合せのものが同時に生えている可能性があるが、
姫の住む奥宮に作られた庭なのだから、故意に果実のなる木を集めて育てた、という場合もあるだろう。
……林檎と梨が同じ庭に
日本のスーパーでは林檎は一年中売られていたが、もともとは秋の果実だったはずだ。
今の季節が秋であることを考えれば、不思議ということもないはずなのだが、なんとなく違和感があった。
日本ではあまり馴染みのなかったマルメロを一つもぎ、手に提げた籠の中へと入れる。
手荷物など、
今日は妹たちと秋の味覚を収穫しているのだ。
私だって、狩る側に立ちたい。
……日本の秋より、暖かい気がする。
私がカーネリアになってから、すでに二ヶ月近くが過ぎている。
あの日もすでに秋だったそうなのだが、私の感覚としては秋も深まった今がようやく『少し肌寒くなってきた』という感じだ。
夏ほど暑くはないが、秋と聞いて想像する肌寒さはない。
……もしかして、冬もそんなに寒くないのかな?
白銀の毛皮を貰った時にそんな話をしたら、冬も雪など数年に一度風花が舞う程度だ、とイスラが教えてくれた。
だからこの国の通称は『竜と常緑の国』なのだ、と。
『竜』は野生の飛竜が多いことや、国軍として飛竜騎士がいることを指している。
『常緑』は冬でも雪が降らないほどに温暖で、一年中緑があることからそう呼ばれているらしい。
ゲームではただの『イウシィ』だった国名も、実際にこの地に住んでみると、意味が判った。
王族には緑色の瞳をした者が多く、『イウシィ』とは『翡翠』を指す言葉だ。
ところで、ほとんど雪の降らない地域で、なぜ私の通称が『雪
これについては『雪妖精』は私の思うような意味ではない、としかイスラも教えてくれなかった。
前世では話にしか聞いたことがなかったが、実際にやってみると意外と簡単に毬栗が割れて楽しい。
普段は奥宮の外では皮のサンダルを履いているのだが、今日は庭で妹たちと果実をもいで遊ぶ、と言ってあったので、侍女が木製の分厚い底がついたサンダルをどこかから用意してくれた。
妹たちにも同じ装備が用意されているので、毬栗の落ちている庭であっても安全だ。
「ネリねーさま、いが!」
なにが楽しいのか、コロンが毬栗を蹴りながら笑っている。
「いが、いが」と声を立てて笑っているのだが、幼児の笑いのツボは謎だ。
……まあ、可愛いから、よし。
マロンがせっせと栗を拾い、他の妹たちも思いおもいに果実をもいでいく。
無口な妹は毛皮の中にアコモを抱き込んだまま、蹲って
本当は奴隷たち――
さすがに加工までは反対されそうだが、収穫物の一部は今夜のおかずと、冬に備えた保存食となる予定だ。
「……げっ!?」
……うん?
人気声優もかくや、という艶のある美声に、だがちょっとその野良犬のう○こを踏んだ時のようなうめき声はどうなんだ? と残念になる台詞が聞こえ、顔を上げる。
イケメンボイスの発生源は、見覚えはあるが、違和感のある少年だった。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
確認しづらいので、サブタイトルの付け方変えます。
そのうち、これまでの投稿分も修正予定。
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