第2話 胸の谷間にものを隠すとか、浪漫がある

 ……これなら、一人で着れるかな?


 急遽露台バルコニーの準備をすることになった侍女三人へと視線をやり、衝立ついたての陰に用意されていたふくに視線を落す。

 ゲームのキャラクターたちは「時代考証どうなってんだ!?」と突っこみたくなるような材質が謎の服を着ていた気するが、私の目の前にある衣服は『衣』である。


 服というよりは、衣。

 なんだったら、ほぼ布。


 巻いたり、かぶったりとするだけの、単純な作りをしている。


 ……まあ、主要キャラとか、ヒロインたちは凝った服を着ていた気がするけど、モブは適当な衣装だったしね?


 これは、本格的に『カーネリア』という姫はモブキャラ、あるいは画面に出てこない存在だったのだろう。

 いかにも『ゲームキャラ』といった凝った服装ではなく、『一国の姫』らしくそれなりに染色や刺繍といった装飾は入っているが、民族衣装の域を出ない感じだ。


 ……インドの『サリー』に似てい……いや、気のせいだ。


 では何に似ているのか、と考えてみるのだが、ピッタリと当てはまる言葉が出てこない。

 民族衣装『っぽい』とは思うが、白雪 姫子の知っている民族衣装など、高が知れている。

 これはもう『こういうもの』として、新たに覚えるしかないだろう。


 ……正直、スカスカして落ち着かないんだよね。


 カーネリアとしては、これまで着てきた衣ではあるのだが。

 白雪 姫子としては、下着もなしに服を着る、ということがどうしても落ち着かない。

 ゲームのヒロインたちは年齢制限シーンになるとなぜか現代日本風の下着をつけていたりもしたが、あまり時代考証を本気ですると萌えない結果になってしまう、という大人(違)の事情もあったのだろう。


 ……まあ、しばらくは我慢かな。


 閉じ込められるようにして育ったカーネリアには、知識が足りない。

 カーネリアが下着を着けていないことが、世間一般的なことなのか、それともカーネリアの趣味なのかすら、私には判断が付かないのだ。


 寝間着にしていた簡素なチュニックの上から水色の巨大な布を体に巻きつけ、帯で留める。

 そうしていると、わたしが一人で着替えようとしていると気づいた乳母が、露台の準備をしている侍女のうち一人を呼んだ。

 入れ替わるように乳母に付いていた下女が露台へと出て行ったので、衝立で私の視界を塞ぎ、露台での力仕事を下女にやらせるのだろう。

 侍女と下女の作業分担としては、本来こちらの方が正しい。

 ただ、これまでのカーネリアが下女を自分の側に置きたがらなかっただけだ。


 ……うん、さすがはプロ。


 私が適当に巻きつけた布は、侍女が綺麗なひだを作って飾り、胸の下で帯を結ぶ。

 この上に大きな衣をかぶることになるので、どうせ帯など見えないのだが、侍女は帯を可愛らしく結んだ。

 貫頭衣かんとういとはまた少し違う気のする、しかし形状としては他に言い様のない青色の衣を頭からかぶり、袖と呼ぶべきか悩む穴から手を出す。

 これでカーネリアの着替えは完了だ。

 あとはその日の気分によって袖口を飾ったり、装飾品をつけたりとするが、基本はこの姿である。


 ……太った体を締め付けないから、この服装ってわけじゃないよね?


 袖を飾るようなら、といくつか並べられた付け袖を断り、袖を片付けに去る侍女の背中を見つめる。

 侍女のお仕着せなのか、モブだからか、彼女たちの服装もまた簡素な衣だ。


 メイド服ではない。


 形状としては私が着ているものと大きな違いはないが、乳母の衣は私とほぼ同じで、でも使われている色は淡い。

 色の濃淡で、身分の上下を示しているのだと思う。

 侍女の衣は乳母とほとんど変わらない淡い色合いをしているが、丈はくるぶしほどで、中にチュニックを着ていなかった。


 そして下女は、逆にチュニックだけだ。

 ただ、チュニック自体は染色されているので、奴隷ともまた扱いが違うと判る。

 カーネリアの生活圏内ではほとんど見かけないが、奴隷は男女ともに生成りの腰巻だけだ。


 身だしなみを整える仕上げに髪をしばってもらったら、まさかのお団子シニヨンだった。

 それも、月の代わりにお仕置きをするタイプのお団子だ。


 ……や、むしろみづら? って言うんだっけ?


 お団子かといえば、微妙に違う気がする。

 確かにお団子はあるが、髪でゆるく輪が作られているので、『あの』お団子とは似て異なるものだ。


 ……イスラに貰った魔よけの石は……チュニックに仕込むか。


 イスラに貰った――正確には、正妃から預かってきたらしいのだが、事実それは記憶を改ざんした――魔よけの石は、漆黒の丸い石だ。

 紐もなにも付いていないので、肌身離さず持っていてほしいとは言われたが、持っているためにはポケット等に入れる必要がある。

 そして、簡素なチュニックと巨大な布、貫頭衣――むしろポンチョか? に構成された私の衣服にポケットはなく、肌身離さず持っていようとしたら、本気で手に持っているしかない。

 さすがにそれは無理があるので、帯で留められるチュニックの中へと入れることにした。


 ……胸の谷間にものを隠すとか、浪漫があるけど……。


 現状は胸の谷間というよりも、紛うことなき脂肪の塊である。

 巨乳ではあるが、極一部の選ばれし性癖をもった紳士以外にはただの肉の塊だ。


 脂身の間にものを隠したところで、浪漫もへったくれもなかった。







■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 蛮族が許されるゆっるい世界設定にしたくていわゆるナーロッパ設定を避けたら、生活設定の説明だけで結構な文字数ががががが。

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