箱庭
ケロヤヌス
①ー『午睡』
−−好きだ。
ある朝、バス停で待つ「彼女」を一目見たときに、感情が全て塗り潰された。黄濁しきった心の一帯が、隅々まで真っ白になっていく感覚だった。
朝起きた時も、昼御飯を食べている時も、夜風呂に入っている時も、四六時中彼女のことを考えてしまう。
華やかさとは無縁だった僕の人生で、それは経験したことがないものだった。心臓が跳ね、血流が増し、頭の中ではふわふわとした感覚が時折火花のように弾けた。心の奥底がキュッと締め上げられるような息苦しさに、僕はどうしようもないほどの安らぎを感じていた。
視界が明るい。
足取りが軽い。
陰鬱で仕方なかった職場への道がこんなにも開けて見える。鳥の囀りが、僕の背中を押しているような錯覚さえした。
働くために生きていた僕の生活に、彼女の存在は一筋の救いのように見えた。
彼女を見かけるのは毎朝に駅に向かう途中のバス停だけで、時間にすればほんの一瞬だった。ただ、それでも僕にとっては充分だった。一日の始まりに彼女の澄んだ横顔を見られるだけでその日一日が華やぐ。時折友人と登校しているのか、その麗らかな声を聞くことも叶った。そんな日は、どれだけ上司に罵声を浴びせられても全く気にならなかった。
好きだ。好きだ。好き。好き好き。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。
−−好きだ。
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