第129話 少年期 ワイバーン討伐へ①
「シオン気を付けてね」
「シオンお兄さま、頑張ってきてください!」
「ありがとう」
わざわざエントランスまで見送りに来てくれた2人にお礼を言う。
「フェリもレアーネも気を付けて。それとシオンのことよろしくね」
「はい」
「承知しました」
シオンの横でフェリとレアーネが頷く。
「じゃあ、行ってきます」
2人に笑顔を向けて屋敷を抜け、フェリとレアーネと共に王都の外へ向かった。
いよいよだ。準備はしっかりとしてきたつもりだけど、それでも不安がないと言えば嘘になる。
「シオン様、そんなに緊張しなくても大丈夫です。シオン様の実力があればワイバーンはちゃんと倒せます」
シオンの様子を見てレアーネが口を開く。
まだ全然本調子ではない彼女だが、シオンとフェリがワイバーン討伐に向かうと聞き、フォロー役として自ら名乗りを上げてくれたのだ。
一行が向かう先は王都から少し離れたところにあるザクセン山脈と呼ばれるところだ。標高こそ低いものの岩肌が見えるほど鋭い山々が連なっており、のぼるのは容易ではない。そんな山だからこそワイバーンが巣を作り生息しているのだとニーナさんが教えてくれた。
王都を出発して2時間程度。後ろに見えていた王都の城壁は見えなくなり、辺り一帯は開けた草原に変わっていく。この辺りまでは何度か来たことがある。ザクセン山脈はここから更に先だ。
夕方ごろには麓らへんに到着できる想定だ。身体強化の魔法を使って移動すればもっと早く着くことができるのだが、レアーネさんから禁止されている。
『少しでも万全の状態で戦えるようにした方がいい』とのことだ。
「レアーネさんやっぱり僕も荷物持ちますよ」
シオンは後ろをついてきてくれる彼女に声をかける。彼女は3人分の食料や寝床用のテントなど、野営用の道具を全て1人で背負っているのだ。
もちろんそれもシオンとフェリが万全の状態で戦えるようにするためのあんなのだが、レアーネの背丈よりも多い荷物を1人で持って貰うのには抵抗がある。出発する前から何度も提案しているのだが、残念なことになかなか首を縦に振って貰えない。
「問題ありません」
「でも……」
「でしたら私が……」
フェリが声をかけるもそれにもフルフルと首を横に振られてしまう。
「フェリさんはシオン様に何かあったとき即座に動ける状態であるべきです。既に王都から大分離れていますし、急に魔物たちが襲ってくるかもしれません」
「それはそうかもですけど……」
「それにこれぐらいの荷物であれば問題ありません。冒険者に戻るためのリハビリとして丁度いいぐらいです」
彼女の様子を見ていると疲れは見えないけど、それでも気になるのだ。
「……っ。お2人とも」
「シオン様」
「うん」
レアーネが睨みつけた先。魔物がこちらの様子を伺っているのが見えた。
「ブラックファングですね」
フェリが呟く。
ブラックファング。主に草原地帯に現れる魔物だ。一体一体の強さはそれほどでもないが、数体の群れを作り行動するため相手に数的優位な状況を作られやすい点は注意する必要がある。
特に近接戦闘しかできない場合などは取り囲まれてしまうため、戦い方を工夫する必要があるだろう。
「シオン様」
「うん、そうだね」
フェリの目配せに頷きながら、背中にしょっていたクロスボウを構える。こんなことを言うのは失礼かもしれないけど、練習をするのにちょうどいい。
フェリも背負っていた弓を持ち矢筒から矢を抜いて構える。ブラックファングたちはこちらに気づいたようでゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
シオンはクロスボウに矢をセットし照準を合わせるように構えてみる。ここ数日の練習の甲斐もあり、その姿勢はかなり様になっていた。
「シオン様、そろそろ射程範囲内に入ってきます」
「うん」
「近くにきたものに関しては私が処理します」
「ありがとうございます、レアーネさん」
視界の端でレアーネが荷物を置き、腰から2本の大きめのダガーを抜いて臨戦態勢になっていた。
出会ったブラックファングの群れは全部で7体の様だった。4隊はシオンたちの正面から向かってこようとしており、残りの3対は側面にまわるように動いていた。
「ウオォォォォン!」
群れのボスであろう一体が遠吠えしたのを合図にゆっくり動いていたブラックファングたちが一斉にこちらに向かって走りだしてくる。
「フェリ3体の方をお願い!」
「わかりました!」
フェリは素早くそちらに向き直ると弓を引き絞り狙いを定めて矢を放つ。ヒュンと風を切る音を聞きつつ、シオンもクロスボウの狙いを定めて放っていく。
クロスボウから放たれた矢は、シオンの狙い通りにまっすぐ進んできていたブラックファングの胸に命中する。当たったやつは悲鳴を上げながらも何歩か進み続けるもやがてばたりと草原に倒れこむ。
次。シオンたちはその後も次の矢を装填しては放っていく。
矢が飛び風を切る音が鳴るたび、ブラックファングたちの悲鳴が草原に響いていく。
「終わりましたね……」
「うん……」
「お2人ともお疲れ様でした」
レアーネが綺麗なままのダガーを腰に戻していく。
襲い掛かろうとしていたブラックファングたち7匹はシオンたちに近づくことさえできず、草原に倒れこんでいた。
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