第102話 少年期 集められた情報

 シオンたちが情報を集め始めて1週間。一同は役割分担を決めた時と同じように、夕食後シオンの部屋に集まっていた。


「じゃあ、まずは誰から話しましょうか?」

 今回もティアナが進行役をかって出る。その横では羽ペンを持ったリアが紙を用意して待っていた。


「では私からよろしいですか?」

 ニーナがすっと手を上げる。

「ええ、お願い」

 ティアナが頷いたのを見てニーナが話始める。


「まず、結論から言うと、依頼についてはギルドの保管室の方で確認できました。現物を持ってくることができないので、必要な情報だけ書き留めたものがこちらになります」


 ニーナはそう言って1枚の紙をシオンに渡す。紙には簡潔に、日付、依頼内容、依頼主、指名された冒険者、依頼日が新しい順に列挙されており、さらにその横には〇とか×とかの記号が付けられていたが、1つだけ◎がついているところがあった。

 日付をみると約半年前だ。


「ニーナさん、この◎がついている列って……」

「はい、ルルさんのお姉さんに出された依頼だと思います」

 やっぱりそうなのか。指名された冒険者の名前はレアーネ。これがルルのお姉さんの名前か。となると◎の横についている×のマークは依頼を断ったと言う意味だろう。反対に〇が書かれているところは依頼を受けたということ。


 それを踏まえて確認してみると、レアーネみたく最初の依頼から断りを入れた人以外にも依頼を受け続けているような人がいることがわかる。だが、途中で×が付いて以降、その人への依頼はぱったりと止まり、暫くして他の冒険者に同じような依頼がされている。


「ニーナさん、これって例えば冒険者が長期の依頼中で指名依頼を受けられないときに届いた場合とかのも書いてあるの?」

 ティアナが尋ねる。

「はい、そのような場合、ギルドから依頼主にその旨を伝えて依頼自体はキャンセルになりますが、依頼書自体は保管する決まりになっています。ちなみに渡した紙には△の印をつけるつもりでした」

「そう言うことって結構あるの?」

「そうですね、それなりにはあると思います」

「やっぱりそうよね……」

 ティアナが難しい表情を見せる。


 改めて資料を見返してみると、△が付いたところは1つも見当たらない。一番古い依頼日が1年ちょっと前。それだけの期間一度もそんな状況が起こっていない。

「……っ」

「シオンも気づいた?」

 ティアナの言葉にシオンは頷く。


 普通、よっぽど懇意にしているとか、特別な理由がなければ依頼主の貴族がBランク冒険者の状況を逐一把握しているわけがない。なのに、この依頼主からの依頼はそういったものが一つもない。一度依頼を断られて以降、その冒険者に依頼をすることはたったの一度もないのだ。


 もちろん、一度断られたからと言う可能性もあるし、たまたま運よくといったことも考えられるが、指名依頼で断られた場合、報酬を上げて再度同じ冒険者に依頼をするなどが一般的。なのに、その形跡が一切ない。


 まるで、その冒険者がもう依頼を受けられないとわかっているように。


「私が調べられた情報は以上です」

「ニーナさん、ありがとうございます」

「いえ」

 ニーナは薄く笑みを作るがその場の空気は重い。


「じゃあ、次はフェリ、お願いしてもいい?」

「わかりました」

 フェリはみんなに顔を向けてから話始めた。


「私が集められた話はこれだけです」

 フェリが話し終えると、その場の空気はさらにずしんと重くなっていた。


「話をまとめると、ここ2年間で7名の獣人の冒険者がその貴族から依頼をされていて、断ってからその冒険者たちは1週間以内をめどに依頼を受けなくなっていて、中には命を落とした人もいると」

「そうです、亡くなった冒険者の知り合いによると、これまで病気になんてかかったこともないような人だったらしいです」


 フェリが持ってきた1枚の用紙には7名の冒険者の名前が書いてあった。それをニーナがまとめてくれた資料と照らし合わせると、依頼を受けていた冒険者の名前が一致していた。


 シオンはぐっと拳を強く握りしめた。あまりにひどすぎる。そんなシオンの様子にこれまで話を聞いてまとめていたリアが心配そうな視線を向ける。


「それに、ニーナが集めてくれた情報を見てた時にも思っていたけど、依頼の難易度に対して明らかに報酬が少ないわね……」

 当たり前のことながら難易度が難しければそれに比例して報酬は上がっていくものだ。それなのに、依頼書の報酬はどう考えても低い。

「大体の依頼が相場の1/3ぐらいの報酬に設定されていました」

 ニーナが簡潔に答える。

「ギルドとしても相場と乖離のある報酬の際には改善を促すこともあるのですが、依頼主が貴族だと強く言えないことがあるみたいです」


「じゃあ最後に私から」

 ティアナが1枚の資料をテーブルの上に置いた。

「この一週間、学院内で最近羽振りの良くなった貴族がいないか噂程度のものも含めて調べた結果、ちらほらとだけどそんな話があったのよ。中には冒険者を安い報酬で働かせてその差額で儲けているなんて噂もあったわ」

 

 その資料に書かれている貴族の名前は、ニーナが調べた依頼書の貴族と一致していた。

「ニーナさん、フェリの集めた情報から考えても、ルルのお姉さんはやっぱり何かしらの被害にあっている可能性が高いわね」

 ティアナの結論に一同が頷き、視線が資料に書かれた貴族の名前に集まった。

  

 この国の伯爵家にして、人間至上主義とも言える考えを持った一族。

 そしてシオンの同級生であるダミアンの家名でもある。

 そこにはこう書かれてあった。


 エルベン伯爵家。

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