第100話 少年期 それぞれの調査と謎の男子生徒
「ティアナ先輩、この前話していた件について集めたものです」
「ありがとう、ソフィー。大変だったでしょう?」
ティアナはソフィーから受け取った資料に目を通していく。
集めて貰った情報だが、その多くは調べている件と関係なさそうなものばかりだった。もっとも噂話程度のものまで集めて貰っているからこうなることは想定の範囲内。そもそも貴族意識の強い子だったら少しでも自分の家を良く見せようと大きく言っている場合も往々にして考えられるのだ。
それでも、1つぐらいは気になるものがあるといいんだけど……。
「いえ、それに内容を集めたのはシャル先輩で私はまとめただけですから」
謙遜するソフィーだが、彼女がまとめた資料は読みやすくわかりやすい。だからこそお願いしたのだが、その読みは正しかった。
シャルだったらこう上手くまとめることはできなかっただろうし。
「シャルもありがとう」
ティアナが向かいのソファーにだらしなく座っているシャルに目を向ける。
「ティアナ先輩に褒められたー!」
ただでさえ短いスカートなのに気にせず足をバタバタさせるものだから、彼女の下着が今にも見えそうになっている。
「シャル先輩、はしたないですよ!」
見かねたソフィーが注意する。
「えー、ソフィーとティアナ先輩しかいないんだからいいじゃん」
「そういう問題じゃありません!」
「相変わらず、堅すぎー。そんなんじゃソフィーが大好きな小説みたく素敵な王子様に出会えないぞっ♪」
「なっ!? シャル先輩、勝手に私の小説見ましたね!」
顔を真っ赤にしたソフィーが声を大きくする。
「だってテーブルの上にあったんだもーん。ソフィーはああいう王子様みたいな人が好きなんだー♪」
「シャル先輩!!」
「2人ともその辺にしなさい。そろそろ会長と副会長きますよ」
資料を見終えたティアナが口を挟む。
「はーい」
「……わかりました」
納得はしていない様子はありありと伝わってきていたが、それでも2人は大人しくソファーに座った。
「この件本当にありがとうね。これはそのお礼」
「これって最近超人気の焼き菓子じゃん!? ティアナ先輩いいんですかっ!?」
シャルが目をキラキラと輝かせる。
「ええ、そのためのお礼だから」
「私もいいんですか?」
「もちろん、資料をまとめてくれたお陰で凄く助かったわ」
「ありがとうございます」
ソフィーが僅かに口元を緩める。
「やったー! ソフィー早く食べよう!!」
「シャル先輩落ち着いてください。いま紅茶用意しますから」
「早くー、早くー」
シャルに急かされながらソフィーが紅茶の準備のため席を立つ。
「2人ともお願いした時にも言ったけどこのことは……」
「はい、誰にも言いません」
ソフィーは真剣な表情で頷く。
「オッケーです!」
シャルは口の前で指でバッテンマークを作ってみせる。少々心配に見えるが、彼女はああ見えて約束を破ったりすることはないから大丈夫なはず。
それに、少し気になるものもあったし。ティアナは資料に目を向ける。
そこにはとある貴族の家が、ここ最近、大量の美術品を買い占めているという話だった。そしてそこにはあくまでも噂話としてこう続きが書かれている。
『獣人族の冒険者に相場よりもかなり低い金額で魔物討伐の指名依頼を出し報酬で得たアイテムで大金を得ている』
今日はどうしようか。授業が終わったシオンはあるところに向かって1人学院内を歩いていた。その理由は当然花売りの少女の件での聞き込みの為なのだが、これまでの成果は芳しくない。
仲の良いフェリクスや、アカネ、アヤメには彼ら彼女らの立場上お願いしづらいし、それ以外となると、そもそも新入生のシオンにはそこまで多くの知り合いがいないのだ。
ギルドはニーナさんがいるし、獣人の方はフェリが、学院はティアナが情報を集めてくれているから必要ないといえば必要ないのだが、それでも1人だけ何もせずのんびりとしていることはシオンの性格上難しかった。
……やっぱり、あそこに行くしかないよな。1つだけシオンの中に候補があったのだ。出来る限り避けるつもりではあったのだが、今の状況を考えると致し方ない。
確かこっちの方に委員会室があるって話だったけど……。
シオンは学院の正門から反対、奥の方に進んでいく。
「おーい、そこの君」
そんな声がシオンの耳に届いた。声の方に顔を向けると、芝の生い茂った何もない広場のようなところに1人の男子生徒の姿が見えた。その横には鳥の翼を簡易化したようなものの姿も見える。
なんだろう、あれ?
これまで見たことのないものだ。
「ちょっといいかなー?」
男子生徒はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねながらシオンに向かって手招きしてくる。
上級生なのは間違いないし、無下に断るわけにはいかない。もしかしたら知りたいことを知っているかもしれないし……。
可能性は薄そうだと感じつつも、そう自分を納得させて、シオンは彼の方へ歩みを進めた。
「いやぁ、急に呼び止めてしまって悪かったね」
男子生徒は気さくな感じで話しかけてきた。
「いえ」
彼の足元には鳥の翼を模したようなものが左右セットで1組置かれていた。骨組みは木でできており、それに布を張って形作られている。気になるのは、翼の真ん中あたりに固定するベルトのようなものがついているのと、持ち手のようなものがついている点だ。
「あの、それで僕に何か用ですか?」
「君は風属性の魔法は得意かな?」
「得意かどうかはわからないですけど、使えます」
「そうか、そうか。なら一つ頼まれてくれないか?」
男子生徒はそう言うと返事を聞くよりも先に隣に合った鳥の翼を模した模型を腕に装着していく。
「済まないが、左手の方を右の方と同じようにしてくれるかい?」
「は、はい」
言われるがまま、シオンは彼の右手を翼のベルトのようなところに腕を通させ、固定させる。
「うん、悪くない」
男子生徒は翼の模型を付けた両腕をバタバタを動かし感触を確かめる。
「さぁ、いこうじゃないか」
彼はそう言ってシオンに背中を向ける。
「えっと……」
「君の最大出力の風魔法をぶつけてくれ! できる限り斜め45度ぐらいに飛んでいくイメージで頼む!」
「……え?」
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