第98話 少年期 それぞれの調査①
「シオンどうしたんだい?」
「何がです?」
「何がっていうか、ねぇ」
フェリクスが同意を求めるように前の席のアカネとアヤメに声をかけた。
「ええ、傍から見ているとすぐわかるんですけど。案外、自分のことになるとわからないことって多いですから」
アヤメがフォローするような言葉を入れる。
「ここ最近ずっと難しい顔してるけど何かあったの?」
「「おおー」」
「2人して何?」
アカネが怪訝そうな表情を見せる。
「いや、気持ちいいぐらいストレートに聞いたなって思って」
「流石お嬢様ですね」
「気になるじゃない、と、友達がずっと難しい顔してるんだから」
「そこで噛まなければ100点満点だったんですけどね」
「勝手に人のこと採点しないでくれるっ!?」
「そんな顔に出てましたか?」
「ああ、そうだね。普段折をみて君に話しかけに来ていたクラスメイト達が遠慮するぐらいには」
言われてみればここ数日フェリクス、アヤメ、アカネ以外のクラスメイトとはほとんど話してなかったことに気づく。
気を遣わせちゃっていたのか。申し訳なさが胸の中に出てくる。
「それで、よければ何があったのか教えてくれないか? 僕らでも手伝えることがあるかも知れないからさ」
「ありがとうございます。ただ……」
そう言ってシオンは言葉を詰まらせた。
フェリクスもアカネもアヤメもシオンの中では大事な友人たちで、信頼に足る人物だと思っている。だが、フェリクスはこの国の王子であり、アカネ、アヤメは留学生。おいそれと巻き込んでいい人たちではない。
「何か事情があるみたいだね」
どう伝えようか困っていたシオンを察してフェリクスが口を開く。
「無理に聞き出すつもりはないよ。ただ、何か手伝えることがあったら遠慮なく頼って欲しい」
「私たちも出来ることがあればお手伝いしますよ」
「ええ」
当たり前のように2人も協力を申し出てくれる。
「ありがとうございます。その時はお願いします」
シオンがぱっと笑みを浮かべる。
「ようやくいつもの君に戻ったね」
「シオン君はいつもの方がいいですね、ねっ、お嬢様」
「私は、難しい顔も……って、アヤメ何言わせるのよっ!」
「今のはお嬢様が勝手に自爆しただけですよ」
顔を赤くしたアカネにアヤメの冷静なツッコミが入っていた。
ギルド内の過去の依頼書などが置いてある保管室。ニーナは依頼書が綴じられた分厚いファイルを確認していた。
これも違いましたね……。確認の終わったファイルを元の棚に戻し、その隣のファイルを掴む。
「ニーナさん、何を調べてるんですか?」
「……っ!?」
急に後ろから声をかけられ、ニーナはびくりと体を一度震わせた。
「すいません、驚かせましたよね……」
「いえ……大丈夫です」
「それで調べたいことがあるなら手伝いますよ」
彼女はぐっと握りこぶしを胸の前に作った。ハーフエルフと言うだけでほとんど話しかけてこない同僚もいる中、彼女だけはちょくちょくニーナに声をかけてきていた。
なんでも幼い頃にハーフエルフの人に助けられたことがあるとか。聞いてもいないのにバンバン話しかけてくるから嫌でも覚えられた。
「ありがとうございます、ですが大丈夫です」
悪い人のようには見えませんが、どこで誰が繋がっているかわからない以上、むやみに話すわけにはいきません。
「でも、凄い量あるじゃないですか? 2人で手分けした方が早く終わりますよ」
彼女はそう言って大きく手を広げた。
保管室には巨大な棚が幾つも並び、その中にずらりとファイルが並んでいる。年月順に並べられてはいるが、なにぶん国内で一番依頼がある王都だから一月分だけでも20ぐらいの分厚いファイルがあるのだ。
「本当に大丈夫なので、それよりも早くしないとお昼の時間なくなってしまいますよ?」
「もうこんな時間なの!?」
彼女が壁にかかった時計を見て驚嘆する。
「ニーナさん! 今度は一緒にご飯食べ行きましょうね!」
彼女は部屋を出る途中で振り返ってそう言うと、瞬く間に去っていく。
相変わらず騒がしい人ですね。
ニーナは彼女を見送った後、再び視線をファイルの中に戻していく。
シオン君から聞いた話から逆算して、恐らくこの辺りの月に発生したのは間違いないはずなのですが……。そもそも予想している時期がずれている可能性も考えたほうが良いかもしれません。
そんなことを考えながらページを捲っていたニーナの手がピタリと止まった。
「……見つけました」
ニーナは内容を持ってきていた用紙に書き写していく。本当ならそのまま依頼書を持っていきたいところだが、ギルド外への持ち出しが禁止されている以上、書き写すしか方法がない。
最低限、必要なのは日付、依頼内容、依頼主、指名された冒険者。ニーナは情報を書き写し終えてファイルを元の位置に戻す。この流れであと数件見つけておきたかったが、昼休憩の時間は残っていない。
残りは終業後確認しましょう。ニーナは席を立つと、受付の方に歩いて行った。
「おいっ! これも運んでくれっ!」
「はいっ!」
「それが終わったら皿洗い頼むぞ」
「わかりました」
「すいません、注文いいですか?」
「少々お待ちくださいっ!」
どうしてこんなことに!?
ニーナが保管室で過去の資料を確認していた同時刻、フェリは両手いっぱいに皿を持ちながら獣人族の男性が営む食堂内を縦横無尽に駆け回っていた。
そこから遡ること1時間前。大通りから少し外れたところにある食堂の前にフェリの姿があった。
獣人が店主のお店なんて本当にあるんですね。
大通りで獣人族の人たちから話を聞きまわっていたところ、「だったら大将に聞いてみればいいんじゃないか?」と複数人から話を聞いたのだ。
「失礼します」
フェリは深呼吸してから店の扉を開ける。どんな人がやっているんでしょうか? 大将と呼ばれているのだから結構いかつい感じがしそうですけど……。
「あぁん?」
店内に入ったフェリが見たのは、片手で獣人の男性を掴み上げ、古傷だらけの顔で睨みを利かせている屈強でかなり大柄な店主と思われる獣人の姿だった。
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