第97話 少年期 役割分担

「シオンお兄さま、大丈夫ですか?」

「えっ?」

 ルルの家を後にしたその夜、シオンは屋敷でリアたちと夕食を共にしていた。

「お口に合いませんでしたでしょうか?」

 耳を伏せながらフェリが尋ねる。シオンの皿はほとんど減っていない。


「ううん、凄くおいしいよ」

 シオンはそう言って料理を口に運んでいく。

「シオン君、もしかして花売りの子の件で何かありました?」

 ニーナの言葉にフェリがぴくりと反応を示した。

「お花売りさんですか?」

 話を知らないリアが可愛らしく首をかしげる。


「……はい」

 表情に出てしまっていたことに気づいたシオンは小さく頷く。

「シオン、私たちにも話してくれない? 何か手伝えることもあるかも知れないから」

 隣に座っているティアナが優しく話しかける。

「リアもお手伝いしたいです!」

「ありがとうリア。みんなも」

 シオンの顔にようやく笑みが浮かぶ。


「話はこの後にしてまずは夕食を食べましょう。折角フェリが丹精込めて作ってくれたんだから」

「はい」

「それに、シオンの料理にはもっと特別なものが入っていると思うしね」

「ティアナ様っ!?」

 ティアナがフェリに視線を向ける。

「フェリもシオンお兄さまが大好きですからね!」

「そうですね」

「ニーナさんまで……」

 フェリの顔はみるみると赤くなっていく。

「フェリ、いつも美味しいごはんありがとう。これからもずっと食べたいな」

「はうっ」

 

 シオンの一言にフェリが変な声を上げて顔を伏せた。

 何か変なことを言ってしまっただろうか?

 尻尾がこれまでに見たことがないぐらい嬉しそうに揺れているので、少なくとも嫌に感じてはいないようだけど……。


 そんな様子に、

「流石ですね……シオン君」

 ニーナは感心するように目を細め、

「このままだと益々増えそうなのよね。学院内でも色々やらかしてるみたいだし」

 ティアナはどこか諦めているように呟き、

「そういうシオンお兄さまもリアは大好きです」

 リアは屈託ない笑みを浮かべていた。


 夕食終わり、シオンの部屋に集まった一同。

「それじゃあシオン、話してくれる?」

「はい、そもそも……」

 シオンは花売りの少女、ルルに出会ったところから今日あったことまでを順を追って説明した。


「そう、そんなことが……」

 話を聞き終えたティアナが神妙な顔で呟く。元々少し話を聞いていたニーナとフェリも真剣な表情を浮かべている。

「女の子に手を出そうとするなんて、その冒険者たち最低です!」

 リアは顔を膨れさせながら怒りを露わにしていた。

「そうだね。僕もそう思う」


「気になるのは彼女のお姉さんの話よね」

「はい」

 貴族の依頼を断ってすぐに体調を崩す。数日だけなら偶々だと言えるかもしれないが、ルルのお姉さんは未だほぼ寝たきりの状態になっていることを考えると、どうにもきな臭い。


「ニーナさんは何か知らない?」

 ティアナが話を振ると、先ほどから考え込んでいたニーナが顔を上げた。

「話は聞いたことがありません。ただ、貴族からの依頼については過去の履歴を調べればわかると思いますので調べてみます」

「そうなんですか?」

 シオンが声を上げた。


「ギルドでは過去の依頼について全て残しているので、恐らく断ったとしてもその旨の記載が書かれた依頼書が残っているはずです。過去の依頼書を確認することはよくありますし、怪しまれることもないと思います」

 依頼書が確認できれば貴族の名前がわかる。

「ニーナさん、よろしくお願いします」

「わかったらすぐにシオン君にお伝えしますね」

「はい」


「後は聞き込みね。出来れば獣人の人たちから情報を集めたいところだけど」

「それは私がやります!」

 フェリがぱっと手を上げた。

「私も獣人なのでティアナ様やシオン様よりも話を聞きやすいと思います」

「フェリ、ありがとう」

 シオンにフェリが微笑む。

「同族が困っているなら助けたいですし、シオン様がやりたいことを支えるのが使用人の務めですから」


「なら、私は学院内でそれとなく話を聞いてみるわ」

「ありがとうございます!」

 元々シオン自身でやろうかと考えていたが、学内での知名度などを考えたらティアナが話を聞きに行ってくれた方が情報が集まりやすいだろう。


「ティアナお姉さま。リアは何をすればいいですか?」

 リアがティアナのくいくいと引っ張る。

「そうね、じゃあリアはみんなから情報が集まったら紙にまとめてくれる?」

「わかりました!」

「それぞれ役割は決まったわね。ただ、相手がどんな貴族がわからない以上、あまりおっぴらにはしない方がいいでしょうね」

 ティアナの言葉に一同が頷く。


 依頼を断られただけで何かしているかも知れない人たちだ。危険な橋を渡るようなことはしない。危なそうだと感じたらすぐに調査を中断する。ティアナ主導の元そんな取り決めが決められた。


「それとシオン」

 ティアナが最後にビシッと指さした。

「リアの時みたいに1人で立ち向かうなんてことは絶対にしないように」

「はい」

「約束したからね」

「はい」

「絶対の絶対だからね」

「……はい」

 しっかりと目を見て答えているのになぜだか信用されていない気がする。

 

「シオンお兄さま」

「んっ」

「はい、約束です」

 リアはシオンの小指に自身の小指を絡める。

「約束破ったら1日ずっとデートしてもらいますね♪」

 ニッコリ笑顔を向けられ、て二の句が継げない。


「いいわね。それっ! 私も約束」

 便乗したティアナがシオンの反対の手の小指を絡める。

「フェリはいいの?」

「…………します」

 おずおずとフェリも近づいてくる。


「ニーナさんは約束しないの?」

「いえ、私は……」

 断ろうとしたニーナだったが、くりくりしたリアの瞳に負けて「わかりました」と頷いた。





 

 

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