第19話 少年期 誕生日、庭の様子

「んん……」

 寝苦しさを感じながらシオンは目を覚ました。窓からの日の入り方を考えるといつもよりも1時間ぐらいは遅く起きてしまっているようだった。

 朝の鍛錬に行かないと……


 寝ぼけ眼のままベッドから出ようとしたところで、ティアナに後ろからがっちりと抱きしめられていることに気づいた。寝苦しかった理由が発覚した瞬間だった。ティアナはまだ夢の中にいるようで小さな寝息を立てている。

 

 シオンはティアナを起こさないように抱きしめられていた両腕を外し、着替えて部屋を出る。

「シオン様おはようございます」

「エマさん、おはよう」


 部屋を出ると廊下で待機していたエマと鉢合わせた。

「勝手ながら姉弟仲良く眠っていらっしゃいましたので、いつもの時間より遅く参らせていただきました」

「……はい」


 ということは、ティアナ姉さんに思いっきり抱きしめられて寝ていたのを見られていたことに気づき、シオンは恥ずかしさから顔を伏せる。最もエマからしたら微笑ましいだけなのだが。

「それとシオン様、この度は12歳の誕生日おめでとうございます」

「あ、ありがとう!」


 シオンは少し照れながらも誇らしそうに笑顔を見せた。

「本日の夕食は料理人たちが腕によりをかけて行うと張り切っておりますので期待しておいてください」

「はい!」

「あっ、シオンお兄さま!」


 シオンが夕食の料理を想像していると、廊下の先から鈴の鳴るような声と共に小さな足音が近づいてきた。金色の髪をなびかせながら廊下を走ってきた少女はシオンの胸にぽすっと抱き着いた。

「リア、廊下は走っちゃだめだよ」

「ごめんなさい、でもシオンお兄さまを見つけたから」

 そう言われてしまうと、シオンとしてはこれ以上何も言えない。

「次からは気を付けるようにね」

「はい」


 そう言ってリアの頭を優しくなでつつ、エマに怒らないであげてと視線で訴える。エマは小さく頷き、「ティアナ様を起こしに行って参ります」とその場を離れていく。


「そうだ! シオンお兄さま」

 暫く頭をなでられてより一層ぎゅっとシオンに抱き着いていたリアは、思い出したようにばっと顔を上げた。

「どうしたの?」

「お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、リア」

「それで、……その、誕生日プレゼントを用意したのですが、受け取ってもらえますか?」


 少し自信なさげにリアが尋ねる。

「もちろん、楽しみにしておくね」

 シオンの言葉にリアは表情を明るくさせる。

「はい! あっ、シオンお兄さま。お庭が凄いんですよ!」

「えっ⁉」


 庭と聞いて前日の散々たる光景が思い浮かぶ。そうだった、忘れていたけど酷い有様になっていたんだった……

「一緒に見に行きましょう!」

「えっ、ちょっと! 心構えが!」

 リアはシオンの手を取り、ぐいぐいと庭の方へ引っ張っていく。


「そう言えば、あの時凄い揺れがあったと思うんだけど大丈夫だった?」

 シオンは心構えを作る時間を手に入れるためリアに話しかける。

「はい、その日慌てた様子のエマさんがお部屋に来てくださいましたけど、お昼寝してて全く気づきませんでした」

 はにかみながらリアが答える。

「そっか……」


 あの後ティアナに聞いたが、あの揺れでティアナやブルーノが飛んできたように、屋敷の使用人たちも右往左往する羽目になっていたらしい。幸いけが人は出なかったからよかったけど、反省しないといけない。


 ちなみに、あの揺れの中リアの所に駆け付け、変わらずすやすやと寝ている姿を確認して、エマは『リア様は間違いなく将来大物になる』と確認したがそれはまた別の話。


「シオンお兄さま、どうしました?」

 屋敷のドアの前で止まったシオンにリアが小首を傾げる。

「ううん、なんでもないよ」

 必死に笑みを浮かべるが、明らかに引きつっている。

「ほんとに凄いんですよ! きっとシオンお兄さまも驚くと思います!」

「そ、そうだね……」

「いきましょう!」

 リアに引っ張られ、シオンは屋敷を出る。

「えっ?」


 思わず声が漏れた。屋敷を囲うようにあった花壇には色とりどりの花が咲き誇り、枝葉の折れていた木々は若々しい木々に変わっている。剥げていた芝生は青々として一面を覆いつくしているし、シオンとミヒャエルが魔法の鍛錬をしていた爆心地と呼べる場所も元以上に綺麗になっているように見える。まるで昨日のことなど夢であったかのような変貌ぶりだ。


「……凄い」

「凄いですよね! リアもこんな綺麗なお庭初めて見ました!」

 興奮気味に話すリアの言葉に相槌を打ちながらもシオンはこの光景から目が離せない。

「シオン様、お久しぶりです」

 シオンが振り向くと、そこには疲れた様子のダーヴィットが立っていた。


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