第28話 To new face

幻想街 ヘイグヴェル 地下城

水が下から上に流れていく滝に囲まれた螺旋階段を降りていく

すると

城が見えてきた

「ここが」

逆立ちした城

地下まで深々と広がっている

暗闇の中で白く淡い光を放っている

ギギッと巨大な石の扉が動いていく

そして中には10人程度の魔女が白衣を着て2列に並んで出迎えている

「マルギス様 その者は?」

「私をスカウトに来たらしいよ」

「なっ!!!」

白衣の魔女が杖を抜く

だがステラさんほどの圧を感じない

「やめな あんたじゃ後ろの怖い魔女に勝てないよ」

「マルギス様をスカウトなど

不遜過ぎます!!!」

「まぁ話ぐらいは聞いてやろうじゃないか」

「はっ」

その圧倒的な力に白衣の魔女が膝を付く

「ほら 持ち場に戻りな

ってもうこんな時間かい

もう帰っていいよ」

ほのかな暗闇の中だから時間は分からないが

もうそろそろ夕方ぐらいなんだろう

マルギスさんの研究所は結構ホワイトだな

元の世界で俺を引いたであろうトラック運転手なんて月推定100時間残業ぐらいだろうにな


地下城の最下層 塔

塔の頂上で俺とマルギスさんが向かい合う

ステラさんは俺の後ろで警戒する姿勢を崩さずにいてくれる

「さて 大体の事情は分かったよ」

「俺達に力を貸してくれそうな魔術師はいますか」

「残念ながらうちのはやれないね

人売りじゃないのは分かったが

第一 そっちの彼女並の戦闘に対応できるヤツがいないのさ」

「...分かりました

それじゃあ」

「私以外はね」

「? どういうことですか」

「私もここでの研究生活が飽きてきてね

そろそろ可愛いボーイフレンドでも欲しかったところさ」

「! それじゃあ」

「でも自分より弱い男はねぇ...

どうだい?

私を倒したらあんたに付いてってやるよ」

「ギリッ!!!」

後ろでステラさんがすごい音を立てた気がしたが

振り替えてみると無表情のままだ

「じゃあ俺が勝ったら

俺の彼女になってください」

「アハハハハ!!!

そんな口説き方されてのは始めてさ

長生きはしてみるもんだね」


地下城 中庭

やけにだだっ広い中庭で戦うことになり

俺とマルギスさんはお互いに武具を整える

マルギスさんはいかにもな魔女っぽい杖にランタンを首元から吊るしている

おそらく古代魔術用の魔具<ガイスト>だ

なにより魔具<ガイスト>だけではなくマルギスさんの圧倒的な魔素量が肌で感じられる

俺の数百倍 いやもはや底が見えないな

「そいえばその黒髪に刀

あんた転生者だったりするのかい?」

「えぇ」

一発で見抜かれたのはステラさん以来だ

「あたしも何十人かは転生者を見てきたが

多少は一番まともに見えるよ」

「ステラさんとアリスラさんのおかげですね」

「そこまで言えれば上出来さね なぁ彼女?」

「えぇ 楽郎は絶対に勝ちます」

「ふぅん それはどうかね

いいよ 好きにかかってきな」

マルギスの首元のランタンが緑色に強く光り始める

「行きます!」

ダダダッと

俺は銃を左手に構えて連射しつつ

右手に刀を掴んで突進する

ボスボスッとマルギスが杖をかざした瞬間に見えない壁にぶつかって光弾が消えていく

だが近づけたぞ

俺は刀に光をまとわせて

見えない壁の空間を刀で引き裂く

「ふぅん」

ギィィィン!!!

俺の刀とマルギスの杖が激しく衝突する

「ここなら」

ドドドッとさらに光弾を連射する

俺の光魔術は威力が低いし射程も短いが

この銃の魔具<ガイスト>と組み合わせて使えば

ほとんど弾数制限のない銃として使える

アリスラさんの発明と言ってもいい

俺と相性が最高の魔具<ガイスト>だ

ドスドスッとマルギスの体に光弾がぶつかった衝撃が走る

「殺傷能力は下げてます

でもこれで」

「応用力はある

いい機械工 いやいい女を捕まえてるね

だが」

マルギスのランタンの光が緑から赤に変わっていく

それと同時にパパッとマルギスの体に付いていた傷や

銃弾の跡が消えて戦う前の状態に服ごと回帰していく

「! 何っ」

「あんた知らないのかい

魔具<ガイスト>がこれだけ量産できるようになったのは

魔素さえあれば”あらゆる物質の構成を組み替える”

4大巨大魔術の1つ 錬成魔術のおかげなんだよ」

自分自身の服や体の組成を傷が発生する前に組み替えたのか!?

ありえないだろ

そんなことは!!

「くっ」

俺は刀を返してマルギスさんの脇腹から首を薙ぎ払う軌道で斬りかかる

「甘いねぇ」

マルギスさんの杖が俺の刀の側面に当たり軌道がそれる

「まだだ」

ダダダダッと

俺は左手で銃を光弾を連射する

一度に連射する最大数の光弾だ

「やっぱりあんたはには負ける気がしないよ」

マルギスの杖が俺の放った光弾と刀の光の魔素を急速に消滅させ

「ごちそうさま」

「え」

ドッと数mほど体が上空に跳ね上げられる

「いい的だね」

マルギスの杖から炎と風の激しい渦が吹き出し

俺めがけて螺旋状に迫ってくる

「死なないでくれよ

流石に治せないからね」

右手に刀を脇にはさみ腰に付けてあったヴィスターブを起動する

「うぉおおおっ!!!」

炎と風の渦をギリギリで躱すと同時に

地面に落下する

「へぇ いい魔具<ガイスト>だ

でもこの距離になったら

あんたに勝ち目はないよ」

ヴィスターブでぶっ飛びながら落下したせいで

マルギスさんとの距離は20m程度離れてしまった

俺の銃の射程のギリギリ範囲

当たっても有効打が与えられない

そうでなくても非殺傷用にステラさんの札を外しているからな

「さぁ たんとおあがりな」

マルギスが杖を頭上に構えると

杖に幾何学模様が複雑に浮かび上がる

「っ!!!」

恐ろしく複雑な術式だ

幾何学模様にマルギスの膨大な魔素量が収束していく

それと同時に水と雷の塊の球体が現れる

「これは...」

もはや避けようがない

だが今の俺に出来ることは

「おおおおおおおっ!!!」

俺は全力でマルギスさんの方向へと走って距離を詰める

「いい判断だが

若いね」

マルギスの首元のランタンがオレンジ色に光る

それと同時に

「がっ」

俺の左足が地面に埋まって

足の付け根まで土と金属の混合物が絡みついている

「!?」

「言っただろ

”あらゆる物質の構成を組み替える”と

坊やは全身に魔素を纏ってるから直接組み替えられないがね」

「このっ!」

刀を左足付近の地面に突き刺して光の魔素を流し込む

「それも正解さね

魔素自体で物質を覆ってしまえば組み換えは出来ない

まぁ私は全属性魔術が使えるから」

俺の体がバチィンとムチのような勢いで上空に吊り上げられる

「がっ」

急激な上下左右の回転で頭がかき混ぜられたような感覚

「こんな風に物体を操作しちまえばいいだけなんだけどねぇ

さぁて 痺れる時間だよ」

ドボォォォッ!!!!

全身が水に叩き込まれる

いや飲み込まれたんだ

あの水の球体に閉じ込められた

「ゴボぁっ!」

水が乱回転して全身がぐちゃぐちゃに引き裂かれそうだ

それと同時に

バチバチバチッ!!!!!!!!!!

俺の全身にとんでもない激痛が走る

「があああああああああああああああああああああぁっ!!!」

バシャッと水の球体が割れ

体が地面に叩きつけられる

「ゴボッ ゼェゼェ」

全身が動かない

終わりだ

勝てない

「相手が悪かったね

私がもっと近距離戦の得意な魔女だったら

その機転があればいい勝負になっただろう」

「ゲホッ ゴフッ」

肺に水が入ったのかひたすら苦しい

「にしてもあんたの彼女はどこに行ったのさ」

「ガッ」

ドッと胸を叩いて無理やり呼吸を戻す

「ハァハァ」

なんとか息ができて視界が戻った

だが視界の端にステラさんがいなかった

「全く あんたが負けそうになって愛想尽かしたんじゃないだろね

最近の女ってのは勝ち馬やら玉の輿やら

気概が感じられない」

「違う!!!!

ゴブッ

ステラさんは

ステラさんはそんな人じゃない!!!」

そうだ

ステラさんはそんな人じゃない

魔術には厳しいし

修行はめちゃくちゃ実戦ばっかで何度も命の危険は感じたが

絶対に俺を裏切ったりはしないし

何より

「俺はステラさんを信じる」

「勝手にしな

でも負けは負けだよ

あんたはもう戦えない

立つことすら出来ないだろ」

「出来ますよ」

「無理さ 

死にはしないが体は確実に痺れる雷圧だよ

諦めな」

「痺れてるから立てないとでも」

確かに俺の全身の筋肉が痺れている

だが動かないわけじゃない

グッといつもより強めに力を入れる感覚で

俺は刀を杖代わりにして立ち上がる

「ほぉ やるねぇ

やっぱりあんたが後3分立ってられたら

文通相手ぐらいにはなってやるよ」

「要らないですよ

俺はあんたに勝つ」

そうだ 勝たなきゃいけない

勝って彼女を俺の熟女ハーレムに加える

戦うと何となく分かる

俺は彼女を

「俺はあなたが好きになった

だから勝ってあなたを俺の女にする!!!」

「フフフッ

ハーーーハハハハッ!!!

生まれて初めてだよ

こんなに心がときめくのは!」

マルギスが杖にさっきよりさらに大きな魔素を収束させていき

「ならこっちも全力で行かなきゃ

失礼ってものさね

死ぬんじゃないよ」

「もちろん

俺はあなたに勝つ」

「楽郎!!!!」

アリスラさんの声が城の上から響き渡る

「アリスラさん? どうして」

「相手が違うだろ!!!

好きならちゃんと相手を見極めな!!!

それとその女より私の方がいいだろ!!!」

アリスラさんもステラさんも最高の女性だ

マルギスさんも俺のハーレムには入れたい

いや入れなきゃいけないんだ

今のを聞いてそれが分かったよ

「さぁて 彼女が2人もいるような

タラシ男にはでかいの行くよっ!!!!」

心なしかさらに倍に魔素量が増えていく

「あなたも俺の女になってもらいますから」

「3人目なんて巫山戯んじゃないよ!!!!」

ドォォォォッ!!!!

マルギスさんが収束された魔素を激しい炎に変えて撃ち放つ

「はああああああああっ!!!」

俺は両手で刀を握って切っ先に光の魔素を集中させる

そして炎を切り裂く

もうこれしかない

体はほとんど動かない

避けるのは無理だ

なら

「あなたの魔女の強さも150年生きた最高の女性としてのあなたも

全部俺がもらう!!!」

「最高の彼女は私じゃないかったかしら」

ステラさんが城の壁の上でボソリと独り言を言った気がしたが気にしない

今はただ

「強欲すぎるね!少しは」

「嫌だ! 俺はあなたが好きだ!!」

刀の光の魔素が炎で飛び散らされていく

「私は 私は!!!

最強の魔女!負けるわけにはいかないね」

言葉とは逆にマルギスの杖を持つ手が震え始める

「俺の方が負けられない!!!

あなたを絶対に俺の熟女ハーレムに入れる!!!

好きだから!」

「ふざけてるのか真面目なのかどっちかにしな!!」

俺の刀が再度光の魔素を収束させ炎を切り裂いていく

「切れろおおおおっ!!!」

ブウォォォワッ!!!

シュパッ

マルギスの炎が一瞬だけ爆発的に膨れ上がると同時に霧散する

「え?」

そして炎の魔素が杖とは全く違う方向

マルギスの頭上へとドッと放たれる

「まさか

魔術の根源覚醒<エアルケ>!?」

ステラさんが驚愕の声を上げる

何が起こったのかは全く分からない

だが

俺はマルギスさんの首元に刀を突きつける

峰側を向けているが勝負は

「俺の勝ちです」

「あ」

マルギスさんが杖を落とす

「そういうわけで」

俺は刀を収めてマルギスさんの手を握る

「俺と一緒に来てください ずっと」

「――――負け か」

マルギスが楽郎の手を握り返す

「全く困ったもんだね

この年で初めての彼氏か」

「「え」」

俺と城の中庭に降りてきたアリスラさんがハモる

逆にステラさんがうんうんと頷いている

え そういうもんなの

魔具<ガイスト>あるから魔女って意外と立場なくて男が出来ないのか

などと考えていると

「分かったよ

今日から私はあんたの女

これでいいんだろ」

「だめよ 楽郎はまだ未成年なんだし

まずはハーレムに入ってまずは健全な恋愛関係から」

ハーレムが健全な関係かはともかく

とにかくマルギスさんは俺の仲間にはなってもらおう

「ステラだったけ あんた結構クソ真面目なんだね

その感じだとキスもまだなんじゃないかねぇ?」

「残念 至高の魔女様と違ってキスはもう20回はしたわ」

「あぁ そう」

心の底からどうでも良さそうにマルギスさんが杖を拾う

「さぁ 新しい仲間を歓迎しようじゃないか!」

アリスラさんがガッと俺とステラさんの手を掴んで手を重ねさせる

「これが彼女ね フフッ悪くないね」

マルギスがステラとアリスラそして楽郎と手を重ねる

こうして楽郎のハーレムに新しい女性が加わった

国最強にして最高齢の魔女 マルギス・トラスパース・レギスファルス

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