第7話To the dinner

2日後

「疲れた?」

「いえ そろそろ慣れて来ました」

俺は魔具<ガイスト>から扇風機ぐらいの風を出しながら歩けるようになっていた

街道の砂が少し舞い上がる

ステラさんみたいに木をきれいに切り裂くような力は出せないが

かなり魔素の感覚がついてきた感じがある

「やっぱり感覚は悪くない方みたいね

天才ってわけでもないけど」

「ちなみステラさんは魔具<ガイスト>を使えるようになったのは?」

「親が言うには生まれて3秒らしいわ 記憶にないけど

生まれて魔具をもたせたら辺り一体が大変になったって」

「ぐぐっ」

才能が違いすぎるのか

俺なんか最初ピクリともしなかったのに

「私と比べてもしょうがないでしょ

魔術は優劣じゃなくて

適性かどうかが大きいの

私は適性のない光魔術一生使えないし

逆に楽郎は土魔術に適性がないから使えない

お互いに補い合えばいいだけよ」

「適性...

なるほど」

「楽郎の場合 まずは光魔術を使えるようになるのが先だけど」

「上げるか落とすかどっちなんですか!?」

「ふふっ

まぁ気長に行きましょ

それにあと半日ぐらいで次の街に付くんじゃない?」

「次の街 えっと名前は」

「ルウゥッ!!!!」

「今のは!?」

野生の獣の声

何か悪意のようなものを感じるな

「野生化した魔獣ね

こういう時は無闇に魔術を使わずまずは回避に専念して

敵の正体を確認するのよ」

「了解!」

「....どこから来るんだ」

俺の頬を一筋の汗が伝う

相手の正体が見えないのも怖いもんだな

「来ないわね

この一帯は魔術を使って成長を早めた畜産業が盛んで

その一部が野生化したものね」

「なるほど」

ステラさんが緊張を和らげようとしてくれてるのか

おかげで少し恐怖が和らいだ

「来るわ!!!」

ドッ!!!

木陰から黒い物体が飛び出してくる

「っ!!」

俺は真横に飛ぶ

ガガッ!!!!

黒い物体は勢いよく木々に突っ込む

「あれは」

ギシッ ミシッ

黒い物体の正体は黒い山羊だった

「ブラック・シープ!!」

「何ですかそれ?」

ステラさんは惑星魔術で上へ逃れていた

「ただの黒い羊じゃなくて

魔術によって」

ゴォンッ!!!

ブラック・シープが角で木を叩き割る

どんだけ怪力なんだ

それに角に着いている赤黒い跡 あれは血痕だ

「肉がめっちゃ美味しくなる代わりに凶暴性と怪力を身に着けた

めっちゃ美味しい羊よ

研究用の個体が野生化したものね

めっちゃ美味しいわ」

「....」

めっちゃ美味しいのは分かった

「美味し じゃなくて

弱点とかないんですか?

何かこっち来そうなんですけど!!」

ドッ!!!

「はやっ」

俺は横に転がってブラック・シープの突進を躱す

ブラック・シープは今度は木に突っ込まず急停止する

「楽郎 こいつは任せるわ」

「え!?

えぇ!?!?!?」

ステラさんが飛び去る

俺がこいつを倒すのか

「ウルッルルッ!!!」

ブラック・シープがうめき声を上げる

「くっ」

体格は元の世界の羊と同じぐらいか

だが角についてる血痕からして

肉食じゃない歯してるのに他の動物襲うのかよ

俺が後ろに少しずつ下がるがジリジリと距離が詰まっていく

今度は躱しきれるか分からない

本当に死ぬかもしれない恐怖

転生してきた日以来の強い緊張感

だが前回と違うのは

「来いよ ぶっつけ本番やってやる」

俺が魔術を使えることだ

風を発生させる魔具<ガイスト> ヴィスターブを下に構える

「来い!!」

ブラック・シープが突進を始めると同時に俺はヴィスターブで地面の砂を巻き上げる

「ブモッ!」

ブラック・シープの砂が目に入り進路が歪んだところで

「ここだ!!!」

ブラック・シープの目に砂が入り少しだけ進路がずれる

俺はその隙を使ってブラック・シープの横側に回り込む

ブラック・シープの頭に目掛けてヴィスターブを振り下ろす

ガンッ

「ギュリュッ!!」

ブラック・シープがふらふらと倒れ込む

「倒した か」

ブラック・シープが足をふらつかせながら再度立ち上がろうとする

「悪いな」

ゴンッ!!!

ブラック・シープが地面に伏す

「お疲れ」

ステラさんが空から降り立つ

「天上の女神が舞い降りた」

「はいはい 過大だけど嬉しいものね

これ見つけてきたわ」

「香草!?

敵は?何か危機的状況だったんじゃ」

「違うわ 香草よ

味が違う」

ステラさんが目を光らせる

怖い 怖いよ

普段黒パンとかばっか食ってるせいで自分が作る時にめっちゃこだわるタイプだ

「俺がブラック・シープ倒せなかったらどうしたんですか」

「ありえないわ

後ろ見て」

「え!?」

「木星!?」

俺の背後には木目が入ったような球体が浮かんでいた

「木星<ディアス・ユピトール>

私の惑星魔術の中で最強の物理攻撃を行える星よ

楽郎が危なくなったら勝手に術式が起動するように設定してたの」

「これが...」

見た目はただの球体だが明らかに凶悪なオーラが出ている

魔素は密度が高すぎると目にも見えるらしいが

本当に見えている

赤黒い霧のようなエネルギーが漏れ出ているのだ

「ブラック・シープは怪力以外は大した魔術使えないけど

それ故に魔術師殺しと言えるほど魔術をほとんど受け付けない特徴を持ってるわ

その黒いもこもこの毛ね」

「これが」

試しにヴィスターブの風をブラック・シープの毛にぶつけてみると

不自然なほど何も起こらない

魔術で作ったものを全部無効化しているのだろう

「楽郎が変にヴィスターブを過信してたら危なかったのよ

まぁ 送風機程度だったから心配はしてなかったけれど」

「...」

確かに俺がもっと魔術使いこなせてたら逆に危なかったかもな

魔術に頼って棒として使わなかっただろう

「ともかく結果よしね

さぁ 解体しましょ」

「え 解体!?」

「当たり前でしょ

流石にこのまま私の魔術で凍らせても不便だし

毛皮は剥いで 骨はいらないからここで捨てていきたいし

というわけで手伝って」

「は はぁ」

まさか魔術のある世界に来て動物の解体をやることになるとは

まぁちょっと楽しみだけど

「まずは何から」

ブシュァァァッ!!!

ブラックシープから勢いよく血が吹き出す

ステラさんがブラック・シープを勢いよく解体していく

「すげぇ」

「田舎暮らしだったから色々覚えたのよね

あ そっちの皮抑えてて」

「は はい」

ステラさんが捌いていくのを手伝っているうちに日は沈んでいった


「終わったー

おつかれさま」

「おつかれです」

ステラさんの魔術で一瞬で急速冷凍したのが一番驚いたけどね

もとの世界でもびっくりの冷凍技術だ

「それより肉よ!

楽郎! 後は頼んだわ!!!」

ステラさんの目が輝き始める

ステラさんのキラキラした目可愛いなぁ 最高だよ

「はい」

肉焼くのだけは俺なのね

そう言えばステラさん自炊は黒パンとチーズだったな

と言ってもこういう肉はシンプルに塩とかこしょうだけでうまいものだ

「そういえば初めての野宿ね」

「獣の血の匂い付いたので今日こそ宿で湯でも浴びたかったですが」

「近くに川があっただけマシでしょ」

「そうですね」

焼いた肉の匂いが漂い始める

「美味しそう もう食べていい?」

「もう少し

この辺りまだ焼けてないし」

「うぅ もう少し もう少しなのね」

肉が焼けるのを待つステラさん 何か可愛いな

「私じゃなくて肉を見て ちゃんと焼けたら教えてね」

「ステラさんの魔術で焼けたりしないんですか」

「焼け過ぎちゃうのよ 一瞬で黒焦げ」

「なるほど」

ステラさんの魔術やたら大規模だもんな

ヴィスターブのそよ風とかピカピカするやつとか俺の魔術がまるで児戯に思えてくる

「焼けましたよ」

「ありがとう」

ステラさんが肉を頬張る

こしょうはなかったのでただ塩をふっただけの肉だが

恐らく

「美味しいっ~~~!!!」

うまいだろうな

焼いてる俺にも分かるぐらいには上質な肉だったよ

「楽郎も食べなさい ほら」

「そっちまだ焼けてないですって」

「ちょっとぐらいいいじゃない」

「生はだめですって」

「ふふっ」

「どうしたんですか?」

「楽郎」

「? 何です?」

「美味しい」

「良かったです」

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