81. 呪物だろうと

 イゴットたちと大穴ダンジョンを攻略した翌日の夜。俺はコークスローから少し離れた狩り場にいた。


 すでに街の門は閉まっている。だが、俺は気づいてしまったのだ。ファントムスタイルなら、人に見られずに出入りできるのではないかと。さすがに、門を使うのは難しいが、防壁を越えて出入りすれば気づかれることはない。出るときはともかく入るのは大変そうだが……まあ、【登攀】【念動】あたりを駆使すれば何とかなるだろう。おそらく。


 わざわざ、夜の狩り場に出てきたのには理由がある。ファントムとして少々目立ちすぎたので昼間の狩り場は騒がしいのだ。他の探索者とトラブルになるわけではないが、やたらと注目される。おかげで検証の類がやりにくくてしょうがない。なので、ほぼ人がいない夜の間に色々と試してみようと考えたわけだ。


 普通ならば夜間の活動は無謀。【暗視】スキルがあっても昼間ほどはっきりと見渡すことはできないからな。


 ところが、だ。昨日のボス格モンスターとの戦いで【領域把握】がかなり有用なスキルだとわかった。ダークミストの領域であれば、かなり細かく内部の情報を把握することができる。これを使わない手はない。というわけで、夜の狩りへと繰り出すことにしたわけだ。


「まずはアイテムの確認だな」


 大穴ダンジョンで手に入れたアイテムは二つ。鬼人武者の面頬と変幻自在ツールだ。まずは鬼人武者の面頬から見てみるか。



【鬼人武者の面頬】<呪物>

◆分類◆

防具・頭装備(標準)

◆防御性能◆

物理防御:C 魔法防御:E

◆特殊効果

装備時にスキル【生命の蝕み】を強制取得

装備時にスキル【肉斬骨断】を強制取得

生命減少時に攻撃力が上昇する



「呪物なぁ。さすがに装備する気にはならんが……アイテムからスキルドレインってできるんだろうか?」


 ペルフェからスキルを奪うことはできる。とはいえ、それは武器に宿るアーマニアのスキルを奪っているだけであって、武器そのものからスキルを引っこ抜いてるわけじゃないんだよな。だから、この面頬からスキルを奪えるかどうかは未知数。というわけで、参考としてペルフェに尋ねてみたわけだが。


『さあ? やってみればわかるよ』


 返ってきたのはそんな言葉。もっともな意見だ。不発ならマナは消費しないわけだしな。


 さて、早速試してみたところ、アイテムにもスキルドレインは発動した。だが、手に入ったのは意外なスキルだ。



【呪い:生命の蝕み】<スキル結晶体 lv15>

触れたものを呪って、【生命の蝕み】を強制取得させる


【付与:肉斬骨断】<スキル結晶体 lv10>

対象に【肉斬骨断】を付与する(一人まで)



 強制取得するスキルではなく、させる方のスキルが手に入ってしまった。しかも、ひとつは相手を呪うスキルである。種族適性で制限がないことに人類の闇を感じるな。


 で、これらのスキルで取得させたり付与したりスキルはこんな感じ。



【生命の蝕み】

所持している限り生命が減少し続ける呪い


【肉斬骨断】

ダメージを激増させる代わり、増分に応じたダメージを自らも負う



 【呪い:生命の蝕み】は、要するに永続スリップダメージを与えるスキルだ。パッシブスキルではなく、アーツを発動させるタイプ――すなわちアクティブスキルらしい。


 このスキル、人間相手に使うと取り返しのつかないことになるな。ああ、でも、装備の呪いは解くことができると聞いたことがある。そういうスキルがあれば【生命の蝕み】も解呪できるのかもしれん。


 モンスター相手の場合はスリップダメージの発生速度次第だな。被ダメージを軽減するような魔物がいるなら有効かもしれん。


 【肉斬骨断】はメリットもあるが、扱いづらいスキルという印象だ。ダメージの激増はありがたいが、増分に応じた反動ダメージも負うことになるので被害も大きくなるはず。使えるか否かは、反動ダメージの比率次第だ。


 【付与:肉斬骨断】で誰かに【肉斬骨断】を付与した場合、付与者が任意のタイミングで付与を解除できるようだ。なので、使いたいときだけ取得状態にしておく、なんてこともできる。これなら、試しに使ってみてもいいかもな。


「ルゥはいらない」


 宿環から出てきたルゥルリィはつまらなそうにしている。おそらく、どちらも種族適性がないのだろう。


『僕は欲しい!』


 ペルフェは乗り気だ。だが、コイツに取得させていいものか。


「お前、昨日のボス戦で殲滅衝動を使おうとしてなかったか?」

『ち、違うよ! 気のせい! ジンヤの気のせいだって!』


 本当かよ。ペルフェはお調子者だから、いまひとつ信用できないんだよな。


 【付与:肉斬骨断】をペルフェに取得させるメリットはない。任意の対象に付与できるので、ペルフェを介して付与するよりも、自分で付与できる方が便利だ。


 一考の価値があるのは【呪い:生命の蝕み】の方だな。このスキル、対象に触れた状態で発動させる必要があるのだ。そういう意味では攻撃しながら呪いを付与できるようにペルフェに使わせるというのもありだ。だが――……


「呪いを発動させたとき、俺がペルフェを持っていたらどうなるんだ?」

「それは……効果が発動しちゃうんじゃない?」

「じゃあ、駄目だな」

「なんで!?」


 なんでって危ないからに決まってる。効果を使おうとするたびに俺まで呪われてしまうじゃないか。


 まあ、アクティブスキルみたいだから、念動で飛翔しているときだけ使う……なんてこともできなくはない。だが、調子に乗ってペルフェはとんでもないことをやらかすからな。ペルフェには与えない方が良いだろう。


 さて、スキルを引っこ抜いたアイテムの方はというと。



【鬼人武者の面頬】

◆分類◆

防具・頭装備(標準)

◆防御性能◆

物理防御:C 魔法防御:E

◆特殊効果

生命減少時に攻撃力が上昇する



 おお、呪物じゃなくなっている。デメリット効果が消えたので、見た目はともかく性能は悪くないぞ。防御性能に関しては、怪人の白面の完全上位互換だ。見た目は【偽装】スキルで誤魔化すこともできるので、こちらに替えるというのもありだな。だが、白面は精神的な状態異常への耐性がつく。悩ましいところだ。

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