80. 大穴ダンジョン攻略報酬

「結局なんだったんだ……」

「あの闇の中、何者かがあのボスを倒したってことだろうニャ」


 闇が晴れたあと、出現した宝箱の前でイゴットとコマタは話し合っていた。最奥の宝箱が出現した以上、ボス格が消滅したのは間違いない。しかし、誰が仕留めたのか。それが議論になっている。


 悪くない結果だ。そんな議論が始まるってことは、俺の仕業とは知られていないと言うことだからな。


 懸念はサルボの盗賊だったが、特に何かを言い出す気配はない。宵闇の外套の特殊効果がうまく働いてくれたってことだろう。


「何者って誰だよ?」

「我々が手出しできないような魔物を倒しうる探索者か。コークスローで活動中となるとかなり限られる。しかも、あえて我々を出し抜いて倒すとなると……アイツしかおらんだろうな」


 コマタの推測はなかなか的を射ているだろう。ここにいる二組はコークスローでも上位の探索者パーティー。相性の問題もあるとはいえ、彼らに倒せない魔物を屠るとしたら、それは同程度の実力を持つパーティーでなければあり得ない。そして、コークスローの探索者たちは基本的にコマタには友好的だ。もし戦闘途中に駆けつけたとしても、コマタ達を出しぬく形で横槍をいれたりはしないだろう。


 そんな探索者がいるとすれば、つい最近現れた新人。すなわち――……


「……例のファントムってヤツか」

「そうだ。ボス部屋の前の合流地点では三つの穴が合流しているようだった。最後のひとつからヤツが来ていたとしてもおかしくはない」


 まあ、そう推測するよな。


 ファントムの仕業であると思われる分にはまるで問題はない。コマタたちからすれば獲物を横からかっさらわれた形だが、実際には有効な策もなく防御に専念せざるをえない状態だったのだ。それを面子メンツが潰されたと恨むような愚かな連中ではない。多少、感じが悪いと思うかも知れないが……まあ、それは今更だろう。


 俺が恐れているのは、この中にファントムが紛れていたという結論になること。だが、都合の良いことに、ファントムは外部からやってきたという認識のようだ。ボス部屋前の三つの通路の合流地点、残った最後の穴からファントムが侵入してきたと思っているらしい。


 何の根拠もないのだが、俺たちの中にファントムがいると考えるよりは現実味がある……のだろうか? 俺にとっては都合が良いので異議を唱えたりはしないが。


「なんにせよ、終わりだな。これで俺たちもダンジョン攻略済み……と言っていいものか?」

「どうかな。途中まではともかく、ボスはコマタの旦那と共闘だったし、最後はファントムにかっ攫われるし」


 イゴットとエメラは浮かない顔をしている。ダンジョンを攻略したという実感に乏しいのだろう。特に最後は自分たちの関与していないところで戦闘が終わったからな。


 だが、納得してもらわないと困る。たまにならパーティー活動も悪くないが、何度も付き合わされては堪らないからな。そんなわけでフォローを入れておく。


「普段はシロアリの女王だけなんだろう。それを倒せたんだから攻略完了でいいだろ」


 それでもイゴットの表情は晴れない。


「だがなぁ。コマタもいたわけだしなぁ」

「だが、女王も強化されてたんだろ。増援の数が多かったって話じゃないか」

「でもなぁ……」


 なんだ? どうも煮え切らない態度だな。いったいどうした?


「だいたい、それを言い出したら俺が臨時で入っている時点で『パワー&パワー』単独じゃないだろ」


 指摘すると、イゴットが一転してニヤリと笑う。


「それについては、ジンヤがパーティーに入ってくれれば問題ないだろ」

「そいつはいいね」

「そうですね。名案だと思います!」


 まるで打ち合わせでもしていたかのように、息のあった連携で賛同してくるエメラとニーデル。ついでに、ロンズとルバーは両手を広げて歓迎を示している。少しは喋れ。


「いや、入らないからな」


 そこまで歓迎されると少しは嬉しくもあるが、やはりパーティー活動をする気にはならない。バグ職という秘密を抱えているしな。ソロの方が気は楽だ。


 きっぱりと断ると、イゴット達は円陣を組み、ひそひそと相談を始めた。


「ううむ、話の流れでどうにか説得できないかと思ったが無理だったか」

「なかなか手強いね」

「さすがに雑すぎますよ。もっとパーティー加入のメリットをそれとなく吹き込んで……」


 いやいや聞こえているからな。いくら小声とはいえ、目の前にいるんだから。


 むしろ、あえて聞かせることで、それだけ評価していると伝える意図があるかもしれないが。さすがにその程度で心が揺らいだりはしないぞ。


 そんな茶番はさておき、ボスも倒したのでお宝分配の時間だ。ボス前の取り決めではドロップはコマタパーティー、宝箱はイゴットパーティーという内訳だった。とはいえ、今は状況が変わっている。普段なら一つしか出現しない宝箱が四つも出現しているのだ。こういう異常事態なら大歓迎なんだがなぁ。


 再度の話し合いの結果、イゴットパーティで宝箱二個、コマタパーティーが宝箱一個にドロップアイテム、そして、俺が宝箱一個という内訳になった。一人で宝箱一個と、俺への配分が大きいが、異論は出なかったのでありがたくもらっておこう。


「ほお、大盾か! これはいいな」

「こっちは杖か。ニーデル用かな?」

「ええ。若干ですが法術が強化されるようなので助かります」


 イゴットパーティーが開けた宝箱から出たのは大盾と神官用の長杖。ちょうど、メンバーにマッチした装備だ。


「このブーツは……浮遊のブーツだって!」

「ふむ。装備すると勝手に発動するタイプか。普段使いする装備じゃないが、状況によっては使えそうだニャ」


 コマタパーティーの宝箱からは、装備すると宙に浮くブーツが入っていたらしい。役に立つかどうかは不明だが、コマタたちに不満はないようだ。


 そして、俺の宝箱に入っていたのは……なんだこれは?


 長さは30cmくらい。見た目は木製で、持ちやすいように柄がついている。俺の知識で近いものを挙げるとすれば警棒だろうか。某RPGにおける最低ランク装備のようにも見える。ひのきかどうかは知らないが。


 まあ、さすがにただの木の棒ってことはないだろうな。とりあえず、鑑定してみるか。



【変幻自在ツール】

◆分類◆

武器・特殊(特殊)

防具・特殊(特殊)

◆攻撃性能◆

物理補正:F 魔法補正:F

◆防御性能◆

物理防御:F 魔法防御:F

◆特殊効果◆

所持者の意思によって変形する


 

 うーん、これは凄い……のか?

 よくわからん。

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