バグ職で超成長!~押しつけられた戦闘職がチート仕様っぽいけどバレなければ問題ないのでヨシ!~
小龍ろん
アースリル編
1. バグ職のチートなアーツ
暗雲立ちこめる水晶の丘に咆哮が響く。直後に振るわれた尾が、柱のように屹立する紫色の結晶を薙ぎ倒しながら、竜を取り囲んでいた探索者たちに襲いかかった。
あまりに強烈な一撃。
その一振りは、重装で固めた騎士職の探索者ですら吹き飛ばした。ましてや、半端な前衛職に耐えられるはずがない。溶岩竜に対する包囲陣はただの一撃で、完全に機能不全に陥ってしまった。
無論、彼らとて経験を積んだ探索者。あくまで戦列を乱されたと言うだけで、壊滅に到ったわけではない。吹き飛ばされた前衛たちも、ダメージが少ない者はすぐさま起き上がり、戦線に復帰すべく動き出している。
だが、彼らが相対するのは、竜。ときに天災と同じレベルで語られる非常識な存在だ。例え僅かな綻びであろうと、竜が相手では致命的な隙となり得る。
「マズい! ブレスだ!」
「前衛は早く戻れ!」
「無理だ、間に合わん! とにかく魔法職を守れ!」
溶岩竜が大きく息を吸う動作を見せたことで、探索者たちに動揺が走る。あれこそはまさに、竜種の代名詞とも言える最強の攻撃手段――ブレス攻撃の予兆だ。その威力は凄まじく、耐久力に優れた戦闘職業であっても、無策で受ければ死は避けられない。ましてや、耐久力に難のある魔法職が生き残ることなど不可能だろう。
法術使いによって、幾重にも魔法障壁が張られるが、それすらどれほどの効果があるか。命をベットするには分の悪い賭けになりそうだ。
「さすがに、これ以上の傍観はできないな」
俺がいるのは、竜が暴れている場所から少し離れた別の丘だ。全力で駆けたところで、探索者たちを窮地から救い出すことはできない。それを成すには、俺の横でぶつくさと愚痴を零している優男の力が必要だ。
「行くぞ、セプテト」
「なんで僕まで……」
「いや巻き込まれてるのは、俺だろ。とにかく急ぐぞ」
「はいはい」
俺が急かすと、セプテトは渋々といった表情で頷く。いい加減な態度だが、それでも自らの仕事はきっちりと果たしたらしい。奴が手を軽く振った瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。上下左右の感覚が失われ、立っているのか座っているのか曖昧になる。
だが、それも一瞬。
瞬きのあとに、視界に飛び込んできたのは溶岩竜の巨体だった。どうやら、探索者たちの包囲の最も内側、竜の真正面に転移したらしい。絶好のポジションだ。
「おっと危ない」
溶岩竜は今まさにブレスを放たんとして、大口を開けたところだった。喉元には赤々と燃える炎が覗いている。間一髪だったが、どうにか間に合ったらしい。
すぐさま右手を前に伸ばし、アーツの発動を意識する。ほぼ同時に灼熱の息吹が俺を焼き尽くさんと押し寄せてきた。だが、その炎は決して俺の元へと届くことはない。俺のアーツが盾のように竜のブレスを遮断しているのだ。いや、遮断というのは正確ではない。正しくは、吸収している。
発動したのは〈ダメージスティール〉。このアーツは不可視の障壁を作り、そこに加えられたダメージを
如何な竜とて、無限にブレスを吐くことはできない。障壁を破ることができないと悟った溶岩竜は、ついにブレスを止め、不服そうな唸り声を上げた。
「おい、セプテト。ギリギリだったぞ」
「間に合ったんだからいいでしょ。あとは君に任せたよ」
「お前な……」
仕事は終わったとばかりに、その場に座り込む優男。世界の運営者たる御使いとして、あるまじき態度である。だが、奴の言葉に不服はない。溶岩竜という極めて珍しい魔物が相手だ。他に譲るなんて勿体ない真似はできない。
「助かった……」
「ファントムか!?」
「また奴が……」
周囲の探索者が俺の出現にざわついている。それでも、この程度の騒ぎに留まっているのは、日頃の行いのおかげか。
ファントム。この格好のときは、そう呼ばれている。適当に名乗った名前が定着した形だ。他の探索者の厄介事に首を突っ込んでいたら、思いの外、広く知れ渡ってしまった。
まあ、これに関しては自重しなかった俺が悪い。自業自得だ。
「これは俺たちの獲物だ! 手を出すな!」
この集団のリーダーだろうか。騎士職の男が、怒鳴り声を上げた。正当性のある主張だ。ただし、相応の実力があればという条件がつくが。
「欲に負けて死ぬ気か?」
俺は冷たく突き放す。こんな危機的な状況で、小賢しい権利主張に付き合っている暇はないのだ。もし、本気で言っているのなら、竜の前にコイツを排除しなければならない。
溶岩竜は、文字通り一息ついている状態。次のブレスが放たれるまで、多少の猶予はあるだろう。だが、次のブレスまでに竜を討伐できる保証はない。と言うより、生命力に優れる竜を、短時間で討伐するなど、真っ当な方法では不可能だ。
このまま戦いを続ければ、多数の死者が出ることは避けられない。そもそも、俺が割って入らなければ、部隊が壊滅状態に陥っていたはずだ。無策の継戦は愚行としか言いようがない。
無論、目の前の男も状況は理解しているのであろう。鋭い目つきで俺を睨みつけてきたが、それも僅かのこと。
「ちっ! 討伐失敗だ! 総員撤退!」
苛立たしげな表情のまま、男は撤退を指示した。プライドは高そうだが、そんなもののために多大な犠牲を出すほどの馬鹿ではなかったようだ。
方針が決まれば、行動は早かった。溶岩竜に挑むだけあって、部隊の練度は高いのだろう。探索者たちは取り乱すことなく、淡々と撤退準備をはじめた。
これで邪魔が入ることはない。
「まずはブレスを止めないとな」
先ほどの攻撃が防がれたせいで意地になっているのか、溶岩竜は再びブレスをしかけてくるつもりらしい。見抜いたわけではないだろうが、現状では一番面倒な攻撃だ。ダメージスティールの障壁はまだ使えないため、防ぐのは難しい。避けることは可能だろうが、それでは撤退途中の探索者たちに被害が出てしまうだろう。
「ま、なんとかなる」
息が上がってしまったのか、溶岩竜は次のブレスに手間取っている。
さて、ダメージスティールは防御アーツではなく、カウンターアーツと呼んだ方が正確だ。障壁で奪ったダメージを、敵に解き放つまでがセット。無論、奪ったダメージが大きいほど、解き放った際の攻撃も強烈になる。
「まずはお返しだ!」
竜の足元へと辿り着いた俺は、強大な鱗に触れて、報復の一撃を放った。狙ったのは右足だ。ブレス攻撃のダメージを一点に集めた攻撃。これには、竜といえども耐えられなかったらしい。ギギャアアと喧しい悲鳴が響き渡った直後、溶岩竜の巨体が傾き、その場で横倒しになった。
「おっと危ない! だが、チャンスだ!」
下敷きになりかけて肝を冷やしたが、形勢は俺に有利。この機を逃す手はない。
倒れた竜に触れながら、スキルドレインを発動。対象からスキルを奪うアーツだ。奪うスキルが強力であるほど、発動までに時間を要するため、本来ならば使いどころを選ぶ。だが、今ならば奪取は容易い。竜が藻掻くせいで僅かばかり手を焼いたものの、やがて、俺の手のひらには巨大な結晶体が出現した。
「これがブレススキルのスキル結晶か。さすがにデカいな。果たして、人間にも習得できるのか。何にしろ、これでブレスを封じた」
スキルを奪ったことで、溶岩竜がブレスを放つことは不可能。このままスキルを奪い、能力を奪い、弱体化させていけば勝てる。天災レベルの理不尽な竜でさえ、俺のスキルがあれば敵ではないらしい。
エルネマインに転生した直後はバグ職を押しつけられて頭を抱えたものだが、まさかこんなことになるとは。わからないものだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます