それは天罰、またの名を·······【大洪水】

私はエンリちゃんの所に戻ると、すぐに女性のことを伝えた。


「黒に近い色の髪の女性?」


『うん、どうやらエンリちゃんと同じで魔法が使えるみたいだよ。今はあの国の王の家の近くに監禁されてたよ。どうする?助ける?』


「うん、もちろん助けるよ。でも·····いや、そうなのかな?でも·······黒???」


『どうしたの?』


「姉さん、その人は占い師をしてたんだよね?」


『うん、あの国の人はそう言ってたよ?』


「私があの国に住んでたとき占い師の人がいたんだけど。その時の髪の色は回りの人と同じ茶色に近い髪だったの。だから黒に近い色って聞いてちょっと混乱しちゃった」


『う~んちょっと待ってね』


私はそう言うと、急いで魔法を構築し始めた。

う~んエンリちゃんが言ってる占い師が同一人物ならもしかして·······う~んどうなんだろ?

よし!できた。


『エンリちゃんの言ってる占い師はこの人?』


「こ、これは遠くにあるものを近くに写してる·······?相変わらず凄いことするね姉さん。うん、この人で間違いないよ」


私がしたのは、監禁されてるあの女性のを私達がいるここに写したんだよ。

もちろん魔法でね。仕組みを詳しく言うと面倒くさいから、簡単に言うとあの女性がいる周辺の色を魔力で再現して画像にしたって思っとけば良い。実に簡単だね!


『エンリちゃんが見たときは茶色に近い髪色だったんでしょ?多分だけど魔法で誤魔化してたんだと思うよ』


「あぁ!なるほど、精神系統の魔法で回りの人たちの認識を歪ませていたと考えるのが良さそうだね」


『う~ん、相変わらず理解が早いねぇ。とりあえず、助けるにしてもどうやって助けるの?』


「うーん·······どうしよう」


2人でうんうん唸ってるとそこにアルルちゃんがやって来た。


「なにしてんだ?」


「あ、アルル、実は人を助け出そうとしてるんだけど·······その方法が思い付かなくて」


「ふ~ん、じゃあ私が助けに行っても良いぞ?」


「『え?』」


『アルルちゃん、誰を助けに行くか聞かなくて良いの?』


「ベル様とエンリが助けに行くってことは悪い奴じゃないんだろ?なら、別に私が助けに行っても良いからな!」


「なるほど(?)まぁ、それならアルルに助けに行ってもらうね。」


「あぁ!任された!」


『なんか、うんうん唸って悩んでたのがバカらしいね』


「まぁ、アルルだし」


「お?どういう意味だ?」


「いや、別に·······」


まぁ、アルルちゃんだしねぇ。過程はどうあれ女性をどうやって助けに行くのか決まったね。

だけど一番の問題は·······と。


『エンリちゃん、あれは順調?』


「うん、今はなんとか進んでる。でも、少し姉さんに手伝ってもらいたいかも。このままじゃ結構な時間が必要になりそうだし」


『良いよ~私もしばらく暇だし。それに、エンリちゃんが魔術をどれだけ解析できたのか知りたいしね!』


「ありがとう。姉さんに今わかってる魔術を教えたら、すぐに追い越されそう·······」


「あ!ベル様!私にもっと稽古つけてくださいよ!もっとパンチの仕方が良くなれば強い攻撃が出来ると思うんだ!」


『じゃあ、しばらくはまた3人でいようか』


「せっかくなら、うちの村に泊まれば良いのに·······」


「え?」


お泊まり·······お泊まり!!なんと甘美な響きだろう!青春時代に味わいたかったその甘美な響き!私は前世で体験できなかったこと!友達とお泊まり会を開く···まさしく青春の1ページ!


『エンリちゃん、泊まらせてもらおう』


「え???」


『良い?エンリちゃん、子供の時にお泊まり会を体験できるのは子供の時·······今だけなんだよ!』


「お、とまり·······かい?」

『もちろんそこに私は邪魔でしょう!アルルちゃんとエンリちゃんの2人で泊まれば良い!!』


「え???え?????」


「お?じゃあ!泊まるってことで良いな!」


『もちろん!アルルちゃんが良かったらこれから3人でいる間、毎日でも良いよ!』


「やったぁ!!」


「え、えぇ????」


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___________________

_____

_


あれから2週間ぐらいの時間が経過した。この2週間の間に色々な準備をした。今は日が沈んで真っ暗な夜、あとは計画を実行するだけ·······


『エンリちゃん·······本当にやるんだね?』


私はエンリちゃんの決意をさらに固くするために聞いた。


「·······うん。後悔はしない」


『うん、わかった。アルルちゃんはちゃんと作戦覚えてる?』


「おう!もちろん!!」


『じゃあ始めようか·······』


「うん!」


「おう!」




「あ、あの僕を忘れないで下さいね?」


あ、忘れてた·······この人はエンリちゃんの復讐の話を聞いて、その近くの生き物を先に捕まえてこっちに持ってきたいと言っていた人だ。名前はノア君という。


『ま、まぁ!気を取り直して!』


私はその場にワープゲートを開いた。

そして、その中に躊躇無くアルルちゃんが飛び込んでいった。このワープゲートが繋がっている所はあの女性が捕まっている檻の前。

あの檻、最近見張りがつくようになったんだよね。

そしてアルルちゃんの様子を見ながらも、ノア君のために動物の近くにどんどんワープゲートを開いていった。


神狼眼で様子を見ると、アルルちゃんが早速見張りの人を殴って気絶させてた。首トンなんてスマートなものはありゃしない。う~ん脳筋。

女性は少し驚いてるみたいだけどしょうがない。アルルちゃんが檻を当たり前のように素手で破壊すると、女性を米俵のように肩に担いだ。アルルちゃん·······もうちょっと丁寧に扱ってあげて?女性は色々喋ってるみたいだけど、アルルちゃんには伝わらないから、そのままどんどんワープゲートのところまで担がれてきた。

とりあえず回収しようか。


「よいしょぉ!回収してきたぞ!」


『アルルちゃんお帰り!』


「え???どこ?!ここ!??」


『あぁごめんけど、ちょっと待ってて私達もやることがあるから。あとそこに小屋も作っといたからその中にいてね』


「え?は?お、狼がしゃ喋って!?それにいつの間に??!」


「占い師のお姉さん久しぶり」


「???あ!もしかしてあなたは!!」


「うん、今から私はあの国に復讐するから、先にお姉さんを助けたの」


「どっどういうこと!?」


「詳しい話しは帰ってからね。じゃ!」


エンリちゃんがそう言うと、私はワープゲートを発動した。


「え?ちょっと────」


何か言いかけてた無視無視!多分アルルちゃんとノア君が何とかしてくれるでしょ!話すのも帰ってきてからできるし!!ちなみにノア君はもうとっくに動物は全部捕まえ終わってた。


「あそこが·······っ!」


『そうだよ、あそこがエンリちゃんの復讐相手·······エンリちゃんのお母さんを、殺した国』


「ッ!·······まだ、まだだよ私·······今からそう、今から復讐するから···落ち着かないと············ふー」


『大丈夫?』


「うん、姉さん·······今から始めるから補助して」


『うん』


エンリちゃんはそう言うと国の真上、国の遥か上空に向かって魔力を伸ばし始めた。私が今するべきことは、エンリちゃんが空にむかって魔力を伸ばしている時、空中に無駄に魔力が散らないようにさらに制御すること。

ここからは長丁場になる。

エンリちゃんが魔力を国の上空に伸ばし始めて10分ほど経った。エンリちゃんが出した魔力は国の上空を完全に覆いつくしている。魔力を見ることができない普通の人は何もわからないだろうけど。魔力が見える私の目には国の空が真っ青に染まってるのが見える。

その真っ青な魔力が朧気に形を作り始めた。


『エンリちゃん、落ち着いてしっかりと詠唱すんだよ·······』


「うん·······!はー·ふぅ·······


私は破滅を望む者


制裁を望む者


復讐を望む者


私が望むは崩壊


私が祈るは暴雨


水よ、雨よ、暴風よ


今この時、全ての大地を沈めよ


全てを洗い流せ


そして、全てを無に還せ


私は水を司りし者、エンリ!


私が生み出すは全ての消滅!!









神の怒りの大洪水ゴッドフルート】          」





エンリちゃんが詠唱し終わると同時に国を一つ覆い尽くすほどの巨大な魔方陣が上空に完成し現れた。ふと、エンリちゃんの横顔を見てみると、とても気分が晴れたような顔をしていた。

そして、頬に涙が伝って見えたのは、たぶん見間違いなんかじゃない。


















人類が様々な暮らしをしていたその昔、1つの国が消滅した。


その国に雨が降りだし、大地はまるで空から降ってくる恵みを拒絶するかのように、その恵みを弾き返した。


そして、水流により家は崩れ去り人々は溺れ、ある者は絶望し自ら天に還った。


40日後雨が止み、それから90日ほどたって水が全て流れていったそこには·······


まるで最初から何もなかったかのように鬱蒼と木々が生い茂っていた。


そこに国があったと人々が知ることは、おそらくこれから先の文明が発達した未来でも無いだろう·······永遠に。

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