ごちゃまぜカルテット
北山の人
ミニストーリー
閑話休題①
※初見の方へ
このストーリーは本編と関わりのある話ではございません。
登場キャラや設定などはその都度紹介しますので、まだ本編をお読みになっていない方もご気軽にご参照ください。
YouTuber。
動画投稿サイト、YouTubeに自作の動画を投稿する人のことである。
大衆向けの動画や、テレビ番組級の凝った企画、自分の1日のルーティンや旅の記録などを挙げるVlog、料理にゲームに実験にガジェットに音MAD……、 YouTuberの扱うコンテンツは、とにかく言い出せばキリがない。
更にYouTuberと言っても、最近では芸能人やVTuberと多角化していっている。
そうして多くの人が参入したことにより今や飽和化し、もはやコンテンツの海に溢れたYouTubeは『レッドオーシャン』と呼ばれるようになった。
2022年の時点で、YouTubeチャンネルの数は約5100万。
ここに登録者10万人以上というフィルターをかけてみると、なんと30万、全体の僅か0.5%に絞られるのだ。
そんな中、YouTuberにとって生計を立てる元となる広告収入の付く登録者1000人に満たない者たちは、底辺と呼ばれる。
どんなに面白い動画を上げようが、どんなに投稿頻度を上げようが、視聴されることなく努力は無に帰す。
ただどこかで深く広い海から拾い上げられるのを待つのみだ。
……中にはネットのおもちゃや炎上商法として名が知られるようになるYouTuberも居るが。
まあそんな闇深い話は本編に置いておこう。
あくまで今回は『楽しい』話だ。
特にこれといった話の進展もストーリーのためにとってつけられたような新メンバーの登場も意外と呆気なく倒れる自称最強なライバルも無い、至ってフツーの話。
そんな話でも、もし見てくれる人が居れば幸いだ。
〜底辺YouTuberの1日のルーティンに密着!【前編】〜
「おはようございます、ごちゃまぜカルテットの『ほとけ』です。今回は、私たち底辺YouTuberの1日をお届けしたいと思います」
午前6時。
小鳥が軽快に囀り、雲一つない青々とした空が澄み渡る。
そんな心地良い朝からハンディカメラに語りかけるこの男。
俺、
ちなみにこのYouTube上でのニックネームであるほとけというのは、大仏のように無表情だからという理由で同じグループのメンバーに付けられたものだ。
でも仏像は微笑んでいたり怒っていたりと表情はあるんだということを彼らに言いたい。もっとみんな仏見て。
「さて、この時間に起きている人は居るんでしょうか。早速各自の部屋を見ていこうと思います」
俺たち、ごちゃまぜカルテットは高校生4人が全国から集まって出来たグループで、神奈川県にあるシェアハウスで生活を共にしている。
そんな熱意に溢れたグループだが、現状は登録者数百人程度。
シェアハウスのオーナーからは高校卒業までに登録者100万人を条件に家賃をタダにしてくれているのだが、かなり厳しい状況に立たされているのだ。
「それではまずこの部屋から──お、意識高いな」
「んだよ朝から……──っ! おはようございまーす! いぶきんぐでーす!」
「……冒頭はカットするか?」
「──おう」
オレンジ髪の寝癖を右手で抑えつつ左手で挙手し、満面の笑みを浮かべるいぶきんぐこと
神奈川に元から住んでいて、兄はこのシェアハウスのオーナーだ。
ご覧の通りYouTube上では陽気なキャラを演じているが、オフレコになった途端メンバーたちに悪態をつく、性格に難アリのこのグループのリーダーだ。
「朝からパソコンに向かって何をしてるんだ?」
「昨日終わらなかった動画の編集。個人的に結構ハードな企画だったから、編集してる時に見返しててその時を思い出しちゃうね」
普段は編集なんてせず人に任せているのにこの様である。
なんならドア開けたとき別のサイトから編集ソフト上乗せしたの知ってるし。
詰まるところ彼はサボり常習犯なのだ。お分かりいただけただろうか。
「朝から編集してくれてこっちも助かる」
「そっちも撮影終わったら手伝ってくれよ〜? あっはは」
どの口がッ……!
このあとめちゃくちゃ編集させた。
「はい、ということで現在の時刻は午前8時です。自分は今まで編集作業に取り掛かっていました。この動画はかなり字幕を付ける量が多くて──」
と喋っているところに、ドンッ! とかなり大きく鈍めの音が廊下から聞こえ、慌てて向かうと──。
「もうマヂ無理……」
階段を踏み外したのだろうか。にしてもなぜにギャル語?
床にアメーバのごとく広がる長髪。
香川県から来た我らがエース。
「な、何が無理なんだ?」
「編集……、徹夜で……」
嗚呼、ご愁傷様です……。
このグループの編集監査担当(とミステリアス担当)をしている中津。
元々は絵の師匠の元で修行していたが、別のことに取り組め、との師匠の提案によりYouTuberを始めたんだとか。
なので字幕やフォーマットなど、デザイン面に関しては中津に任せており、俺ともう1人のメンバーで字幕の仮入れとカットをしているという分担の仕方だ。
……その間奥入瀬は遊んでいるっぽいが。仕事しろし。
「お、おい。大丈夫か?」
「──はん」
「ん?」
顔が床にキッスしてるせいで篭って聞こえん。
「ごはん」
「ああ、もうそんな時間だな。そこに座って待っててくれ。……あと、食べたら寝ててもいいからな」
「御意」
そのまま倒れている中津の白くか細い腕を引っ張って起こすと、顔は真っ青で生気を失っていた。
乱れた髪も相まって亡霊のようだ……ってか床のホコリ付いてるな、後で掃除しないと。
と、その時。
「げ」
「どうした?」
中津の見つめる先には、床で唸るスマートフォン(出来たてホヤホヤの傷付き)。
そしてその電話の相手とは……。
「なあ、中津。これって──」
「知らぬが仏」
そのままダイニングへと漂流していった。
簡単に説明すると、中津はある漫画家と共作で漫画を描いているらしい。
まあ、そういうことだ。
動画編集に漫画執筆。
このグループで一番最初に過労死するのは彼だろうな……、合掌。
レトルトを活用しつつ料理を作ること30分。
既に待機(というか電池切れ?)していた中津に加え、奥入瀬も2階から降りてきた。
あとは……。
「こりゃアレかな……」
ため息を吐いた後、リビング横の戸を開くと──。
「おいこらご飯だぞ」
「後で食べるからさ! 頼む〜プリィ〜ズ!」
テレビの画面に食いつくように前のめりになっているこの男。
俺と同じ宮城県からやってきた同学年。
元野球部の元坊主。
脳筋一筋、IQ3、巧みに人間語を操る猿だ。
そして生粋の──。
「今プリ◯ュア始まったばっかなんだって!!」
オタクである。
元は野球に打ち込んでいたのだが、なんのタカが外れたか知らないが引退したきり突然オタクに転向したらしい。
なんとも順応力の高いサr……男だ。
「こっちで見ればいいんじゃ」
「だって奥入瀬が見せてくんないじゃん!」
「女児向けアニメの対象年齢知ってんのかタコ」
「ほらぁー」
ほらぁー、って言われても。
そんな小学生低学年みたいな泣き顔で奥入瀬を指差されても。
これには犬系彼女も顔負け。
「今は録画しといて、後で見ておけ」
「リアタイに価値があるのに……」
ぐすんと鼻を啜りながら食卓へと歩む、今年で16歳の小沢。
お父さんあなたの将来が不安です。
「じゃ、食べるぞ」
「お、回鍋肉だ!」
「命の食に感謝……」
「あ、石狩、しっかり今の撮っといた」
「は!? なんで撮ってんの!?」
「明日ルーティン撮るって昨日言いましたけど〜、聞いてましたかぁ〜?」
「んだてめぇ謎肉にすんぞ!」
「……それでは」
「「「「いただきます」」」」
こうして、俺たちの新しい朝が始まる。
希望の朝かは分からない、波乱万丈の目覚めだけど。
俺たち4人らしい、素晴らしい幕開けだ。
……ところでYouTuberらしい話まともにしてなくないか?
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