ガリアⅪ ~よみがえる魂(完結編)

 1.



「どういうつもりだ、シュトライゼ!」

 首を絞めかねない勢いでマサはシュトライゼの胸倉を掴む。

 シュトライゼはそれでも涼しげな表情で工の頭を見ている。

「あなたがお困りのようでしたからお手伝いしたまでですよ」

「よ、余計なお世話だ!」

 人垣が消え、マサは工房に戻った。

 そこについてきたシュトライゼに向かってマサは掴みかかったのだ。

「ああ、そうでしたか、私が出しゃばらない方がよかったですかね。そうすればあなたは御自身でエアリィ嬢とお話しすることが出来たのでしょうから」

「は、話なんかするわけがねぇだろうが!」

「おや、そうでしたか?」

「う、うるせぇ」

 さらに締め上げようとしたところをハーナが後ろからフライパンで後頭部を殴る。

 軽やかな金属音が工房内に響く。さすがは名工の品である。その鳴らす音までも他とは違う。

「まったくだよ。この人もあと少しで頷きそうだったのに」

 うずくまりマサは頭を抱えている。

「そ、そんなわけねぇだろうが」

「まったく意地っ張りなんだから。それにしても、どういうつもりなんだい、シュトライゼさん?」

「と言いますと?」

「この馬鹿が勝負するのは構いませんが、この人の有利な条件になんかする必要なかったのに」

「お、おれだって……」

 まさか少女が本気にするとは思っていなかったマサだった。

「どうしたんです?」

「な、なんでもねぇょ!」

「それはですね、あとで言い逃れができないようにするためですよ。そうでもしないとこのお方は難癖付けてでも勝負から逃げ出そうとしますから」

「ああ、なるほどねぇ」

「だれが逃げるかよ!」

「それならば問題ありませんね」

 シュトライゼが微笑むと、マサは苦虫を噛み締めるような顔で小さく頷くしかなかった。

「だけど、いいのかい、あの子は初めてなんじゃないかい?」

「私の知る限り、エアリィ嬢はこれらの職業に就いたことはないでしょうね」

「それじゃあ勝負にならないんじゃないのかい?」

「そうですね。大きなハンディになるでしょう。そこで工の頭にお願いがあるのですよ」

「嫌だね!」

「おやおや、なにも知らない素人に勝って満足ですか?」

「完膚なきまでに叩き潰してやるよ」

「まったく大人気ないね、あんたは」

 もう一度フライパンで殴る。

「おれの頭を何だと思ってやがる!」

「もうどうしようもなく頭が悪くなっているんだから、どうってことないさ」

「それに頭を殴るために造ったんじゃねぇ!」

「人に使ってもらうためでしょう。変な意地なんか張らずに、商区にも卸せばいいのに」

「誰が大店のやつらなんか信用するか!」

「何のために作っているのかしらねぇ」

「けっ、悪かったな。で、どうしろってんだよ!」

「一日でかまいませんから、仕事を見せてあげてください」

「トレーダー風情をこの工房に入れられっかよ!」

「あら、いいじゃない。それくらいならいいわよね?」

 なにか言う前にハーナがフライパンを手にマサを睨む。

「……あっ、ああ」

「じゃあ、決まりね。明日にでもいらっしゃいって言っといてよ」

「助かります」

「どいつもこいつも、あのガキの味方ばかりしやがって。何だってんだよ!」

「あら、あんたなんかよりも素直で良い子じゃない」

「そうですね。トレーダーというのを抜きにしても、エアリィ嬢は素敵な方ですよ」

「ああ、判ったよ。明日、おれはここには来ねぇからな」

「あらそうなの、じゃあ、わたしが好きにやらせてもらうわよ。いつもわたしが工具とかに触ると文句ばかり言うくせに、いいのね?」

「くっ……」

「ちゃんと仕事も見せてやるのよ」

「ああ、おれに太刀打ちなんてできないって判らせるくらいのものを見せてやるよ!」

 工の頭は鼻を鳴らし、肩を怒らせ、工房の奥へと消えていった。

「でも、本当にいいのかい?」

「何がです?」

「あの子は初めてなんだろう? 一日、仕事を見せて教えたくらいじゃ、あの人と勝負にもならないんじゃないのかい?」

「そうですね。はっきり言って無理でしょうね」

「じゃあ、なんでこんな勝負を?」

「ハルト氏に文句を言わせないというのもありましたが、私はあの子にかけてみたいのですよ」

「あんたがそういうなんてね。そんなにすごい子なのかい?」

「商売にかけてはかなりのセンスの持ち主ですね」

「それじゃあどうしようもないでしょう」

「それにあの子は、否定していますがベラル師が弟子として選んだ子ですから、才能はありますよ」

「へぇ、あのベラル師がかい」

「ハルト氏には勝てないかもしれない。それでも何かをこの勝負で見せてくれると私は思うのですよ」

 シュトライゼは眼鏡の位置を直すと、ハーナに微笑んだ。


「まったくよぉ、無茶しやがって」

 親方は少女を背負いながらブツブツと文句を言う。

「ごめんね、親方」

 脱水症状こそ起こしていなかったが、少女の体力は限界に近かった。

 気が抜けたのか少女は立っているのもやっとという状態で歩くことは出来なかった。

「いいってことよ。大の男だってあんな炎天下に座り込んでたら参っちまうよ。先生がいながら、嬢ちゃんがこんなになるまで放っておくなんてよぉ」

「放ってはいないよ……。それにぼくもふらふらなんだけど」

 後ろからついてくるクロッセの足取りも怪しかった。

「……一週間、通いつめてたんだってな」

「どこからそれを?」

「シュトライゼの野郎がな、港にやってきて、面白いことがあるから、来ないかって誘うんだよ」

「シュトライゼさんが? ……おもしろくなんかないよ……」

「たしかに面白くはなかったな。あそこまで言われちゃあ、黙ってなんかいられなかったからよ」

「親方……ありがとう」

 まわりの視線が痛かった。

 独りぼっちだった。味方だって言ってくれたときは本当に嬉しかった。

「礼なんていらねぇよ。こちとら腹にすえかねただけのことだからよ。それにしても」

「なに?」

「いいのか? あんな勝負受けて」

「いいもなにも、あたしには選択肢なんてなかったから」

 勝負してくれるだけでも感謝しないと。

「シュトライゼもシュトライゼだぜ、もう少し嬢ちゃんのやりやすい勝負をだな」

「でも、それじゃあ、公平にならない」

「それじゃあ、この勝負が公平だっていうのかい?」

「そうは思わないけれど……」

「今からだって、勝負の方法を変えることは出来るんだぜ」

「それじゃあ、あたしが逃げたって思われるわ」

「こんな勝負だったら誰も逃げたなんて思わねぇよ」

「それでも、あたしはやってみる」

「……まあ、嬢ちゃんがそういうのなら止めはしねぇが、勝算はあるのかい?」

「ないわ」

 マサ・ハルトの作品を見る限り付け焼刃で太刀打ちできるようなものではなかった。

「おいおい、即答かよ」

「でも、やってみたい」

 工房の仕事は見たことがなかったが。

「まあ、嬢ちゃんだからなぁ」

「だってあたしは」

「そうだな、嬢ちゃんは、トレーダーで、エルラドだもんな」

「そうよ。わかっているじゃない」

「嫌というほど知っているよ」

 初めて砂上船に乗って、その航海の間にベテラン漁師と並んで砂魚漁がこなせるようになっていた。この『勝負』でも何かしらの結果を少女は見せてくれるかもしれないと期待してしまうのである。

「とはいえ、誰か教えてくれる人がいねぇとな」

「シュトライゼさんにあとで相談してみるわ」

「まあ、あの野郎が言い出しっぺだからな、少しはこっちに配慮してくれねぇとな」

「なんか、あたし、あの人にのせられているような気がするな」

「のせられてるって、あいつは何をしようってんだよ?」

「わからない。でも、ただ単純にハルトさんとの勝負事にはならないような気がしてきた」

「それにしちゃあ、悲壮感はねぇな」

 少女の口調や様子を見て安心したように親方は言った。

「そうかな。不安だらけだよ」

「そのわりには楽しそうだだぜ」

「そ、そうかな」

 親方の背にゆられ、安心していられるのだろうか、少女は小さく笑った。


「お久しぶりです、ベラル師」

 ドロテアに招かれ書斎へと現れたシュトライゼはベラル・レイブラリーに挨拶をする。

「本当に久しぶりだ。シュトライゼ君が自らここにやってくるなんて、珍しいこともあるものだね」

 ハルトの工房からその足でシュトライゼはレイブラリーの屋敷へと赴いた。

「今日はお願いがあってまいりました」

「商工会の顔役自らとは、重大なことらしいね」

「ええ、エアリィ嬢のことで」

「ほお、それは重要だな。もちろんハルトのこともだろうね」

 顔を突き合わす二人の表情はとても楽しげに見えたドロテアだった。

「ええ、よくご存じですね。もしかしてハーナさんの件はベラル師が?」

「それは私です」

 ドロテアが手を上げる。

「なるほど、なるほど、うまいやり方ですな」

「それで、君は何をしたのかね?」

「私はドルデン氏を誘ってみました」

「シルバーウィスパーの親方をか! それは面白いねぇ」

「ハーナさんと親方、お二方のおかげで期待以上の展開です」

「君の想像の上をいくとはね。エアリィはマサ・ハルトとトレーダーとの関係を聞いていったから、何かが起きるだろうとは思っていたよ。そして今度は君が仕掛け人か」

「はい。最初に話を持ちかけられた時から期待に胸をふくらませておりました。私もあの子のファンですから」

「それで、今度は何かね?」

「ハルト氏とエアリィ嬢が勝負いたします。その立会人として私が名乗り出ました」

「勝負とな? してどのような?」

「金属工芸で競うことになりました」

「ほお、エアリィは承諾したのかね?」

「はい」

「まったく、なんと無謀な」

 師の表情は呆れるというよりは嬉しそうだった。

「その通りですね。つきましてはその審査役として五家の方々にもご足労願いたいと思いまして、お願いに上がりました」

「それに我ら五家の長老達が顔をそろえるのか! それは面白い」

 下町にその歴史とともに代々続く五家と呼ばれる系譜がある。

 数年ごとに各地区から選ばれる長老とは違い彼らはその名とともに長老の職務を受け継いできた者達であり、下町を統べるまとめ役達だ。

 五家の長老が顔を合わせるのは、年四回の総会以外では稀であり、全てがそろうイベントは重要な意味を持つ。

「よい機会だと思うのですよ。くすぶり続ける廃棄地区のことも含めましてね」

「それにあの子とハルトを使うか」

 ベラルは声をあげて笑った。

「勝負にはならないかもしれない。しかし、あなたが選び見込んだエアリィ嬢であれば、その無茶も変えてくれると思ったのですよ」

「確かに、ハルトとでは勝負にはならんだろうな。しかし、あれは頑固で負けず嫌いで、それでいて努力家と来ている。いくら頑固なハルトでも、それが判らぬ馬鹿ではない。あの子から何かを見つけてくれるだろうて」

「あなたにそう言っていただけると、わたしも仕掛けた甲斐がありました」

「それ以外にもあるのだろう?」

「やれやれ、あなたはすべてお見通しか」

「なんとなくそう思っただけだよ」

「そうですね。商区は少し活気がありません。そのためのテコ入れもしたかった。それで如何でしょう?」

「あの子がやるというのであれば、私が見届けぬわけにはいくまい?」

「ありがとうございます」

「ドロテア、他の四家への伝言を」

 控えていたドロテアに指示すると、呆れる彼女をよそに再び二人は詳細を話し合い始めるのだった。



 2.



 工の地区に入ると気にしないようにはしていたが、嫌でも視線を感じてしまう。

 立会人となったシュトライゼからは勝負の日時も場所もまだ聞かされてはいない。ただ、金属工芸を造るということだけだった。

 それでもすでに少女と工の頭の噂は徐々にロンダサーク中に広まりつつある。

 少女を見ようとわざわざ店にやってきた者もいたくらいである。

「よく来てくれたわね」

 工房の前ではハーナが待っていてくれた。

 その後ろに隠れるようにテオがいる。

 はずかしそうに小さく手を振っていた。

「昨日は、ありがとうございました」

「ああ、いいのよ。テオがね、うちの孫なんだけど、ケガしているおねぇちゃんをうちの旦那、この子からすればお爺ちゃんにいじめられてるってわたしに泣きついてきたんだよ。何事かと思ってきてみれば、あんな感じだったからね」

 ハーナの後ろにいたテオが少女に抱きついてくる。

「テオもありがとうね」

「いたいのだじょうぶ?」

「だいぶいいよ。テオのおかげだよ」

 少女はテオの頭をなでる。

「孫がね、いっぱい友達が出来たって嬉しそうに話すんだけど、あんたのおかげだったんだね」

「あたしは実験の合間にこの子たちと遊んでいただけですから」

「その子が、油売りの女の子だとは思わなかったよ。一人で来たのかい?」

「はい。商いが終わって直接来ましたので」

「えらいねぇ。ちゃんと自分の仕事をやってからくるなんてね」

 ハーナは少女を抱きしめ、工房の中に引っ張っていく。

 挨拶のあと少女はハーナにマサの四人の弟子を紹介される。

 その後ろで悶々としている師匠に気兼ねしながらではあったが、彼らは挨拶を交わす。

「今日はお招きありがとうございます」

「何をかしこまってんだい。こちらこそ来てくれてうれしいよ」

「あたしも楽しみでした」

 そう言いながら少女はショルダーバックから包みを取り出す。

「うちの商品ですが」

「おやおや、いいのかい」

 油の入ったビンを嬉しそうにハーナは受け取る。

「あんたの油はうちの人も気にいってんだよ」

「トレーダーの油だって知ってたら、誰が食うか!」

「あら、いたのあんた」

「おれの工房だ! いて悪いか!」

「あと、これ試作で作った油なのですけど、使ってみてください」

「ふたつあるのね」

「ひとつはハーナさんに。整髪油です」

「そんなのまで作っているの? あら、柑橘系のにおいがするのね」

 瓶を開けて匂いを嗅いでみながらハーナは言った。

「いろいろとリサーチしているんです。あとで感想を聞かせてくれるとうれしいです」

「大事に使わせてもらうよ。こっちは」

「クロッセが考えた機械油です」

「どうだいって、あんたじゃ無理か」

 覗き込んでいたマサをスルーして弟子の一人に渡す。

「これ、特上の機械油に匹敵しますよ!」

「本当だ。君のところで作ったのかい?」

 指ですくい油の感触を確かめながら弟子達が訊ねる。

「はい。これも試作ですけれど、よかったら使ってやってください」

 面白くなさそうに顔をしかめながらマサはそれを見ていた。

「うんうん。お前たち頼んだよ」

 ハーナだけが楽しそうだった。

「まあ、こんなぼんくらだけど、しっかり見てってね」

「ありがとうございます」

「あんだとぉ! ぼんくらとはなんだ、ぼんくらとは!」

「だったら、背を向けてないでこっちにきなさいよ」

「ふん。一回だけだからな」

 明後日のほうを向きながらぶっきらぼうに言う工の頭だった。

 ハーナが手招きし工の頭の前に少女を座らせる。

 頭を真正面にして実演を見ることになる。マサは少女と目を合わせようとはしなかったが、その表情は真剣だった。

 工具の入った箱からハンマーをひとつ取ると、横にあった金属板を手にし、叩き始める。

 最初の音が耳にこだましたかと思うと、太鼓を連打するように立て続けに甲高い音が響く。目を閉じれば金管楽器の旋律を聴いているようなリズミカルなハンマーの音階だった。

 とはいえ、目を閉じていることはできない。

 ハンマーの力加減と、もう一方の手の金属板を動かすときの動作、足での金属板の支え方。

 どんな些細な動作も見逃さないよう少女は目を凝らそうとする。

 平らだった金属板は叩かれていくうちに曲線を描き大きな鍋へと形を変えていく。

 その様子に目を奪われ、工の頭の動作に集中できない。

 そして、最後のひと叩きが終わると、初めは荒かった表面も滑らかなものになっており、目の前で見ていなければ、ハンマーひとつで造られたとはとも思えない出来だった。

「……すごい……」

 ため息とともに感想が漏れる。

 工の頭は鼻を鳴らすと、出来あがったものを少女に差し出し、立ち上がる。

「あ、あの……」

 少女は声をかけようとしたが、工の頭はそれを無視し、弟子のひとりに声をかける。

 二言三言、指示を出すと、弟子は慌てて奥へかけていく。

「もう少しなんか言ってやればいいのにね。ごめんね、エアリィちゃん」

「あっ、いえ、あたし、圧倒されてしまって気の利いたことすらえませんでした」

「ああ、あの人も怒っているわけじゃないからね、気にしなくていいからね」

「それならいいのですが」

「それにしても、微動だにせず見ていたね、息を止めているんじゃないかと思ったわよ」

 ハーナに頭をなでられ、くすぐったそうに少女は笑う。

「お待たせしました」

 奥から道具箱を持った弟子が戻ってくる。

「どうしたんだい?」

「頭がやらせてみせろって」

「あらあら、いいところあるじゃない。お願いね」

「はい。アベルといいます、よろしく」

 手を差し出した彼は、最初に店に来た時に相手をしてくれた弟子だった。

 ハルとの工房の一番弟子だという。

 道具箱を開くと、一つ一つ丁寧にアベルは少女に説明する。

 少女は手渡される道具を手にしながら頷き、判らないことは理解出来るまで何度も訊ねる。

 それが終わるとアベルと差向いになり、指導を受けながら少女は金属板を手に叩き始める。

 ハーナはしばらくその様子を眺めていると、テオを連れ工房の奥にある台所に向かうと食事の準備を始めるのだった。


「すいません。送ってもらって、荷物まで持っていただいて」

 工房での見学が終わって、エアリィは道具を貸してもらい、試し打ちの金属板をもらう。

 ハーナが声をかけてくれたおかげで、アベルが館まで送ってくれることになった。

「ああ、気にしないで、それよりも体の方は大丈夫? ケガしているんだって?」

「ちょっときつかったです」少女は苦笑する。「まだ本調子じゃないですから」

 まだ首を動かしたりすると時折、痛みが走る。

 これでもだいぶよくなっているのだが。

「それなのに、あんなにハンマーを振るって」

「叩いている最中は気にならなかったのですが……」

「まあ、慣れないと筋肉痛になるから、気をつけてね」

「はい。もう右手に力が入らないです」

 慣れないハンマーを使って、右手の握力がなくなっていた。

「ハーナさんに言われてだけれど、やっぱりついてきてよかったよ」

 アベルは重い荷物を抱え直すと少女に笑いかける。

「あの……トレーダーは怖くないですか?」

「そうだねぇ。確かに怖いね」

「……やっぱり……」

「まあ、ぼくも工の地区の生まれだし、昔から話に聞かされ続けたことだからね。ただ、ぼく自身トレーダーに会うのは君が初めてだし。やっぱり、二百年以上前の話だと実感がわかないというか、よく判らないというのが本音かな」

「……」

「でもハーナさんがいて、テオ君が君に懐いているからね」

 特にテオは人見知りする子で、工房の者にはなかなか懐かなかったという。

「最初はトレーダーっていうだけで、腰が引けたというか、怖いと感じたよ。体に染みついているんだろうね」

「そうかもしれませんね」

 少女もオアシスの人だというだけで見下していた。

「実際に話してみると、想像や話とは違っている。噂なんて当てにならないもんだね」

「あたしもそう思います。ハーナさんにも感謝しないと」

「うん。おかみさんを味方につけたのは大きいよ。へそを曲げた頭をうまくあしらえるはあの人だけだからね」

「そうなんだ」

「おかみさんとはどこで?」

「店に油を買いに来てくれたの」

「君の店? へぇ、すごいなその年で自分の店を持っているのか」

「小さいし、商工会から借りているだけです」

「それでシュトライゼさんと? 商工会議所の顔役だけじゃなくてシルバーウィスパーの親方とまで知り合いなんだろう?」

「よくよく考えてみるとすごい人たちなのですよね」

 何気に話をしているが、ロンダサークでは有名人だったりするのだ。

「ぼくらにとっては雲の上のような人たちだよ」

「ハルトさんは?」

「あの人もすごいよ。ぼくらにとってはまさに神様さ、君も見ただろう?」

「はい。圧倒されました」

「それを見て、なお頭と勝負しようというのかい?」

「はい。ここまできたら、やります」

「君はすごいよ」

「そ、そうですか?」

 少女は乾いた笑い声を上げる。

「でも、あれを見せてもらえただけでも今日は来たかいがありました」

「君もなかなか筋がいいよ」

「そうなのですか?」

「初めてであそこまで叩けるものはなかなかいない。ぼくなんか何度、頭に拳で思いっきり殴られたことか」

 彼は十五年近くハルトの工房にいるという。

「それに頭も君に興味を持っているみたいだ」

「ほ、本当ですか?」

 少女は顔を輝かせる。

「そうでなければ、ぼくにあんなこと言うわけないからね」

「そ、そうなんですか?」

「頭は君がどんなふうに見ていたのか観察していたようだからね」

「ええっ! だ、だって、あたし見とれてしまってハルトさんのハンマーさばきや金属板の動かし方とか詳しく見れなかった。それに視線なんか感じなかったのに」

「頭は目をつぶっていてもあれくらいのことやってのけてしまうからね。叩きながら君のことを見ていたはずだよ」

「やっぱり、すごい方ですね」

「伊達に名工とはいわれてないからね。君がうらやましいよ」

「どうしてです?」

「いろいろとね」

 アベルはそれ以上話してはくれず、ただ微笑むだけだった。

 二人は工の頭の話をしながら館へと歩いて行く。


「シェラ・バナザードさんが参りましたよ」

 ドロテアがシェラと一緒にベラルの書斎に入ってくる。

「おお、待っていたよ。久しぶりだね、シェラ」

「ご無沙汰しています」

「ヴェスターの館以来か」

「はい。お元気そうでなによりです」

「ああ、楽しみがあるからね」

「エアリィですか?」

「そういうことだね」彼女には元気をもらっている。

「彼女がシェラ・バナザードさんですか?」

「ああ、シュトライゼ君は初めてだったね」

 ベラルはシェラとシュトライゼを引きあわせる。

「初めまして、シュトライゼ・グリエと申します。お噂はかねがね。あなたとはお会いしたいと思っていました」

「噂ですか?」

「ええ、主にエアリィさんから」

「弟も才能のある子だったが、彼女もな。その才能を見抜けなかったのは私の一生の不覚だよ」

「ほお、ベラル師にそこまで言わせるとは、凄いですね」

「ベラル先生……」

 シェラは困り顔だった。

「さて、シェラも来たことだし、続きを始めようか」

「私はなぜここに呼ばれたのでしょう?」

「エアリィとハルトの勝負のことは聞いているよね」

「はい……心配しています」

「日程を組むにあたって、エアリィの体調に気を配っている君の意見を聞きたいと思ってね」

「率直に訊きます。できればエアリィ嬢には万全の状態で勝負に臨んでもらいたいのですが、彼女の状態はいかがなものでしょう?」

「普通の生活には支障はなくなってきていますが、完治にはもう少し時間がかかります。本当は激しい運動とかはまだ控えてほしいと思っているのですけれど……」

 工房から戻って以来、少女は時間さえあればハンマーを振るっている。

「具体的な時間を私は知りたいのですよ」

「私に、それを答えろというのですか?」

「あの子やハルトに訊けばすぐにでも始めそうだからな」

「そ、そうですね……」シェラは納得するしかなかった。「治療には最善を尽くしていますが……、完治したと判るのは本人次第だと思います。私見を言わせてもらえれば、すでにエアリィの体は元の状態にほぼ戻っていると言えるでしょう」

「では、すぐに勝負の日程を組んでも大丈夫ですかね」

「できれば、まだ……」

「少し間を開けた方がいいと。どれくらい?」

 シュトライゼはシェラの意図をくみつつ訊ねた。

「十日程、あの子に時間を上げてください」

「では、十日後で日程を組むか、まあ、カリブスもネクテリアもバガラも問題ないだろう、その頃なら」

「五家の! あのぉ……あなた方は何をやろうとしているのです?」

 普通、勝負事は立会人と対戦する者達の間で競いあわれるだけで、いくら商工会議所の顔役が立ち会うとはいえ、五家の長老が全て集まるなどということはあり得ない。

「これだけ話題性のある勝負事は私の知る限りなかったものですからね」

 シュトライゼは眼鏡の位置を直しながら微笑む。

「あの子を見世物にするつもりですか?」

「そういう見方もありますか。でもね、シェラさん。私としてはロンダサークの全ての人に見てもらいたいのですよ、彼らの姿をね。そのために長老会の力も借りました」

「どうしてですか?」

「工の地区のことも、トレーダーのこともほとんどの人は噂でしか知りませんよね?」

「どちらも、あまりいい話はききませんね」

「本当はそうじゃありませんよね」

「工の地区の人のことはあまり存じ上げませんが……そうですね……」

「工の地区やトレーダーだけじゃない。他の地区も交流が必要なのですよ」

「交流ですか」

「そう思いませんか?」

「……思います。思うのですが……」

「だしにされたエアリィ嬢にはすまないと思いますが、この機会を我々は活用したいのです」

「ですが、こんな無謀な勝負をやることはないと思います! もっと公平な方法があるんじゃないですか?」

「あるかもしれない」

「それなら今からでも遅くはないはずです!」

「しかし」シュトライゼは続けた。「考える限り二人の間に共通のものはなく、年齢や体格、体力の面から見ても何を選んだとしても公平にはならないのですよ。それにエアリィ嬢のためを思うなら、この方法が一番だと私は思うのです」

「どうしてです」

「ハルト氏に認めさせるためですよ」

「無茶です」

「シェラ、エアリィに悲壮感はあるかね?」

「あ、ありません。むしろ一生懸命だし、楽しんでいるように見えます」

「そういう子なのだよ」

「信頼しているのですね」

「頑固で、一所懸命で、意地っ張りで努力家なあの子だからね」

 ベラルは我が子を慈しむように誇らしげに少女のことを語るのだった。

「では、場所は商区中央広場で、お昼の刻に、ということでよろしいでしょうかね?」

「うむ、問題ない」

「長老会はお任せしました」

「催し物に関しては君に一任するよ」

「ええ、良いイベントにしましょう」

 シュトライゼとベラルは目を輝かせ握手しあうのだった。

 その様子を茫然とシェラはドロテアとともに見つめる。

 翌日には商工会議所と長老会から告知がなされる。

 迅速な対応に誰も口をはさめなかった。

 それでもマサは会議所の執務室に怒鳴りこんできたのだった。



 3.



「お嬢様、マーサは悔しゅうございます」

「ど、どうしたの、マーサさん?」

 館に戻るといきなり泣き付かれ、少女は困惑する。

「どうして、このような大事なことを黙っていらしたのですか?」

「ああ、いや、その……なんのことかな?」

「もう告知はロンダサーク中に知れわたっていますよ。お嬢様」

 マーサの後ろにいたフィリアがそのチラシを見せてくれる。

 勝負の日時や場所、競技方法が記載されていた。

「そのね、あたしが勝手にやったことだから……」

「まだ本調子ではないお体で無理なされて」

「だって、そうしないとマーサさんがついて来るって言うだろうし……」

「当然です! 誰が何と言おうと、わたくしがお嬢様のために工の頭をぶちのめしてでもやってのけます」

「あのぉ……いっていることが無茶苦茶ですよ、マーサさん?」

「お嬢様、どうしてこんな勝負をお受けになったんですか?」

「そんなに?」

「無茶もいいところです! 金属工芸品造りでマサ・ハルト氏に挑もうなんて、知らなかったのですか?」

「知っているよ。ただ叩いてつくるだけじゃない」

 少女は努めて明るく答えた。

「そんな簡単なものですか?」

「あたしは負ける気はないわよ」

「お嬢様……判りました。このマーサ、全面的にお嬢様をサポートいたしますからね」

「わ、わたしも応援します」

 この瞬間から館の使用人全員が少女のサポートに回ったのだった。

「ほどほどにね……」


 少女はハンマーを振り上げ、黙々と金属板を叩き続ける。

 噴き出してくる汗をぬぐいながら、形を確かめる。

 何度やってもうまく出来ない。

 工の頭もその弟子たちもあんなに簡単に滑らかな湾曲を造っているのに。

 それに、うまく音が響かない。

 思うように行かず力任せに叩いてみるが、その衝撃に手からハンマーがすっぽ抜ける。

 倉庫に転がっていくハンマーの音がする。

「あなたは本当に諦めないのね」

 シェラは足元に転がってきた金槌を拾い上げ少女に聞こえないように呟いた。

「シェラ?」

「……手の握力がなくなるくらい無茶するなんて……」

「シェラいつから?」

「少し前からいたんだけれど、熱心にやっているから、声をかけられなかったわ」

「何度やってもうまくいかなくて……」

 店から戻ると少女は日が暮れるまで倉庫にこもって金属板を叩き続けていた。

「無茶しても、うまくならないわよ」

 ハンマーを渡す前に少女の手をとる。

 手にはまめができていた。それも何度も破れたのだろう、手のひらや指先が硬くなっている。

 自分で巻いたのだろう包帯もボロボロだった。

 小さな手が小刻みに震えている。指先の感覚もなくなっているのか、シェラが触れても反応がない。

「でも、何度もこなさないとうまくなれないって」

「そうだけど……ただ闇雲にやってもダメよ」

 シェラは硬くなった少女の手を優しく揉み解しながら諭す。

「どうしたらいいのかよくわからないし、あたしにできることはこれくらいしかないし、頑張るしかないの」

「あなたって人は……」

「それに負けたくないし!」

「勝つつもりなのね?」

「当然よ」

「こんなにボロボロになっても、誰も助けてくれなくても」

「そうでもないよ。ハーナさん、マサさんの奥さんなんだけど、その人のおかげで工房を見せてもらえたし、頭の打ち方も見せてもらえたのよ」

 足元の道具も指さし、貸してくれたのだとシェラに話す。

「それだけで、ここまでやっているの?」

 少女の周りには失敗し歪んだりボコボコになった金属板がたくさん転がっている。

「だって、あたしはあたしだもの。人にできてあたしにできないことはないわ」

「才能の差って考えない?」

「あたしだよ?」

「本当に負けず嫌いなのね。でも、こんな手になって月琴が弾けなくなるわよ」

「それは困るけど……でも、工房の人たちのような手にならないとうまくならないわ」

「一週間やそこらで、何年も何十年もやっている人たちに追い付こうって言うのかしら」

「そのつもりだけど?」

「そうね……あなただったらそうするわよね」

 左の手を握りしめ笑っている少女を見て、そのたくましさにシェラは呆れるとともに嬉しくなってくるのだった。

 大人達にどんな思惑があろうとも、少女はただひたすらまっすぐに前を見つめ頑張っている。

「エアリィは太鼓を叩いたことあるわよね」

「ベラル師に教えてもらったことがあるわ」

「見ていて強く叩き過ぎだと思ったわ」

「でも工の頭やアベルは強く甲高い音を響かせていたわ」

「あの人達はそれだけの力があるからね。でも、彼らはそんなに力いっぱい叩いていた?」

「う~ん、そうじゃなかった」

 ときには強弱をつけ金属板を叩いていた。

「太鼓の音は力強く叩けばいいものではなかったでしょう?」

「叩き方があったし、力がなくてもちゃんと叩けばいい音がした」

「前にエアリィはハルトさんの音は旋律に似ているって言ったわよね?」

「うん。聴いていて気持ちがいいの」

「そういう感じじゃないかな。あなたはあの人達と同じようにするには無理があるわ。体格も力も違いすぎるのだから。あなたにはあなたにしかできないやり方があると思うの」

「あたし流にか」

「そういうこと。工の頭は何十年とかけてあそこまでたどり着いたわ。その何十年の重みが音になっている」

「そっか、楽器じゃないけれど、あたしは工の頭と連奏できるのね」

 少女の心は躍る。

「わたしはもっと力を抜いて叩いた方がいいよって言いたかったんだけれど……」

「あたしのリズムかぁ」

 少女は楽しげに体でリズムをとる。

「さあ、手を握ってみて」

「握力が戻っている」

「今日はこれくらいにしないさいね。そうでないと明日ハンマーを握れなくなるわよ」

「……わかった……」

 不承不承うなずく。

「その代り、ハルトさんの叩き方を思い出しながらイメージトレーニングしてみるといいわ。力加減とかあなたのやり方を考えてみるの」

「うん。やってみる」

 シェラは腰を下ろすと金属板を手に取る。

「こんな感じだったかな?」

「シェラもやったことあるの?」

「昔ね、少しだけ工房を手伝ったことがあって、その時、金属板の打ちだしを見たことがあったわ」

 金属板を手にシェラは軽く叩いてみる。

 何回か叩いているうちにお椀のようなくぼみか出来始める。

「全然打ち方が違うのに、同じ音がする。不思議」

「わたしはここまで、あなたはやっぱり凄いわ」

「シェラにはかなわないな……ねぇどんな感じて打ったの? 教えて、教えて」

「わたしなんかでは参考にならないわよ」

「そんなことないわ。ハルトさんとは全然違うけれど、同じような音がしたわ」

「そうなの?」

 少女は頷くとシェラに抱きついた。

 シェラは微笑むと少女の手をとり、腕の振り方や力の入れ具合を教え始めるのだった。


「君がここに来てくれるとは思わなかったよ、マサ」

 ベラルは笑顔でハルトを迎え入れる。

 彼の言葉通り、工の頭がレイブラリー邸を訪れるはここ十数年なかったことだった。

「お前さんを呼びつけるわけにはいかないからな」

「そんなことはない。招かれればいつでも赴いたものを」

「冗談はよせ。おれが気に病む」

「工区に引きこもっていた君が出てきてくれたのは嬉しいよ」

 ドロテアが嫁いできた時も祝いに訪れたのは彼の妻のハーナだけだった。

 ベラルは料理と酒を運んできたドロテアを彼に紹介する。

 料理を前に軽く酒を酌み交わす。しばらく二人の間には沈黙が続いた。

「あいつは、お前さんの弟子だそうだな」

「当人には否定されるが、私はそう思っているよ」

「長らく弟子不在だったじゃないか、あれが後継者なのか?」

「反対かね?」

「ふん。お前さんが決めることだ」

「ありがとう。嬉しいよ。君にそう言ってもらえると。君の方はどうなんだい?」

「どうだろうな。工房はおれの代で終わりにしてもいいと思っている」

「君の技が途絶えるのは後世にとっては不幸としか言いようがない」

「それでおれん所に弟子を紹介したりしてきたのかい?」

「君が引きこもって表舞台に出て来ようとはしなくなったからね」

「余計なお世話だ。お前さんだって似たようなもんだっただろう」

 天才と称された二人はお互いに認め合いながら生きてきた。

「活かしようのない世の中だからね。それでも私は出会えたよ」

「そいつはよかったな。こちとら、いくら教えようが、うまくできねぇ弟子ばかりだ」

「君の領域に達するのは難しいだろうね」

「おれはそんなんじゃねぇよ」

「もったいない。もっと色々と造ってみればいいのに。君なら素晴らしい物ができるだろう」

「おれはバカだしな。考えても答えなんて出なかった。それにそんな気力はとうに失せたよ」

 マサ・ハルトは物を造ることが好きな男だった。

 使ってくれる者が喜んでくれるのを見るのが楽しくて仕方がなかった。そんな頃のマサをベラルは知っていた。

 若かりし頃、ヴィレッジやあくどい商人にもてはやされたあげく騙され、マサはさらに人間不信に陥ってしまう。それ以来彼は自分の工房に引きこもり自らの作品を表に出すことはほとんどなくなってしまった。

「それにだこんなことして何の意味があるんだ。お前さんも同意したそうじゃねぇか」

「なんだい、つまらなそうだね」

「最初から勝負はついているようなもんだ」

「勝負の内容が不満かね。あの子に配慮した結果だから仕方がないが」

「そういうレベルじゃねぇよ。何でおれとやらなけりゃいけないんだよ」

「そういうルールだからね。それにこれで勝負すると言ったのは君なのだろう?」

「そ、それはシュトライゼの野郎が、おれの冗談を真に受けてだな」

「ふ~ん、君にとってはどうでもいいことだったんだ?」

「何でもやるっていわれりゃ、こっちも無茶な振りでもしたくなるだろうが」

「それであの子が逃げるとでも思ったのかい? そうなったときにあの子を責めようと君はしたんだろう? あの子をいじめて何が楽しいかね」

「ああ、そうだよ。おれはトレーダーが嫌いなだけだ」

「君は直接、トレーダーに何かをされたわけではあるまい? あの子の何かを知ってトレーダーやあの子自身を嫌うわけではあるまい?」

「だが、おれたちの祖先はあいつらのせいで土地を追われたんだ。そのために祖先が守り続けてきた高炉を手放さなければならなくなったんだ」

「君らの祖先は、その道を選んでしまった。それで不満を漏らす者達もたくさんいたと聞く」

「それを聞かされておれらは育ってきたんだ」

「それはあの子の責任だろうか? 君は祖先が捨て去ったものを取り戻そうと何らかの行動をとっただろうか?」

「おれに何かできたっていうのかよ」

「出来たかもしれないし、出来ないかもしれない」

「おれは鍛冶工だぞ。何ができるんだっていうんだ」

「君だけでは不可能かもしれない」

「あいつがいればできるのかっていうんだ。あんなガキに!」

「あの子は一人では出来なかったことを、人と交わることで、成し遂げてきたよ。何かを期待してじゃない。打算とか計算があったわけではない。それでも出会うことで形になってきた」

 油のことは、クロッセが少女のアイディアを形にすることで精製のための機械を組み立てた。必要だったイクークは誰も見向きもしなかったものを港湾から手に入れた。それは親方や港湾の者達がいたから出来たことだろう。

 そして、今組み立てているウォーカーキャリアも。

「君もあれを見たんだろう? そして何かを感じたのだろう?」

「……何でおれのところに来たか判らねぇがな」

「君の力を必要としたんだろう。君のことを知ってなお自分でやると言ってあの子は聞かなかった」

「何でなんだよ」

「君の作品から何かを感じ取ったのだろうね」

「はた迷惑な話だ」

「私が知っていれば、私が君に頼みに行っていただろうね。シュトライゼ君もそうしたと言っていたよ」

「なぜそうしなかった」

「そうすれば君も首を縦に振らざろうえなかっただろうからね」

「そ、そんなわけねぇだろう」

「まあ、そういうことにしておこう。あの子は自分の言葉でお願いしたいと言っていた。トレーダーとしてではなく、ただのエアリィとして君と話がしたかったという。私らが行っては不承不承になってしまうだろうから、君が納得したうえで気持ちよく仕事をしてほしかったと言っていたよ」

「ここまで変な状況になってどうして、そんな気持ちになれるっていうんだよ」

「気になっていたのなら素直に、受ければよかっただろうに、その気がなかったわけではあるまい」

「あるわけはねぇだろう!」

「君が名工だと讃えられたのは、ずいぶん前のことだ。以来二十年以上工房にこもり表舞台には出ようとしなかった」

「なにをやっても貴様らの言うことは同じだったからな」

「ライバルもなく、なにをしても過去の名工たちの作品と比べられるだけではつまらないか。君の才能を活かせるものもなかったしな」

「そういうてめぇはどうなんだよ」

「私は、そうだな。今は楽しいよ。あの子がいるからな。教える喜び、伝えられる喜び、競うこととは違っているかもしれないが、もっと早く出会えればよかったと思うよ」

「そんなこと言うな!」

「君が振ってきたのだろう? だからこそ、君にも挑んでほしい。あの子のやっていることが可能なのか不可能なのか、君が手を貸すことで判るだろうからな」

「勝負はすでに付いている。おれが手伝うことはねぇよ。それとも長老会や五家の連中といかさまを仕掛ける気か」

「そんな心配をしているのかね? シュトライゼ君も我々も常に公平であるよ。それは保証しよう。なんなら形に残そうか?」

「そんな必要はねぇよ」

 ベラルがそういうのなら間違いはないだろう。

「そして、君も自分の気持ちに素直になってほしいものだ。そうでないと君自身が後悔するぞ。長い付き合いの私からの願いだ」

「ふん。そういうことにしておこうか」


「エアリィちゃん、その手どうしたの?」

 絆創膏だらけの両手を見て油を買いに来た客は誰もが驚き目を見張る。

「ああ、ちょっと……」

 少女ははずかしげに笑った。

「だから、お嬢様、わたしがやりますって」

「だって、うしろにいるだけじゃ、暇なのよぉ」

「それでなくても、無茶のしすぎで、お疲れなんですからね」

「これくらいなんともないわよ」

「ダメです!」

「あっ、あのぉ……」

 フィリアと少女のやり取りに、客の方が茫然としてしまう。

「あっ、す、すいません」

 慌ててフィリアはお金を受け取ると油を渡すのだった。

「ありがとう。頑張ってね。応援しているから」

「ありがとうございます」

 絆創膏や包帯だらけの手を握りしめていく常連の客も何人かいた。

「お嬢様は後ろで油を量っていてくださいって、言っているじゃありませんか」

「だって、フィリアじゃ計算、遅いし」

「頑張って計算しています! お嬢様は意地悪なんだから」

「見ているだけじゃつまらないもの。いいでしょう?」

「わ、わたしがマーサ様に怒られます」

「あのぉ、いいかしら?」

「いらっしゃいませ!」

 少女は隙をついてフィリアを押しのけ客を相手する。

 店を訪れる客は確実に前より増えていた。

 口コミだけではなく、今回はハルトとの勝負の告知が知れわたったということもあるのだろう。

 物珍しく覗き込んでいくものも多かった。

 冷やかしであったり、嫌味を言っていく者もいたが、少女はそれらも含めていつも通り商いをしていく。

 それは、勝負当日まで変わることがなかった。



 4.



「こんな勝負何か意味があるのかねぇ」

 カリブスは扇で自分を扇ぎながら、つまらなそうに呟く。

 昼下がり太陽は頂点まで昇り、日射しは突き刺さるように地上に降りそそぎ、石畳からは陽炎が揺らめく。

 炎天下、商区の中央広場には昼時だというのに多くの人々がつめかけている。

 五日ほど前から設営されていたスタンドには思い思いに人が座り、飲み物や屋台料理を売るもの達の声が響き渡る。

 広場の一角には天幕が設けられ、中には審査員として招かれた五家の長老達がそろう。

「意味はありますよ。カリブス」

「あのハルトとであろう、勝敗は日の目を見るより明らかではないか」

「それは見てのお楽しみですよ」

「楽しみねぇ」

「聞けば、トレーダーの少女はベラル師の弟子とか」

 バラガはベラルに訊ねる。

「本人は、それを聞くと絶対に違うと強く否定しますがね」

「それならば良いが、トレーダーが弟子などという話は聞いたことがないぞ」

「当人が否定しようとも私はあの子を弟子だと思っていますよ」

「正気かベラル? 我らとトレーダーとの間に起きたことを忘れたわけではあるまい」

「三百年も前の話ですか? もちろん存じていますよ。しかしそれはあの子とは関係ないこと。私は一人の人間としてあの子の才能にほれ込んだのですよ。あなた達だってそうでしょう。目の前に才能あふれる原石があれば放っておきますか?」

「そ、それは時と場合による」

「それに常々我々はロンダサークのもの達すべてが平等であれと言っているではありませんか」

「そ、それはロンダサークに住む者であってだな」

「あの子は、トレーダーだといっていますが、ヴェスターの館に住んでいるのだし、今はロンダサークの住人ですよ」

「お主は、そう言って屁理屈ばかりを!」

「良いじゃありませんか、私は弟子とかそういう前に、一人の人間としてあの子と付き合っているのですよ」

「その通りです」天幕に顔を出したシュトライゼも頷く。「忙しいなかお集まりいただきありがとうございます。因みにわたくしもエアリィ嬢のファンなのですよ」

「シュトライゼにまでそう言わせるとは、会ってみたいものですね」

「おいおい。ネクテリア、お前まで」

「興味があるではないですか、ベラルやシュトライゼにそこまで言わせる子なんて、みなさんもそう思いませんか?」

「そ、そりゃまあなぁ」

「会えますよ。この勝負が終わったらいつでもね」

 ベラルとシュトライゼは微笑み頷き合う。


「どう、調子は?」

 シェラは少女の肩や腕、手をマッサージしながら訊ねる。

「うん。シェラのおかげかな。体のほうは大丈夫、ちゃんとハンマーも振れるよ。ありがとう」

「私は何もしていないわ。すべてあなたが頑張ったこと」

 最初は歪んだ曲面にしかならなかったものも、しっかりとした形になるようになっていた。

 少女は水を吸収してしまう砂のように、工の技を自分のものにしていく。

「そうですよ。あれだけ毎日頑張ったのですから」

 フィリアも頷く。

 商いも練習も手を抜かず毎日頑張っていた。

「それでも……まだまだかな……」

「どれだけ時間があったら、ハルトさんに追い付けるというのかしら?」

「一生かかっても無理かも。ベラル師もだけれど、やっぱりハルトさんもすごいわ。あたしなんか及びもつかないくらい」

「じゃあ、あきらめる?」

「十日やそこらじゃ無理だけれど、あたしはこれだけやれるよ。トレーダーだってここまでできるよっていうことをハルトさんに見せてあげるの」

 少女に悲壮感はなかった。

「それに、ハルトさんと一緒に叩けるなんて、最初で最後かもしれないもの。絶対に楽しみたいわ」

「勝敗なんてそっちのけね」

「そんなことない! 勝って、絶対にハルトさんに手伝ってもらいたいもの」

「その意気だぜ、嬢ちゃん」

「親方来てくれたの?」

「あたぼうよ。あの石頭野郎の頭をかち割って、嬢ちゃんをバカにしたことを後悔させてやれ!」

 親方はそう言いながら水の入った小瓶を渡す。

「これは?」

「ロンダサークではね。激励する人に水を持ってくるの」

 大切な水を分かち合うことで、水を持ってきた者は水を飲む者へ想いを伝えるのだという。

「ありがとう。人の頭はわらないけれど、しっかりたたくからね」

 親方だけではなかった。港湾関係者やシェラやクロッセの住む地区の人達が次々と激励に訪れていく。

 コップ一杯では収まらないくらい多くの水が少女のもとに集まるのだった。


「ご主人の様子はいかがでしたか?」

 シュトライゼは控えの天幕から戻ってきたハーナに声をかける。

「相変わらず不機嫌そうでした」

 苦笑するハーナだった。

「逃げなかっただけでも上出来です」

「逃げようがありませんよ。わたしが見張っているというのもありましたが、あの人が言い出した条件ですからね」

「これだけ目立つイベントにしてしまいましたからね」

「あなたのところやベラル師のところにまで怒鳴りこみに行ったみたいで、申し訳ないねぇ」

「ああ、私は構いませんよ。それも含めて今回のことは織り込み済みですから」

「ならいいんだけど、あの人は本当に表に出ることを嫌がるようになったからねぇ」

「今回、ここに引っ張りだせただけでも成功ですよ」

「稀代の名工と言われても、表だって何かしているわけじゃないからね」

「工の地区のことも含め、他の地区の人達に工の頭の技を見てもらうには良い機会です」

「エアリィちゃんには感謝しないとね」

「これからどうなるかは、エアリィ嬢次第ですかね」

「あなたも楽しんでいるようですね」

「それはもちろん」

 シュトライゼは微笑むとハーナを長老達のいる天幕へと案内していく。


 中央広場の中ほどにハルトとエアリィが座り作業する場所が用意され、大小さまざまな金属板が準備される。

 その二人が座る場所を囲むようにスタンドが設営されている。

 数千の人たちが来場しても大丈夫なように準備していたが、競技開始一時間前には埋まってしまうほどだった。

 気の早い人など夜明け前から一段目に陣取っていたという。

 準備していた会議所の事務員達がそれを知り慌てて顔役に知らせに行ったくらいである。

 シュトライゼは予定を前倒しして出店などの用意をさせる。

 さらに人を集め、会場にやって来る者達の整理にあてさせたのだった。


「ご来場のみなさん、お暑い中、よくいらして下さいました」

 シュトライゼが拡声器で会場中に聞こえるように話し始める。

「工の頭、マサ・ハルト氏とトレーダー、エアリィ・エルラド嬢の勝負をこれから始めたいと思います。勝負の方法はいたって簡単、三十分の間にどれだけの数の金属工芸品を造れるのか、その数と出来を競い合うものです」

 東西の入り口から少女と工の頭が姿を現す。

 シュトライゼの合図に一斉に拍手が巻き起こる。

 工の頭はぶっきらぼうに会釈しただけで笑いかけもしなかった。彼は用意された作業台にどっかと腰を下ろす。

 少女の方は港湾関係者の野太い声に応えて手を振りながら進み出る。

 さらにシュトライゼは二人の正面に位置する天幕に陣取る審査員、五家の長老達を一人一人紹介するのだった。

「立会人はわたくし、ロンダサーク商工会議所の顔役シュトライゼ・グリエが務めさせていただきます」

 続いてシュトライゼは少女と工の頭の経歴を簡単に説明していく。

 ただなんとなく集まった者達は、噂だけでしか知らなかった若かりし頃のハルトの偉業を知り、驚きと感嘆の声を上げる。


「暑いなぁ」

 少女は砂雲の向こう側の太陽に手をかざしながら見上げる。

 最初は観客の多さに圧倒されたが、じっくり周囲を見渡せるまでに落ち着いていた。

 十段くらいあるスタンドが広場を囲むように設営されていたが、そのすべてが人で埋まっている。ひさしはあったがそれでも彼らも暑そうだった。

 スタンドには港湾の監督さんや卸商の人達もいた。ローゼやケリオス、シルバーウィスパーの面々の姿もある。

「ここで商いをしたら、いったいどれだけ稼げるのかな?」

 少女はゆっくりと周囲を見回し、シュトライゼの集客力に感心する。

 水や飲み物、ジャンクフードを売る者達がスタンドを上へ下へと歩き回っている。

「こんなにも人がいるなんて」

 あらためてロンダサークの人の多さに驚くのだった。

「制限時間は三十分。始め!」

 大きな砂時計をひっくり返すとシュトライゼは合図の笛を吹く。

 工の頭は無造作に金属板をつかむと、ハンマーを振り上げる。

 力強い音が響き渡る。

 その力強さと振り下ろされる金槌の速さとテンポの良さに観衆は目を奪われる。

「す、すごい……」

 少女はあらためてその強さと華麗さに圧倒される。

「エアリィ!」

 シェラの声が少女の耳に届く。

 我に返った少女は深く息を吸うと目を閉じる。

「あぶない、あぶない。シェラに感謝」

 音の響きを確認すると手にした金属板を動かしながらハンマーを打ち付ける。

「こんなリズムかな」


「久しぶりにハルト氏の打ち込みを見ましたが、相変わらずその腕は鈍っていないようですね」

「華麗かつ、重厚な動きですね」

 長老達は頷き合う。

「ナルダン、ガザロフといった者達に並ぶとも劣らぬ仕事ぶりですな」

 かつての名工の名を上げて、作品を比べていく長老達だった

「マサはマサですよ。確かに彼は稀代の名工ではあるが、彼とて一人の人間ですからね。あなた方のその褒め言葉が彼を今の状況に追い込んだのがおわかりですか?」

「どうしてだ? かつての名工と並び称されるのだぞ」

「賞賛は確かに嬉しいものかもしれない。しかし、過去のものと比べられてはね」

「それのどこが不満だというのだ」

「マサが心をこめて作り上げたものは彼自身の作品です。彼のね。過去のことと比べられてあなたは面白いですか? 挑もうにも彼らはすでにいない。どんなに頑張ろうと超えることができないんですよ。彼は彼として見てもらいたかったのにね」

「ハルトが工房にこもるようになったのは我らのせいだというのか?」

「そうですよ」

 それだけではなかったが。

 彼を食い物にした卸商の存在もあった。

「なぜだ?」

「私達が無神経すぎたのですよ。幼少のころから天才だといわれても、彼だって最初から今のように造れたわけではない。彼自身が努力した結果、ハルトはその実力をロンダサーク中に示した。彼が成し遂げたことをただ天才だの名工だのとだと片づけてしまうのは悲しすぎますよ」

「しかしだな」

「彼が何事もないようにやっていることも努力の結晶なのですよ。それにいくら腕を振るおうと彼の技を生かせる場所はほとんどなかった」

「ならば作ればよかろうに」

「どこにですか?」

「う……」

「それに理解できない者達に作っても仕方がないことでしょう?」

「なんと」

「ベラルもそうだったのかね?」

「どうでしょうかね」

 彼はにこやかに笑いかける。

「気、気をつけよう」

「それはどうも」


 少女が打ち出しを始めてすぐ、ハルトはそれに気付き、手を止めエアリィの動きを見つめる。

 一心不乱に叩き続ける少女は金属音にかき消されていたが鼻歌を歌っているようにも見えた。

 少女の手やその動きを見て、マサは鼻を鳴らす。本人も気づかぬうちに。

「少しはやるじゃねぇか、おもしれぇ。これならどうだ?」

 工の頭はさらに荒々しく金槌を振るう。

 それまでは機械のように正確にただ黙々と叩いていたのものが、耳を覆いたくなるような音が響き渡ったかと思うと、小刻みな動きへと変化していき、様々な音が響いていく。

 見る人にはただ乱打するように見えたかもしれない。

 だが少女にはその音の変化の意味が判った。

「ず、ずるいなぁ……あたしはまだこれくらいしかできないのに、もっとついて来いっていうの?」

 少女は、ようやくひとつ皿を造ると、新しい金属板を手に取りながら、苦笑する。

「せ~のっ♪」

 少女は負けじと金属板を叩き始める。

 その手際の良さは素人とは思えないものだった。

「昨日よりもうまくなっているわ」

 シェラが目を見張る。

「工の頭に勝てるでしょうか……」

 フィリアは彼女の手をとり、祈るように言った。

「もっと時間があれば……、でも、勝敗なんてどうでもいいのかも。あの子は、今を楽しんでいるわ」


「頭、笑ってませんか?」

「笑ってるねぇ」

 アベルの言葉にハーナも頷く。

「無愛想な顔して始めたはずなのに……、それにおれら頭があんな風に叩くの見たことありませんよ」

「いつ以来だろうねぇ……」

 ハーナは微笑む。

 下積みだった頃、結婚したばかりの頃、小さな工房をかまえた頃はあんなに楽しそうに一生懸命に金槌を振るい物造りに励んでいたはずなのに、いつしか作る楽しさまで彼は忘れてしまっていた。

「あの子が叩きだしてからかしらね?」

「そ、そうでしょうか」

「なんにせよ。いいことだよ」

 ハーナは笑った。

 後にそのことを妻に指摘されたマサは、顔を真っ赤にして否定したという。


 三十分という時間は瞬く間にすぎていく。

 充実していたような、物足りないような、もっと工の頭と叩き続けていたかったような、そんな気持ちだった。

 汗をぬぐうと、気持ちよく用意された水を飲み干す。

 水がなによりもおいしく感じられた。

 少女は机の上にできた品を並べると控えの天幕に戻った。

 工の頭の作品と見比べるとみすぼらしい出来だったが、それでも今まで一番充実していた。

「お疲れ様、体は大丈夫?」

 シェラがいる。フィリア、マーサもいる。

 振り返ればあとからやってきたのだろう親方が入り口で腕組みして立っていた。

「うん。楽しかったよ」

 少女はシェラに抱きついた。

「その気持ち伝わったよ」

「わたしにも判りましたよ。お嬢様」

 フィリアも抱きついてくる。

「まあ、勝てなくちゃ意味がないんだけどね」

 少女はもみくちゃにされながら笑った。

「嬢ちゃんは勝つさ、俺だったら嬢ちゃんに満点つける!」

「無茶苦茶だよ……」

「なに言ってやがる。今までやったことの無かった板金加工をこの短期間でやり遂げたんだぞ。ハンディがあったっていいじゃねぇか」

「これは勝負だから、公平にってシュトライゼさんにはお願いしたわ」

「それじゃあ、どうするんだよ」

「どうしようかな」

 少女は頭をかきながら苦笑いする。

 か細い糸が途切れようとしている。

 それなのに今はただ満足だった。


「さすがはハルトだね」

「食器というよりは芸術品ですね」

 テーブルの上に並べられたのは、大小様々な食器だった。

 いまにも食事が始められそうな、見ているものにそういう感覚にすらさせる。

「途中から彫金も施していましたからね」

 光の加減すら計算に入れているかのように、小さなアクセントに食器に模様が入っている。

「余裕すら感じられたね」

「まったく天才とはこういうことを言うのだろうな」

 頷き合うネクテリアやカリブスたちだった。

「けっ、どいつもこいつも判っちゃいねぇな!」

 突然の声にベラル以外はギョッとして振り返る。

「き、きみは控えにいるはずだろう」

「うるせぇな。どいつもこいつも、昔っから同じようなことばかり言いやがって! まったくくだらねぇ、おい、ベラル、おめぇさんはどうなんだ、さっきから無言で見てやがったが」

「まあ、芸術品としてはいいんじゃないかな。普段使うには向かないだろうけどね」

「そのつもりで作ったからな。てめぇらへの嫌がらせだ。芸術品だなんだとありがたがるやつらにくれてやるためにな」

「でも、最後の一枚は違うのだろう?」

「ふん」

 顔をそむけながら鼻を鳴らす。

「誰もが使っている軽くて丈夫な皿だ。エアリィのと同じ、唯一あの子と対等に作ったものだよね」

「けっ、見たいなら見やがれ」

 テーブルには並べなかった皿をベラルに手渡す。

「そうさせてもらうよ。ありがとう」

 何の変哲もない皿を大事そうに抱える。

「それは、ベラル。お前さんに任せる」

 ハルトはそういうと少女の皿のもとへと歩いていく。

 シュトライゼは彼の気のすむようにさせていた。

 立会人や審査員の天幕に勝負している当人が入ることはいまだかつてなかったことだ。それはルールに反することだった。

 それでも構わず少女の皿を手に取り、あらゆる角度からそれを眺めたり、指ではじいて音や感触などを確かめる。

 その目は真剣そのものだった。

 他の長老達は茫然とその姿を眺めているだけだった。

 しばらく少女の皿を見つめると、工の頭は納得したように頷くと天幕をあとにする。

「さて、五家の方々審査のほうはよろしいでしょうか?」

 シュトライゼは眼鏡の位置を直すと微笑んだ。



 5.



「審査の結果を報告させていただきます」

 広場の中央に立つシュトライゼ。

 その両脇にマサ・ハルトとエアリィ・エルラドが立つ。

「長老方の審査結果は、五対ゼロで工の頭、マサ・ハルトの完全勝利となります!」

 パラパラと拍手が起こる。

 勝敗はあっけなくついたといってもいいかもしれない。

 噂にしか聞いたことのない工の頭の技を見ることが出来ただけでも来場した者達にとっては満足のいくものだったといえるだろう。

 結果は誰の目にも明らかだった。

 ただ一人を除いて。

「ちょっと、待った!」

 その大きな声に異議を唱えようとしていた親方は機先をそがれる。

「おや、ハルトさんどうしました? あなたの勝利ですが、なにか問題でも?」

「うるせぇなぁ、どうせこの先はお前が望んだことだろうが!」

 工の頭はシュトライゼの頭を軽く殴ると少女の前に立つ。

「おい、お前」

「エアリィです」

 見上げるような巨体を前に少女は気後れせずに答えた。

「ふん。まあいい、お前、本当にやったことがないのか?」

「ありません」

「手を見せろ」

 反射的に後ろに隠した右手を工の頭は掴み引き寄せる。

「手を開いてみせろ」

 少女は不承不承握っていた手を開く。

「まったくこんなになるまでやりやがって……、毎日いったいどれくらい叩いていた?」

「……商いが終わって日が暮れるまで……」

 少女は小さな声で呟いた。

「おれがお前くらいのときでも、毎日こんなになるくらい叩いたことはねぇぞ」

「だって……」

「一回見ただけで、ここまでやりやがるかよ。むかつくやつだな」

「あたしは……その、さっき、頭と一緒に勝負できて楽しかったよ」

「負けたくせに楽しいのかよ」

「だってしょうがないじゃないですか、本当のことですから」

「まったく腹が立つ、まったく気にいらねぇ」

 工の頭は何度も同じ言葉を繰り返す。

「シュトライゼ、拡声器を貸せ!」

 その手から拡声器を奪い取る。

 耳を覆いたくなるような声が響き渡る。

「ベラル! お前に渡した物の審査はどうだったんだ!」

「いまさら結果を聞いてどうしようというかな?」

 天幕から一枚の皿を手にベラル・レイブラリーが進み出る。

 彼を呼び捨てにするなどマサくらいのものだろう。

「いいから答えろ!」

「ベラル師が、し、審査って……?」

「出来からすれば、君に勝るものはないよ。その技はロンダサークの至宝といえるものだろう。この皿でさえ見事なものだ」ベラルは答える。「しかし」

「しかし、なんだ」

「しかし、そこに込められた魂はどうだろうか。最後の一枚が唯一、心込めたものではないだろうか。エアリィ、君は叩いているときにどんなことを考えた?」

「えっと、ただ夢中でした」

「ただ叩いていたわけではないだろう? 使う人のことや見る人のことを考えていたのではないか? 我らへの皮肉を込めた君のものとは違っていただろうね。それらを考慮すれば、この一枚で引き分けというところだろう」

「それが、お前の判断か!」

「私自身の目で見た考えだ」

「判った」

 慢心があったのも事実だ。

「いいか、てめぇら、よく聞きやがれ! 何でこの場で最初にシュトライゼの野郎が言わなかったのかしらねぇが、こいつはまったくのど素人、初心者だ! おれは実演してみせただけで、うちの弟子が教えたのも一回っきりだ。そんな奴が二週間やそこらでこんな皿を作りやがった。てめぇらに判るか。おれはなぁ、さんざん天才だの名工などと言われてきたが、こんな短期間でこんなに見事に皿を仕上げたことはねぇ」

「おや、いまさら審査結果が出てから、そんなことを言われても」

「うるせぇなぁ、ベラルが引き分けだって言ってるんだぞ」

「ベラル師が引き分けにつけたとしても、四人の長老があなたを勝者としている」

「人がどうでもいいと思って造った物をありがたがるような連中の採点なんてどうでもいいんだよ」

 四人の長老を指差し、睨みつける。

「なにを怒っているんです?」

「五家の連中はおれを勝者としている」

 シュトライゼを無視しマサは拡声器をとおして大声を張り上げる。

 ロンダサーク中に響くのではないかという声だった。

「しかし、おれ自身は勝った気がしねぇ、いや、はっきり言えばおれの負けだ!」

 工の頭の言葉に会場は騒然となる。

「くだらねぇことで本質を忘れていた自分が情けねぇ。ベラルが言ったことは、そういうことだ」

 マサ・ハルトは改めて少女に向き直る。

「すまなかった」

 公式の場で頭を下げるマサを見て、ハーナを始め彼を知る人々は皆驚いた。

 驚愕の声がちらほら上がるのだった。

「あ、いえ」

 少女も突然頭を下げられなんて答えていいか判らなかった。頭の中が真っ白になっている。

「今頃ですか?」

「いちいちおめぇはうるせぇんだよ!」

 シュトライゼにマサは蹴りを入れようとするがかわされる。

「最初から素直になっていればいいものを」

「おれは優れたものは認めるんだよ」

「ようやくですか、人を見る目がありませんね」

「こういう場でなかったら、ハンマーで殴ってるところだぞ」

「それは怖いですね」

「ふん。おめぇになんかかまっていられるか。いいか、お前、おれの弟子になれ!」

「えぇぇぇ!」

 唐突なマサの言葉に少女は驚きの声を上げる。

「異議あり!」

 ベラルが声を上げる。

 物静かな彼にしては珍しい光景だった。

「マサ、それは困る。エアリィは私の弟子なのだから」

「弟子じゃねぇって、こいつは言っているぞ」

「そんなことはありません。それにこれは譲れません」

「ど、どうして、あたしが弟子に?」

「そんなの関係ぇねぇよ、おれが今決めたんだよ、ベラル。こいつは才能がある。だから、おれが育てる」

「あれだけ無視していたのに、今さらそれはねぇ」

「シュトライゼ、お前は黙ってろ!」

「エアリィの才能を見抜いたのは私が先です。私こそが彼女の才能を伸ばせるのです、渡せませんよ」

「いいや、おれがもらう」

「さんざんあのようなことを言っておいてですか?」

「おめぇはしつこいな。だからあれはだなぁ」

「素直になったらどうです」

「い、いわれなくたってだな」

 少女に再び向き直ろうとした時、ベラルが割って入る。

「エアリィは私の弟子ですからね」

「いいから、そこをどけ、ベラル。話がすすまねぇ」

「おおっと、ここで今度は、エアリィ嬢をめぐって、ベラル・レイブラリー師とマサ・ハルト氏の勝負が見られるか?」

 シュトライゼの言葉に、スタンドからはどよめきがわき起こる。

「おめぇはどこまで人を見世物にすれば気が済むんだ!」

「立会人はわたくしが務めさせていただきますよ」

「そいつぁ、楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ。この石頭やろうが、弟子だなんだっていうんだったら、俺様だって嬢ちゃんが欲しいやな。うちの船の次の親方として育ててぇんだよ」

「親方のところは息子さんがいるだろうに」

「あんなとうへんぼくよりは、嬢ちゃんの方が筋がいいんだよ」

「……だ、だから、あたしはトレーダーだっていっているじゃない……」

「いやいや、彼女は僕の助手です。前から僕の仕事を手伝ってくれているし、お店の共同経営者ですし」

「な、なんで、クロッセまで来るのよ……」

「な、なんか、シェラがね」

 彼女に背中を押され出てきたらしい。

「収拾がつかないわよぉ!」

「なるほど、皆さんの話は判りました。ここはわたくしがエアリィ嬢を商工会議所の次期、顔役にするということで話を付けようではありませんか」

「シュ、シュトライゼさんまでなにを言いだすのですか!」

 シュトライゼが自分の後継者に育てたいと言い出すに至り、スタンドはさらに騒然となり、彼ら群衆は、工の頭や長老、親方、顔役といった面々をそれぞれに応援しあうのだった。

 その中心で少女はただおろおろするばかりであった。

 珍しい少女の表情や様子を見てシェラは微笑んだ。

 少女を囲む彼らはのちに少女とさらに深く関わりを持つことになるが、それはまた別の話になる。

 ただ、彼らによって少女の名はロンダサーク中に広まっていく。

 それは様々な垣根を越えていくのだった。



 6.



 空が朱色に染まり始める。

 誰もいなくなったスタンドを少女は一人見回す。

 ベラル師をはじめマサや親方、シュトライゼ、クロッセによる争奪戦は、結局、少女が選ぶということで決着が付いた。

 そこに至るまでベラルを除いた五家の長老達は観衆を納得させるのにかなりの時間を要することになる。

 それでも、彼ら五人の少女へのアピール合戦は観ている者を飽きさせなかった。

 あれだけ騒がしかった会場も今は静まり返っている。

「こんなに広くて大きかったんだ……」

 スタンドは人で埋まっていた時よりもずっと大きく巨大に見えた。

 明日にはこのスタンドも撤去されるという。

 今はがらんとして寂しさすら感じられる。

「エアリィ、ここにいたのね」

「シェラ」

 振り返るとシェラがやって来て少女の隣に立つ。

 離れたところではマーサやクロッセ達が待っている。

「どうかしたの?」

「さっきまでのことがウソのようなの」

「どうして?」

「マサさんがあたしにあやまってくれたこととか、まるで夢を見ているようで、本当にあったことなのかな?」

「夢なんかじゃないわ。あなたは奇跡を起こしたのよ」

「奇跡?」

「いいえ、奇跡なんかじゃないわね。あなたは努力とどんな時にも諦めない強い意思でやり遂げたのよね」

 シェラは少女の肩を引き寄せる。

「あたしはそんなに強くないよ……」

 少女はシェラに体を預ける。

 緊張の糸が切れたのか声が震えている。

「みんながいてくれたから……そうじゃなかったらここまで来ることができなかったよ……」

「あなたの周りに人がたえないのは、あなたが頑張っているから」

「そんなことない。あたしはただ意地っ張りで、なにもできないくせしてまわりに迷惑ばかりかけて……」

「それも含めて、一生懸命なあなたにひかれたからよ」

「……なんでそんなにみんな優しいの……」

 涙があふれ出す。

 シェラは少女をスタンドに座らせると隣に腰を下ろし優しく包み込む。

 あふれる涙も拭かず、少女は彼女の腕の中で小さくすすり泣き続ける。

「人が人にひかれるのに理由はないわ。わたしはあなたが大好き。それは皆も同じだと思う」

 誇ってもいい。シェラはそう言って少女の頭をなでる。

「そういうことだな」

 暮れなずむ夕日の中にマサが立っている。

 少女は慌てて涙をふき立ち上がる。

「なんで? どうしてここに?」

「今まですまなかったな」

 少女の顔をまっすぐに見つめ工の頭は言った。

「結局、あのあとバタバタしちまって、ろくに話もできたもんじゃなかったからな。あらためてだ」

「わ、わざわざ……その、ありがとうございます」

「礼を言われるようなことはしちゃいねぇ」

「そ、そんなことありません。あたしも、その……工の頭にいやな思いまでさせて」

「確かにな。人の迷惑も顧みずズカズカと踏み込んで来てくれたよ」

「すいません」

「でもな。お前さんはベラルやシュトライゼに言ったそうじゃないか、お前さん個人としておれとつき合いたいってな」

「今もその気持ちは変わりません」

「そうか。おれは若いころ過去の名工達と比べられるのが嫌でたまらなかった。どんなに頑張ろうと、おれじゃなくなっていく」

 その挙句、ヴィレッジや商人に騙された。

「だが、おれはおれだった。そういうことだったんだよな。まったくお前さんには教えられたよ。あの頃のおれがそうだったとしたら、今とはもっと違っていたかもしれねぇなって」

「マサさんだからこそついてきてくれるお弟子さんや工の地区の人がいます。それに、あたしは後悔したくなかったから」

「そうだな。こんな歳になって気付いたんじゃしょうがねぇからな」

「そんなことはありません。マサさんはまだまだ若いです」

「まあ気持ちじゃ、若い奴らにゃ負ける気がしねぇがな」

 マサは力こぶをつくり笑った。

 その力強さに少女も微笑む。

「おれはトレーダーもヴィレッジも大っ嫌いだ。それは今も変わりねぇ」

 マサはそう言いながらもにやりと笑った。

「だが、エアリィ」

「えっ、あ、はい」

「よろしく頼む」

 マサは手を差し出した。

 その手を少女はキョトンと見つめる。

「まったく、もう少しちゃんと言ってあげなければエアリィ嬢のほうが戸惑っているではありませんか」

「まったくだぜ」

「てめぇらはうるせぇんだよ。これからちゃんと言うところだよ!」

 後ろから現れたシュトライゼと親方にマサは拳を振るう。

 親方は片手でそれを受け止める。

「そうですか。では続きをどうぞ」

「あ~っ、それでだ」

「これって、その」

「そうだよ。ウォーカーキャリアの修理を手伝おう」

「はい」

「明日からでも大丈夫か?」

「はい、はい!」

 少女は何度も頷いた。

「シェラ、親方、シュトライゼさん。これって夢じゃないですよね!」

 少女に彼らも何度も頷く。

「マサさん。ありがとうございます。そして、これからはよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ、よろしく頼む。エアリィ」

 抱きついてきた少女に戸惑いながらも、マサは少女をあらためて名前で呼ぶ。

 その様子をベラル達も微笑みながら見つめるのだった。

「ねぇ、マサさん」

「なんだ?」

「紙飛行機、飛ばしましょう!」

「ここでか?」

「うん。マサさんとの記念に!」

「記念か……悪くねぇな」

「そうでしょう。ねぇ、みんなもやろう!」

 少女はクロッセやマーサ、ハーナも呼ぶ。

「紙はあるのか?」

 ショルダーバッグから少女は紙の束を取り出す。

 不安げに見守るシェラにウインクしながら大丈夫と合図する。

 興味津々集まってきた大人達に少女は紙を手渡し、紙飛行機の作り方を実演してみせる。

「ほお、面白いな」

 ベラルはその様子を見つめながら、優しくシェラの肩に手を置く。

「よし! 一番遠くに飛ばした奴がエアリィを弟子にするってのはどうだ!」

「な、なんでそうなるのですか!」

 少女が慌てて止めようとするが、親方がそれにのり、クロッセやシュトライゼも続いた。

「ベラル師まで……」

 大人達ののりの良さに少女を呆れさせる。

 マサは隠れて紙飛行機をいろいろと調べていたのだろうか自信ありげに紙を折りバランスを確かめている。

「ど、どうしよう、シェラ」

「大丈夫よ」

 不安だったシェラも少女やベラルに励まされ、笑っていた。

 この時の結果から先にいうと、シェラの圧勝だった。彼女の紙飛行機は夕方の風に乗り誰よりも遠くまで飛んでいったのである。

 全員がスタンドの二段目に乗り、声を合わせて紙飛行機を飛ばす。

 赤紫に染まった空のもと、紙飛行機は様々な方向に飛んでいく。

 自分の投げた紙飛行機とともにシェラの手を取り少女はそれらを追いかけていくのだった。

「シェラ」

「なに?」

「あたしは、絶対に飛ぶよ。だから、シェラもあきらめないで頑張ろうね」

 シェラの姿は少女の言葉に何度も頷いているように見えたという。

「あたしは、もっと遠くへ、もっと高く、飛ぶわ!」

 天を指差し少女は高らかに宣言した。

 それはのちに語り継がれる始まりの一歩。

 長い道のりの始まりにすぎなかったが、大きな一歩だった。


 ガリア。

 それは新たなる地平。未知なる大地。

 地を焦がす太陽、空を覆う砂雲、地平のかなたまで広がる砂漠。

 それでもなお人はガリアに生きる。

 屈することなく力強く。

 人は俯かず前を向き前進し続ける。



  <第十一話 了>

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