第183話 勇者城東 村人A奈落 ③


 「やばっ、ちょっと回復しますね。『念臨歌』。」


 「うおりゃっ!チッ、もうちょっとダメージ上がんねぇのか?」


 「いや、ちょっとくらい他のステータスに振ってみても良いんじゃないですか?スライムからの攻撃でも、体力が五分の一になるんじゃ、これから先のモンスター相手だと大変ですよ?」


 城東さんに『寺息子』の初期回復スキル『念臨歌』を選択しながら、残り魔力量を確認すると、僅か20%しか残っていなかった。


 俺達は今、チュートリアルに沿って、道具屋や武器屋、防具屋を訪れた後、序盤のおすすめエリア『はじまりの草原』で、レベルアップとお金稼ぎに励んでいる。

 このエリアに登場するモンスターは、スライムや俊足ラビットのような、雑魚モンスターと教えられていたのだが、どうやら、『ネタ職業』を選んでしまうと、ここですらキツイようだ。

 それならと、もう少しまともな武器や防具を買おうとしてみたが、なんとこのゲーム、序盤の所持金は0ゴールド。体力を20%回復する『やくそう』すら、手に入れることは出来ない。


 「城東さん、どうします?そろそろ、野営の準備を始めた方が良い気がすますけど?・・・・宿屋が使えたら楽だったんですけどね。」


 「あー、・・・そうするか!奈落の魔力が無きゃ、俺も戦えないしな!宿屋は・・・・しょうがなくねぇか?あんなの、罠だろ罠!!」


 コントローラーを操作し、『野営』コマンド選択すると、画面内で俺達のキャラクター達が焚火を起こしたり、簡易テントを立てたりと、忙しそうに動き回る。

 『野営』とは、エリア内に設置されているセーフティエリア内でのみ行えるコマンドで、キャラクターの状態異常を回復し、体力と魔力を全体の70%まで回復することが出来る。


 それなら、キャラクターの体力などを100%まで回復するには、どうしたら良いのかと言うと、それぞれの町にある『宿屋』に泊まることで回復出来るらしいのだ。

 しかしここで、俺達が街の散策中にやらかしてしまったことが響いてしまう。


 実は、俺達の所持金が0ゴールドで、何も買えないと嘆いている時に、城東さんのコメント欄の方で〈町中にある樽や箱を壊せば、アイテムを手に入れられますよ?〉と言うコメントを発見してしまった。

 それを見た俺達は、街中にある箱や瓶を嬉々として破壊していたのだが、大体3つ目の箱を壊した途端、画面上に『指名手配中』の文字が現れた。

 俺が、慌ててコメント欄を見てみれば〈騙されてやんの!ww〉〈マジで壊したwwwww〉等のコメントで溢れかえり、調べてみれば『指名手配中は、町の機能を一切使用できなくなり、NPCの兵士に捕まれば、ゲーム時間で約1日のステータスダウンが発生する』らしい。

 要は、まぁ、騙されたわけだ。


 「クソッ!エンカウントだっけ?なんでこんなにも起きるんだよ!!」


 「うわっ、ダンディウルフが4匹も?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る