第162話 インファイト
「良いか?そこから一歩でも動きやがったら、こいつを殺すからな?」
「グッ!カッ!ハァァッ!ハァ、駄目っ!逃げてっ!」
緒恋さんの後ろに回り込み、右手で緒恋さんの首を絞めながら、左手に持っている包丁を首筋に強く当てている。
首を絞める強さを加減しているのか、緒恋さんも何とか呼吸が出来ているようだが、近づこうとすれば、包丁で頸動脈辺りを切られるか、首の締め付けを強くしてしまうかもしれない。もしくは、後ろのベランダから飛び降りてしまうか。
チラッと、目線を横に向けると、城東さんと腹一さんがアイコンタクトを交わしているのが見えた。
ちょっと、試してみるか。
「あんた、緒恋さんの父親なんだろ?何でこんなことをするんだ?」
「はっ!そんなこと、てめぇらには関係が無いだろうが!!おいっ!無駄な時間稼ぎは止めろ!!さっさと、そこをどけ!!」
なるほど。今は、死ぬつもりは無いらしい。
狙いは、緒恋さんの身柄か?
「それにしても、どうやって留置所から抜け出して来たんだ?確か、事故を起こしてからまだ、解放される筈は無いと思うんだが?」
「そんなの、味方が居るからに決まってんだろ!!ん?そう言えば、俺が轢いた奴の顔に似てるな?チッ、死んでなかったのかよ!!」
味方?警察内部にか?
普通の一般人に、そんなコネクションがあるとは思えないんだが。
自分の未来を掛けてまで、この男を助けようと思う人は居るのだろうか?
「もう良いだろ!!!!さっさと、そこをどけ!!!」
「ああ、分かった分かった!!ほら、行けよ。」
部屋の入口までの廊下を、俺と城東さん腹一さんの間を空ける。
空いたスペースは、約人一人分。
「へっ!最初からそうすれば良いんだよ!!チッ、余計な時間を使わせやがって!面倒なのが来たらどうすんだ!!良いか?無駄な抵抗をしたら、こいつを殺すからな!!動くなよ!!」
そう言うと、ゆっくりこちらに近づきながら、俺らの間を通ろうとする。その間も、緒恋さんの首元には、しっかりと包丁を添えながら。
そうして、俺らの間を通り抜けようとした瞬間、城東さんが動く。
「ふっ!」
「がぁっ!「カランッカランッ」痛つっ!はなっ!離せっ!!」
城東さんは、首元に添えられている包丁を持つ左腕と、緒恋さんとの間に腕を滑り込ませながら引き剝がし、包丁を持つ手首を握り潰した。
すると、手首の痛みから包丁を手放し、城東さんの拘束から抜け出そうとしているが、そこに腹一さんも近づいて行き、スーツのポケットから取り出したボールペンで、躊躇なく右腕を刺した。
男は、あまりの激痛に緒恋さんを手放すと同時に、城東さんの拘束から抜け出す。その顔は、怒りと痛みによる涙で、グチャグチャだ。
俺は慌てて、倒れ落ちる緒恋さんを受け止め、男を見る。
「クソッ!!ふざけんな!!!何で邪魔するんだよ!!てめぇらには関係ねぇじゃねぇか!!!クソがぁぁl!!!」
「マジか!俺かよ!」
そう叫びながら、俺の方に殴りかかって来た。
緒恋さんを抱えているせいで、避けられそうにはない。
覚悟を決め、目を瞑ると同時に「ドスンッ!!」という、叩きつけられたような音が鳴る。
恐る恐る目を開けると、男を背負い投げしたような状態の、腹一さんの姿があった。
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