第151話 なんでやねん


 朝から嫌なものを見てしまったことに、気分が落ち込みそうになるが、その前に緒恋さんの心配をした方が良いだろう。

 緒恋さんの方を見れば、席で俯きながら震えていた為、急ぎ足で席に向かう。


 「緒恋さん、大丈夫ですか?それにしても、迷惑なお客さんでしたね!」


 全く気の利いていない言葉で声を掛けると、一瞬ビクッと体を震わせたが、顔を上げて俺の顔を確認すると、安心したような表情を見せた。


 「奈落さん!!こちらこそ、変な物を見せてしまってすみません!もうちょっと早く、奈落さんが来てくれたのなら、大丈夫だったのかもしれないですけどね!」


 軽い冗談を言えるくらいには、大丈夫なようだ。まぁ、こんな冗談を言って来たのは初めてだった為、僅かながらにもまだ、動揺を隠せていないみたいだ。


 「ははっ、今度からは、もう少し早く来ますね。それじゃあ改めて、相談を「っ離れろ⁉離れるんだ⁉」っ⁉「ガシャッーーーン!!!」」


 突如、先程と同じ入り口から、警備員が声を張り上げたと同時に、入り口のガラスを破りながら、軽自動車がこちらに向かって突っ込んで来た。

 一直線に向かってくる車から逃れる為に、離れようと緒恋さんの方を見れば、突然の出来事に腰を抜かしてしまっているようだ。その間も、軽自動車は速度を上げ、椅子やテーブルを跳ね飛ばしながら、

 慌てて、緒恋さんの腕を掴み、席から無理矢理立たせるが、足がすくんでしまい、上手く歩けない。気付けばもう、軽自動車は目前に迫っていたその瞬間、俺は無意識にも、緒恋さんを安全な場所に向かって思いっきり突き飛ばし、軽自動車に跳ねられていた。


 軽自動車と接触する直前、フロントガラス越しに見えたのは、入り口で警備員と口論していた男性の顔だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 って感じらしい。

 高太郎さん自身も、現場に居た訳ではないし、緒恋さんからしても、突然の出来事でパニックに陥ってしまっていたようだ。

 一応、一階に居た他の警備員やスタッフからの情報で、ある程度のことは伝わっていたようだが、確実な情報では無いからな。


 「それで、の動機は?」


 「犯人?あれ?今回起きた事が、事故では無いってこと、私は話したかな?」


 「いや、あれで『事故だ!!』って言い張る方がおかしいですよ!確か、意識を失う前に見た運転席の男は、緒恋さんと何らかの関係があった人ですよね?だから、緒恋さんが謝っているんだろうし。」


 と言うか、あの男と俺には直接的な関係は無いのに、何でこんな面倒なことになってるんだろ?ほんと、なんでやねん!

 使い方、合ってるか分からないけど。


 「まあねぇ、それについては本人から聞くか、デリケートな問題として触れないで置いた方が良いかもね!その前に、奈落君は身体を休めようか!」


 そう言うと、未だに泣きながら謝り続けている緒恋さんを連れて、部屋から出て行ってしまった。

 確かに、起きているだけで体が少し痛むが、もうちょっと何か話したかったな。


 「マジで、最近ツイて無いな。一回お祓いでも受けておくか?」


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