第150話 再来

午前10時


 あれから、『この時間に菓子パンはミスったかな?』なんて後悔を残しながら部屋に戻り、就寝に入ろうかと考えたところで、『そう言えば、切り抜き動画を試しに作ってみようかなって、考えてたんだよなぁ』と言う、思いつきの行動に走ってしまった。

 その結果、この時間まで切り抜き動画の作成に時間を割いてしまった上に、完全なる寝不足状態に陥ってしまっている。

 普段なら、このような行動は取らないと筈なのだが、無意識に、俺も何かを感じ取っている事への前触れなのだろうか?


 どう考えても計画性が無かっただけの、馬鹿な冗談は置いといて、今日は緒恋さんとの相談会の日だ。


 前回、緒恋さんからの相談を受けた後に連絡を貰い、一週間に一回くらいの頻度で、相談会を開くことになった。

 緒恋さんは、雑談中に視聴者から受ける話題の振り方、新たにニュースとして取り上げるのなら、どのようなジャンルが良いのか?みたいな相談を俺が受け、俺からは、最近のホットな話題等のニュース、世間から注目されているインフルエンサー、特に個人勢Vtuber関連の情報を貰っている。

 やはり、緒恋さんは情報収集能力に長けているのか、幅広いジャンルを扱っているにも関わらず、情報一つ一つの質が高い事には驚かせられる。まぁ、本人は気付いていないのだろうが。


 乗っていたエレベーターの扉が開くと、遠目に緒恋さんが席に座るのが見えた。

 急いで、緒恋さんの方に向かおうとする途中、会社の入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


 「ちょっと話すくらい良いじゃねぇかよ!!!父親なんだぞ?父親!!お前らみたいな部外者には、関係の無い話だろうが!!」


 「未希さん本人から確認が取れていない時点で、あなたは部外者と同じ立場なんです!私達も仕事なので、どうぞお引き取り下さい!」


 見ると、昨日の夜にも押し掛けて来た男性と、同じような格好をしている人が警備員と揉めていた。

 恐らく、話している内容からして同一人物のようだが、髪はボサボサで顔は真っ赤だった。近くに居る警備員が顔を顰めているのを見るに、酔っ払っているのだろうか。

 運の悪いことに、昨日男性をあしらっていた警備員は近くに居ないようだ。時間的に、交代しているのかもしれない。


 「安月給の癖に、てめぇらも生意気だなぁ!!おい!!って、あぁん?おい、未希の野郎なら其処に居るじゃねぇかよ!!!どけっ!!道を開けろ!!」


 突如、緒恋さんの方を指さしたかと思うと、警備員を押し退け、無理矢理にでも入ろうとしてくる男性を、警備員三人がかりで止めている。どうやら、緒恋さんが座っている席が、入り口の方から見えてしまったようだ。

 緒恋さんの方を見れば、信じられないものを見たかと言う表情をしながら、男性の方を怯えながら見ている。

 

 「クソッ!分かった、分かったから離せよ!!!っ、未希!!てめぇだけは、絶対に逃がさねぇからな!!分かったな!!!」


 流石に分が悪いと感じたのか、未希さんの方を見ながら怒鳴り声を上げた後、駐車場の方に消えていった。


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