第134話 鏡面と狂面
「そこからはネットで流れた情報と一緒だ。・・全身に傷を負いながら、不良共を一人一人刺し続け、気付いた時には病院に運ばれていたよ・・・。俺と沙也加以外、生きて居なかったらしい。」
「そんなことが・・・・・。」
城東さんに、そんな過去があるなんてな。
俺も、感情に振り回されて人を殺したことがあるから分かるが、『人を殺した』と言う認識を、持つことが出来ないんだよな。その時の記憶を、自己防衛の結果、忘れてしまうのかもしれない。
「事件後、警察からの事情聴取の結果、誘拐事件として扱われ、俺達に対して刑罰が下ることは無かった。でも、周りの人間がそんな目で見てくれる訳がねぇ。沙也加へのいじめや、母さんの仕事場での悪影響、ヤバい時は、他所の不良が俺の学校にまで押しかけて来て、何故か喧嘩を吹っかけて来たこともあった。」
「なんでそんなことを?」
「どうやら、不良の親族や友達連中が、俺のあること無いこと言いふらしまくって、損傷を加えようとしたようだ。母さんや妹を人質にしてな。」
「・・・それじゃあ、『不良と喧嘩ばかりして、問題行動を起こした』って情報は・・・。」
「ああ、その時の話だろう。まぁ、俺も家族を守る為とは言え、喧嘩をしたのは事実だし、退学になってしまったのも自業自得だしな。その結果、心労が溜まったのか、母さんは病気で亡くなってしまうし、俺と沙也加を殺そうとしたのか、二人で歩いているところに自動車が突っ込んで来たこともあった。そのせいで・・・・」
「もしかして、それで両足を?・・・・・ちなみに、警察は?」
「事故を起こした運転手だけをさっさと捕まえて、基本、見て見ぬふりだ!!・・
それから俺は、さらに荒れた。でも、それで良かったと思っている!!復習も果たせたしな!!」
何かを振り切ったような表情を浮かべながら、水を流し込む城東さんを見て、何処か親近感が沸いた気がした。
「ただな?そんな事ばかりしてたら、沙也加が可哀そうだろ?一回やり過ぎて、短期間だけ少年院に入ってしまった時は、めちゃくちゃ迷惑を掛けたからな!!それで、俺でも出来るアルバイトを探し回って、沙也加が望む生活を手に入れようと頑張っている訳だ!!」
そうか、この人も狂っているんだ。俺と同じで。
何か『癒し』だと感じられるものが無いと、落ち着かないし、生きている価値も見つからない。だから、ほとんど会話をしたことが無い俺に対し、土下座をしてまでお金を借りようと思ったのか。
自分の事は、どうでも良いから。
それでも、ここまで性格が安定しているのは、妹さんが何か理由を与えているのだろうな。『私が悲しむから、怪我をしないでね?』とか『私を一人にしたら怒るから!!』などかな?
「しょうがないですね、5万円だけ貸しますよ?でも、ちゃんと返してくださいね?俺だって、お金持ちって訳じゃあ無いんですから!」
「マジで!!サンキュー!!次の給料が入った時、一番に返すから!!」
嫌な過去を思い出したせいか、色々と口調も可笑しくなっている俺達だった。
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