第131話 シスコン


 玄関に着き、下駄箱から靴を取り出す。


 「・・今日は、あっさり引き上げたな。いつもなら、最低でも校門の前までは、付き纏って来るのにな。流石に諦めたのか?」


 結果的に、考えても無駄だと言う結論に至り、帰り道を歩く。

 家からこの高校までの間に、沙也加が通っている中学校もある為、帰る際は必ず、沙也加を迎えに行くようにしている。沙也加に変な虫が付いたら困るからな!


 若干、早歩きになりながら約6分程歩いていると、目的の中学校が見えて来る。

 校門には、いつものように中学校の用務員と一人の先生が見送りをしており、今日もベストタイミングで着くことが出来たようだ。ちなみに、何がベストタイミングかと言うと、沙也加が通っている中学校の、クラスホームルームが終わるのは、俺が通っている高校よりも、5分早く終わる。そして、沙也加が学校を出るまでに、友達と談笑する時間は、およそ5分~10分。それに加えて、沙也加の教室から校門までに辿り着く時間は、徒歩約3分。合計約15分~20分ものインターバルがある訳だ!

 これらを踏まえた上で、中学校の生徒が一斉に下校する『ラッシュタイム』が起きるのは、校門が開いた10分後と言う情報を加えれば、沙也加が学校から出てくる5分前、又は校門から出たところで、沙也加を迎えることが出来る完璧な戦略だ!


 一人、心の中で誇っていると、中学校の先生から、呆れられたような視線を向けられる。これに関しては、俺も迷惑を掛けてしまったことがある為、しょうがないだろう。

 最初の頃は、高校のホームルームが終わったと同時に、急いで中学校まで走り、校門の前で沙也加を待ち続けると言う、傍から見たら奇行とも呼べる行動を起こしてしまったからな。

 中学校の前で待機し続ける高校生とか、教師側からすると、色々と怖いだろうし。一回だけ、俺の通っている高校にまで報告があったらしいからな。そのせいで、俺がシスコンだって言う噂が、どんどん流れてしまったんだが。


 校門近くの定位置に立ち、流れ出てくる生徒の中から、沙也加を探す。しかし、5分経っても、一向に姿は見えない。


 「おかしいな、緊急の用事でも入ったか?昨日聞いた感じだと、特に予定は無かった筈なんだが・・・。」


 スマホで時間を確認すると、予定通りなら、沙也加と一緒に帰宅している時間を迎えていた。少しづつ、不安が押し寄せてくる。

 そんな時に、校門から沙也加と話していたところを見たことがある、女の子が出て来た。


 「えっと、確か、絵美里さんだっけ?沙也加って、今何してるか分かる?」


 急に走り寄って来た高校生に驚きながらも、俺の顔を見たことがあったのか、安心したような表情に戻った。


 「あぁ、沙也加のお兄さんですか!びっくりしたぁ。沙也加だったら、お兄さんのと、何処かに行きましたけど?」


 友達?俺に友達と呼べるような奴は居ない筈だ。それなら――― 

 色々な想定を頭の中で考えた後、一番最悪な状況が思い浮かび、俺の顔から血が引いていく。


 「・・・・何人居た?」


 「えーと、確か3人くらいですかね?何か、怖そうな人達でしたけど、真ん中に居た、ピアスを付けた男の人は、結構優しかったみたいですから!」


 「・・・髪は赤に染めてたか?」


 「そうです!あの髪色は目立ちますからね!・・・もしかして、危ない人達でしたか?」


 真っ赤な髪色にピアスを付けた男、間違いない!

 俺の高校に居る市長の息子、そいつが新しく仲間に引き入れたヤバい奴が、そんな風貌だった!!俺のところに嫌がらせに来た時に、後ろで目立ってたからか、しっかりと覚えている。


 「いや、そこまで問題じゃあないな。ちょっと、俺が迎えに行ってくるよ!ありがとう!!」


 そう言って俺は駆け出した。

 出来る事なら、絵美里さんとかに警察を呼んで貰った方が良いのかもしれないが、まだ事件が起きたかは、はっきりしていないし、もしかしたら、絵美里さんの方にも、しわ寄せが行ってしまうかもしれない。


 「頼む、頼む!!もう失いたくは無い!!!」


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